「金正恩の犬野郎のせいで人民が餓死」批判の落書きに平壌が騒然
昨年12月下旬、時まさに朝鮮労働党中央委員会第8期第4回総会を控えていた北朝鮮の首都・平壌で、金正恩総書記を批判する落書きが発見され、大騒ぎとなった。
デイリーNK内部情報筋によると、落書きが発見されたのは12月22日のこと。午前4時20分ごろ、平川(ピョンチョン)区域在住のキムさんがパトロール中に、マンションの外壁に落書きがされているのが見つかった。それはこのようなものだった。
「金正恩の犬野郎、人民がお前のせいで餓死している」
この「犬野郎」(ケーセッキ)という言葉は、朝鮮語のありふれた罵倒語であるが、神聖不可侵の存在である金正恩氏に対して使われたとなれば大変な政治的事件となる。
今のところ犯人は捕まっていないが、逮捕されれば極刑は免れないだろう。2018年に発生した落書き事件では、犯人の朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の作戦局上級参謀の大佐ら2人が、自動小銃で公開処刑され、家族は管理所(政治犯収容所)送りとなっている。また、李雪主(リ・ソルチュ)夫人のスキャンダルについて噂話をした芸能人たちも、公開処刑された。
(参考記事:女性芸能人たちを「失禁」させた金正恩氏の残酷ショー)
今回の案件は非常通報体系に基づき、人民班長(町内会長)から地域の保衛員(秘密警察)に通報され、平川区域保衛部→平壌市保衛部→国家保衛省、つまり秘密警察のトップにまで報告された。その後、国家保衛省、市、区域の保衛部が総動員され、事件現場を封鎖し、落書きを消す作業を行っている。
落書きが一般人に見られることそのものが、金正恩氏の権威失墜につながると考えられており、口コミで広がれば市中に不穏な空気が流れる結果を生むからだ。
前述した2018年の事件の後、平壌で同様の事件は起きていなかった。しかし今回、12月17日の金正日総書記の命日、24日の金正淑(キムジョンスク、金正恩氏の祖母)氏の生誕記念日、そして党の総会と、重要イベントが連続して行われる中で起きた落書き事件を、当局は非常に深刻に受け止め、犯人探しに血眼になっている。
平川区域保衛部は同月23日から、区域内の工場、企業所の労働者、学生に至るまで、筆跡と当日のアリバイについて調査している。これは、落書き事件が起きたときに必ず行われるものだ。
平壌市内ではこの10年で、街頭の監視カメラが増えたため、遠からず犯人が捕まるのではないかとの見方もある。
当局は、市民の政権への忠誠度も高く、食糧配給も地方よりは多く行われている平壌で、落書き事件が起きたことで、より状況の悪い地方でも同様の事件が起きるのではないかと懸念しているとのことだ。
最近の例を挙げると、2020年9月に平安南道(ピョンアンナムド)の落書きは殷山(ウンサン)「人民を搾取し、たらふく食べて裕福に暮らす党幹部を打倒しよう」との落書きが発見されている。
実際は、他にも同様の事件が起きている可能性があるが、当局は地域外に情報が漏れないように徹底統制するため、知られている事例はわずかに過ぎない。