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溜息と落胆と――日本代表、不安が募る中欧遠征

川端康生フリーライター

セルビアとベラルーシに連敗した。

正直、セルビアには勝てないかもと思っていた。けれど、2試合とも負けるとは考えていなかったから、ベラルーシ戦のタイムアップの笛を聞きながら嘆息した。

「チャンスの数」は多いか?

セルビア戦は難しい試合だった。

スタンコビッチの引退試合を兼ねていて、試合前ばかりか、試合中にもセレモニーが行なわれた。前半10分をすぎたあたりで“主役”を見送った後も、ピッチの外はざわついていて、集中するのが難しく、しかも若手主体のセルビアがどの程度の意気込みで日本と対戦しているのかがわかりにくく、ゲームそのものにも落ち着きがなかった。

それでも前半は日本が主導権を握っていたと言ってもいい。ポゼッションで上回っていたし、チャンスも作っていた。

ところが、後半は59分にセットプレーの流れから左サイドを突破されて失点すると、終了間際にもカウンターで失点し、0対2で敗れた。

試合後、ザッケローニ監督は「セルビアを相手に、しかもアウェーでこれだけのゲームをできたのはポジティブ。内容では相手を上回っていた」と繰り返し、敗因は「チャンスの数とゴールの数が比例しないこと」と語った。

しかし、スタンドから見ている側の率直な感想としては、「内容」的にそれほど相手を上回っていたようにも見えなかったし、「チャンスの数」がそれほど多いように見えなかった。

少なくとも、「内容で圧倒していたのに負けた」試合ではなかったし、「あれだけチャンスがありながら……」と嘆くほど決定機があったわけでもなかった。

「アウェー」だから?

ベラルーシ戦も、前半はチャンスがなかったわけではない。

立ち上がりの香川、岡崎のシュート、10分すぎ相手のミスパスから柿谷がGKと1対1になったシーン。さらに内田も左足から惜しいシュートを放った。

だが、そこまでだった。時間の経過とともにベラルーシのプレッシングばかりが際立つようになり、言い換えれば日本は、ハメられてボールを失い、ショートカウンターを浴び続けた。

組織的に守り、効果的に攻めているのはベラルーシで、日本は動きが少なく、そのくせ(だから)攻守にテンポが上がらず、誰か(たとえば香川や本田)が無理やり何とかしようとしてまたボールを奪われ……と悪循環を繰り返した。

そして前半終了直前、波状攻撃を浴び、ついにはミドルシュートを決められた。

シュートはスーパーだったが、何度かあったイーブンボールをことごく拾われ、連続して攻撃を許してしまったのはショックだった。失点の前も後も、日本のディフェンスはFIFAランク80位の国を相手にしているとは思えないバタバタぶりで、とてもワールドカップで上位を狙っているチームには見えなかった。

後半は森重を入れて、3-4-3に変更、しかし長友の負傷で(そうザッケローニ監督が言っていた)4-2-3-1に戻し、最後はハーフナー・マイクも投入したが、チャンスらしいチャンスは作れず、そのまま0対1で敗れた。

「ホームでは自分たちのサッカーをできるのに、アウェーではそれができない」

試合後の会見でのザッケローニ監督はそう何度も繰り返した。

しかし、「ホーム」「アウェー」というよりも、むしろ「相手」であり、「自分たち」の問題であるように僕には見えた。

香川は重症

いずれにしても2試合を通じて得点「0」。

そしてザッケローニ監督が言うほど決定的チャンスを作れたわけでもない。コンフェデ杯以降、課題とされてきたディフェンス以上に、いまは攻撃面の低調さが気になる。

日本がストロングポイントとしてきた左サイドは、長友(インテル!)が明らかにマークされ、これまでのようにチャンスメイクできない。セルビア戦の前半ではその分、内田がいいプレーを見せたが、後半に入るとトーンダウンしてしまった。

また期待の柿谷(ニューヒーロー!)も、2試合を通じて輝きを放つことができなかった。セルビア戦の後半はほとんどゲームに入れず、ベラルーシ戦では立ち上がりに決定的なチャンスに恵まれたが決められず、その後はやはり埋没していった。ゴールを狙う意志(動き出し)は見えるがが、なんせパスを受けられない。

才能は疑いようもないが、まだちょっと早いかも……そんなふうに感じた。

そして、やっぱり香川。かなり重症である。

セルビアでもベラルーシでも現地サポーターの一番人気だったが、プレーに精彩はなかった。ボールを持っている局面では判断が悪く、ボールを持っていない局面では不用意に動き回り、チームのバランスを崩していた。

チームでの不遇な状況もあって焦りもあるのだろうが、ちょっと「あがき」過ぎな気がする。パスをもらえなくてもじっくり構えているくらいの図太さがほしい。何と言っても「マンU」の看板を背負っているのだ。その存在感だけでも相手は不気味である。

もちろん攻撃陣だけに問題があるわけではない。

長谷部のボールロストの多さは、かなり気になる。そもそも遠藤は守備の選手ではないのだから、あの中盤では安心して攻め上がれない。この際、長谷部に代えて細貝あたりを使ってもいいし、森重が一定のプレーを見せているから今野をボランチに起用しても……など挙げ始めたらきりがないほど、気になるところは多い。

残された時間はそう多くない

連敗で終わった今回の遠征。

本番(ワールドカップ)になぞらえるとすれば、セルビアもベラルーシもグループリーグの下位チーム。決勝トーナメントに進むためには勝たなければならない相手だったにもかかわらず、日本代表は勝つことができず、それどころかゴールを奪うこともできなかった。

つまり、もしこれがワールドカップだったら、グループリーグ2戦を終えた時点で脱落決定。ブラジルから早々に帰国しなければならないことになる。

もちろん、これはシミュレーション。ザッケローニ監督が言うように「最大の目的は(ヨーロッパのサッカーネーションと対戦することで)自分たちの課題を見つけ、それを解消していくこと」にある。

ただし、ここから先は「時間」という敵とも戦わなければならないことも忘れてはならない。

来月のベルギー遠征(ベルギー・オランダとの2試合)を終えたら年内の活動は終わり。来年も3月の親善試合くらいしか強化のためのゲームはない。

5月にはメンバー発表と壮行試合。そして本番直前の合宿(ここで練習マッチはやるだろうが)からブラジルへとなだれ込んでいく。

日本代表に残された時間は、そう多くない。

フリーライター

1965年生まれ。早稲田大学中退後、『週刊宝石』にて経済を中心に社会、芸能、スポーツなどを取材。1990年以後はスポーツ誌を中心に一般誌、ビジネス誌などで執筆。著書に『冒険者たち』(学研)、『星屑たち』(双葉社)、『日韓ワールドカップの覚書』(講談社)、『東京マラソンの舞台裏』(枻出版)など。

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