「おわハラ」ではなく、年齢差別を終わらせよう
内定を出した学生に就職活動を終わらせるよう強要する「おわハラ」が問題になっています。なぜこんなことが起こるかというと、高齢化による人手不足もあるでしょうが、いちばんの原因は、安倍政権の要請を受けた経団連が、「学業優先のため新卒の選考は8月から」という指針を出したことでしょう。
これはたんなる指針なので、経団連に加盟する大手企業は無視できないとしても、外資系や中小企業には関係ありません。そのためこれらの企業は、従来どおり4月から選考をはじめ、次々と内定を出して採用活動を終えています。ところが今年は、そのあとに金融など大手企業の選考があるのですから、これは人事担当者にとって大問題です。
内定を出した学生が大手企業に採用されたとすれば、入社を断ってくるのは8月後半や9月になってからです。それによって予定人数が足りなくなれば、そこからもういちど採用活動をやり直さなければなりません。その手間やコストを考えれば、内定者の拘束をいちがいに非難することはできません。
一般に、中小企業よりも大手企業の方が学生に人気がありますから、まず大手の選考があって、そこで採用されなかったり、もともと大手に興味のなかった学生が中小企業に応募する、というのが自然な流れです。ところが新しい制度では、この順番がまったく逆になっているのですから、これで混乱が起こらない方が不思議です。
そのため、大学や企業から、「誰にためにもならないこんな馬鹿馬鹿しいことはさっさと止めるべきだ」との声が出ています。しかしこれは、単純に「元に戻せばいい」という話ではありません。これまでの新卒採用制度がうまく機能しないことが、「改革」が求められた理由なのですから。
以前にも書きましたが、新卒一括採用などという摩訶不思議なことをやっている国は世界のなかで日本だけです。そのうえ、雇用対策法に定める「募集・採用における年齢制限禁止」の規定に明らかに違反しています。新卒に限定した採用が許されているのは、「日本的雇用」の特殊性に配慮した過渡的かつ例外的な措置なのです。
そう考えると、法律の完全な遵守を求められている官公庁(とりわけ厚生労働省)がいまでも新卒一括採用を行なっていることはきわめて異常です。これでは、どんな高尚な法の理念も特例措置で好きなように蹂躙できることになってしまいます。行政が率先して“不法行為”を行なっているのなら、誰も法を真面目に守ろうなどとは思わないでしょう。
経団連に加盟する大手企業も、海外の子会社では新卒一括採用などやっていないのですから、従業員を国籍で差別しているといわれてもしかたありません。だとしたら、選考時期をずらすなどという姑息な手段ではなく、「年齢にかかわらず最適な人材を通年で採用する」という真っ当な指針を出せばいいのです。
そもそも現在の新卒採用制度は、期間を限定することで採用市場を大混雑させるという、経済学のマッチング理論では最悪の制度です。やり方を変えるだけで現状をかんたんに改善できるのですから、「おわハラ」で大騒ぎするのではなく、行政やグローバル企業は先頭に立って採用における年齢差別を終わらせるべきでしょう。
『週刊プレイボーイ』2015年8月24日発売号
禁・無断転載