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治安とは「とんでもないことをする若い男」を管理すること

橘玲作家

フロリダ州オーランドのゲイクラブで男が自動小銃を乱射し、50人以上が死亡する大惨事になりました。特殊部隊によって射殺された容疑者はアフガニスタン系の両親を持つニューヨーク生まれの29歳男性で、大学卒業後警察官を目指したものの採用されず、フロリダの高級住宅街で警備の仕事をしていたといいます。

家族や同僚によれば容疑者は激しやすい性格で、同性愛者を嫌悪しアルカイダとのつながりをほのめかす発言をしたことからFBIの聴取を受けたようですが、犯行を防ぐことはできませんでした。一部の報道では、容疑者自身がゲイクラブの常連で、同性愛者のパートナーを探していたともいいますから、話はさらに複雑です。

アメリカでは、共和党候補のトランプがムスリムの移民排斥を叫び、共和党候補のクリントンが銃規制の強化を求めて国論を二分する争いになっています。しかしテロのような重大な犯罪には、宗教よりもはるかに顕著な危険因子があります。

2015年11月に起きたパリ同時多発テロ事件の犯人は、アルジェリア系フランス人、モロッコ系ベルギー人、難民として入国したシリア人など出自はさまざまですが、全員が若い男性でした。16年3月のブリュッセル連続テロ事件でも、ISのメンバーとされた犯人はやはり若い男性です。こうして見ると、危険なのは宗教以上に、年齢と性別であることは明らかです。

これは偏見ではなく、統計的にはあらゆる国で、犯罪者の割合は女性に比べて男性が圧倒的に多いことは歴然としています。日本でも刑法犯に占める女性の比率は15~20%程度で8割以上は男性、それも強盗、傷害、暴行、恐喝のような暴力犯罪にかぎれば男性の比率は9割を超え、若いほど犯罪率は高くなります。

哺乳類など両性生殖の種では、オスはメスをめぐってはげしい競争にさらされます。ヒトも例外ではなく、思春期を迎えた男性は、他の男たちを押しのけて1人でも多くの女性と性交するよう、テストステロン(男性ホルモン)のレベルが急上昇して競争に最適化されるのです。

女性を獲得できなければ子孫を残せないわけですから、進化は男性を「どんな手段を使ってでも競争に勝て」とプログラムしたはずです。もっともすべての男が同じ欲望を持っている以上、必勝の戦略はなく、ピラミッド型の社会では大半の男性が不利な状況に置かれることになります。

保守的な女性に比べ、「とんでもないこと」をするのはたいてい男です。これは、「とんでもないこと」が不利な状況でも勝機を開く有効な戦略だからでしょう。それがプラスに働けばヒーローや成功者で、マイナスなら凶悪犯罪者になるのです。

ところが社会が高度化し、管理された組織のなかで秩序が求められるようになると、「とんでもない」男は厄介者とされ、生きていくのが難しくなりました。治安問題というのは、社会からドロップアウトした「若い男」をいかに管理するか、ということなのです。

こんな単純なことが指摘されないのは、男性優位の社会で、誰も自分で自分をバッシングしようとは思わないからなのでしょう。

『週刊プレイボーイ』2016年7月11日発売号

禁・無断転載

作家

作家。1959年生まれ。2002年、国際金融小説『マネーロンダリング』でデビュー。最新刊は『言ってはいけない』。

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