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東西横綱・大江戸温泉物語と湯快リゾートが経営統合のナゼ オールインクルーシブで狙う旅館ビジネスとは

千葉千枝子淑徳大学経営学部観光経営学科 学部長・教授
2023年6月12日開業、大江戸温泉物語のTAOYA秋保(筆者撮影)

大江戸温泉物語ホテルズ&リゾーツの「TAOYA秋保」(宮城・仙台市)が6月12日に開業した。TAOYAとは「ゆったりと、たおやかに」をコンセプトにした、大江戸温泉物語では上位のブランドライン。志摩、日光霧降に続いて秋保は3施設目となる。そうした華やかな話題が躍った、その翌日、大江戸温泉物語と湯快リゾートが、2024年春に経営統合するというニュースが飛び込んだ。東西の横綱が手を組んだワケとは? TAOYAに込められた高価格帯への挑戦と旅館ビジネスの最前線を追う。

ついえた旅館を安く手に入れ朝夕2食をバイキング形式に

平成のビジネスモデルがコロナ禍で新たなステージへ

バブル経済がはじけて経営難に陥った旅館やホテル、アミューズメント施設を、次々と手中に収めて再生させる。それが大江戸温泉物語と湯快リゾートの共通のビジネスモデルだ。

温泉街の一等地にありながらも初期投資が抑えられ、雇用も確保できるためリスクが低い。温かい蓋物や焼き物、冷製の品々を、それぞれに絶妙なタイミングで仲居が部屋に配膳するような伝統的な1泊2食のスタイルは刷新され、2食ともにバイキング形式に切り替えて人件費を圧縮。食材は一括仕入れで大量取引するから、利益率を高めることができる。平成の時代は、こうした手法が旅館経営を改善させる常套手段であった。

だが、3年余月に渡ったコロナ禍で客足が途絶えると、「所有」と「運営」の分離が進み、投資ファンドへの売却が進んだ。両者は、持株会社「GENSEN(ゲンセン)ホールディングス」を設立して、両者ともに傘下に入り経営統合することで合意した。その背景には、いずれもアメリカの投資ファンド ローン・スターグループがオーナーになったことにある。

大江戸温泉物語が狙う高価格帯

TAOYAで1泊ひとり2~2.5万円を照準に

人気の温浴施設「東京お台場大江戸温泉物語」が閉館したのは、コロナ禍の2021年9月のことだった。東京都との事業用定期借地権の契約満了が迫るなか、惜しまれながらも18年の歴史に幕を閉じた。その一方で大江戸温泉物語ホテルズ&リゾーツは、宿泊事業で拡大の一途を遂げてきた。その数は全国で39カ所にのぼる。

近年では、同社で空白ともいえた高価格帯に狙いを定め、TAOYAブランドの展開を進めている。そもそも1泊2食で1万円を切る安さがウリの大江戸温泉物語だが、TAOYAブランドは1泊ひとり2~2.5万円という高価格帯。新たな照準で狙うのは星野リゾートやプリンスホテル、大和ハウスグループなど、これまで同社が戦ってきたライバルたちとは異なる市場への挑戦である。

老舗・岩沼屋の名前を消してリブランドしたTAOYA秋保

キーワードはオールインクルーシブ

大江戸温泉グループで最上のブランドラインTAOYA秋保が、2023年6月12日にオープンした。「仙台の奥座敷」と言われる秋保温泉は、伊達政宗の湯浴み御殿が置かれたことで知られる。伊達藩時代の1625年に創業した岩沼屋は、2020年秋に「大江戸温泉物語 仙台秋保温泉 岩沼屋」として再出発。その施設を、さらに手入れして開業させたのがTAOYA秋保である。老舗・岩沼屋が大江戸温泉グループに事業譲渡した背景には、1995年の団体旅行全盛期に新館を増設したことにある。バブルがはじけて多額の負債を抱えていた。今回のリブランドで、400年近く受け継がれた岩沼屋のネーミングが消えた。TAOYA秋保の内覧会を取材した。

会席料理が自慢だった岩沼屋時代とは異なり、TAOYA秋保は、夕食もバイキング形式になった。とはいえ、地元の高級食材をふんだんに使用したメニューを揃え、作り手の顔がみえるライブキッチン形式で提供。風味をそこなわず美味しくいただくことができる。

プリンスホテル時代の腕を生かして大江戸温泉物語のバイキングをプロデュースする最高料理顧問・高階孝晴氏(筆者撮影)
プリンスホテル時代の腕を生かして大江戸温泉物語のバイキングをプロデュースする最高料理顧問・高階孝晴氏(筆者撮影)

これらをプロデュースしているのが、同社の最高料理顧問・高階孝晴シェフである。高階氏は「日本の温泉文化を継承した大江戸温泉物語の功績は大きい」と語る。朽ちることなく施設を再生させ新たな客層を取り込むには、クオリティの高い食を提供することが重要だ。さらにTAOYAで特筆すべきは、「オールインクルーシブ」を採用している点である。オールインクルーシブとは、客船クルーズや地中海クラブが得意としてきた観光用語で、宿泊料金のなかに滞在中の飲食やエンターテインメントの全てが含まれることをさす。TAOYAでは、1泊2食にアルコールを含む全ての飲料が宿泊料金に含まれる。

TAOYA秋保はライブキッチン形式で地域の食材をとりいれたバイキングでアルコールは飲み放題のオールインクルーシブ(筆者撮影)
TAOYA秋保はライブキッチン形式で地域の食材をとりいれたバイキングでアルコールは飲み放題のオールインクルーシブ(筆者撮影)

TAOYA秋保は伝統的な薫りを残しつつ、ロビーまわりや客室は、若者も喜びそうなスタイリッシュな内装へと変貌。新たな露天風呂も増設しつつ、贅沢なつくりの大浴場は岩沼屋時代そのままにして、お客様をお迎えする。

カラオケ発祥の湯快リゾート 東西が一つになって挑むのは

インバウンドへの大きな舵切り

北陸や関西など西日本を中心に展開する湯快リゾートは2003年、カラオケ事業からスタートした。廃業や倒産に追い込まれた旅館を、いわゆる居抜きで引き取り再生させるビジネス手法で、大きく拡大を遂げた。30施設を展開する西の湯快、39施設の東の大江戸が一つになることの大きな理由は、コロナ禍で消失した中高年層マーケットを訪日客需要で埋めたい狙いがある。

落ち着いた雰囲気でリブランドされたTAOYA秋保のロビー(筆者撮影)
落ち着いた雰囲気でリブランドされたTAOYA秋保のロビー(筆者撮影)

老人会などシニアの憩いの場となってきた両施設の共通の悩みは、平日客の戻りが遅いこと。一方、ポストコロナでインバウンドの個人旅行化が顕著になり、OTA(オンライン・トラベル・エージェント)経由の予約をどれだけ流入させるかが今後の経営のカギを握る。

淑徳大学経営学部観光経営学科 学部長・教授

淑徳大学 学長特別補佐 経営学部 学部長 観光経営学科 教授で観光ジャーナリスト。中央大学卒業後、富士銀行、シテイバンク勤務を経てJTBに入社。1996年有限会社千葉千枝子事務所を設立、運輸・観光全般に関する執筆・講演、TV・ラジオに多数出演。東京都・神奈川県・岩手県など自治体の観光審議会等委員を歴任。NPO法人交流・暮らしネット理事長。中央大学の兼任講師(いずれも現職)を務めている。日本記者クラブ会員。

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