新型コロナ オミクロン株の登場によって「コロナは風邪」に近づいたと言えるのか?
オミクロン株は弱毒化しておりインフルエンザや風邪に近づいている、という意見をよく目にしますが、これは本当でしょうか?
さらに「このままコロナは弱毒化していって風邪になっていく」という話もよく聞きます。これもどこまで根拠のある話なのでしょうか。
第6波の1日当たりの死亡者数は過去最大
まず、オミクロン株は弱毒化しているということが強調されすぎていますが、「新型コロナ オミクロン株の感染者が重症化しにくいのはなぜか?」でも書いた通り重症化する人が少ないのは感染者の多くがワクチン接種者、過去に感染した人が感染しているからであり、オミクロン株の病原性そのものは武漢市で最初に広がった新型コロナウイルスと同等くらいと考えられています。
ワクチン未接種者、そして2回目のワクチン接種から時間が経ち重症化予防効果が低下している高齢者にとっては未だ大きな脅威と言えます。
日本では、高齢者のブースター接種が進んでいない状況でオミクロン株の流行を迎えたこともあり、現在ワクチン未接種者、高齢者を中心に1日200人以上の方が亡くなっています。
ちなみによく比較されるインフルエンザは、
国内の2000年以降の死因別死亡者数では、年間でインフルエンザによる死亡数は214(2001年)~1818(2005年)人です。
厚生労働省「新型インフルエンザに関するQ&A」より
とされており、インフルエンザで1年間の間に亡くなる方と同じ数の人が、新型コロナでは1日から数日の間に亡くなっていることになります。
いろんな考え方の人がいるとは思いますが、少なくとも私は現時点で新型コロナをインフルエンザと同等に扱うことはできないと考えます。
次の変異株の病原性は誰にも予想できない
これまでにアルファ株に始まり、ベータ株、ガンマ株、デルタ株、そしてオミクロン株と様々な変異株が出現してきました。
しかし、これらの変異株は順番にアルファ株からベータ株、ベータ株からガンマ株・・・と変異してきたわけではありません。
今回のオミクロン株も、それまで世界中で広がっていたデルタ株とは全く異なる系統の新型コロナウイルスから、一気に多数の変異を持ち登場した変異株になります。
オミクロン株がどこからやってきたのか、まだはっきりとは分かっていませんが、免疫の弱っている患者さんの体の中で排除されることなく長期間に渡って持続的に感染することで多数の変異を獲得した可能性が指摘されています。
このように全く予期せぬところから新型コロナの変異株は出現しており、次にどんな変異株が出現するのかは予想が困難です。
そして新型コロナウイルスの恐ろしさは、インフルエンザウイルスで数十年に一度出現するような劇的な変異が、数ヶ月に一度出現するところです。
「ウイルスは自然と弱毒化していく」は本当か?
「ウイルスはだんだんと弱毒化していく」という言説もよく聞きますが、これも特に強い根拠があるわけではありません。
例えば、3000年もの間、人類の脅威であった天然痘は根絶されるまで特に弱毒化したという証拠はありません。
新型コロナウイルスと同じコロナウイルスである4種類の風邪コロナウイルス(229E、OC43、NL63、HKU1)も、最初は新型コロナのように重症度が高くて徐々に弱毒化した・・・ということも特に証拠はなく、OC43については1890年頃に発生したロシアかぜの原因だったのではないか、という説がありますが、証明されたわけではありません。
1918年のスペインかぜも、インフルエンザウイルスが弱毒化したわけではなく人々が感染することで免疫ができて致死率が低下してきたと考えられています。
このように、現時点で「コロナはこのまま弱毒化していく」とたかをくくるのは危険です。
この2年間、散々痛い目に遭わされてきた新型コロナを侮ってはいけません。
オミクロン株の出現はパンデミックが終わりに近づいたことを意味するものではなく、むしろ新型コロナウイルスの潜在する多様性を思い知らされたというところではないでしょうか。
一方で、悲観的な話ばかりではありません。
この2年間の間に、ワクチン接種が進み重症化する人の割合は大きく減ってきました。
重症化を防ぐことができる治療薬も複数使用できるようになっています。
そういう意味で、徐々に人類は新型コロナを克服してきているとも言えます。
もう2年もずっとコロナ禍にあり、ついついパンデミックの終焉を期待してしまいますが、国や自治体としては常に最悪(例えばデルタ株のように重症化しやすく、オミクロン株のように広がりやすい変異株の出現)を想定しておく必要があります。
いつ次の変異株が登場するのかも予想は困難ですが、いずれにせよ、今は重症化、死亡する人を減らすために高齢者のブースター接種率を高めることが急務です。
Acknowledgement:東北大学 押谷仁先生のお話を参考にさせていただきました。