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違法な派遣企業を救済するための派遣法改正法案だった

渡辺輝人弁護士(京都弁護士会所属)
政府が与党向けに作成していたペーパー

政府は、今国会で、労働者派遣法の「改正」(改悪)をしようとしています。ひと言で言うなら、「生涯ハケン」の働き方をスタンダードな働き方にするための改正なのです。

労基法ではもともと労働者保護のために「直接雇用の原則」(6条)があります。しかし、経済界の強い要望の末に、労働者の立場が弱くなるゆえに禁止されていたはずの間接雇用を派遣法で解禁してしまったのです。この労働者派遣法ができたのは1985年のことです。このときの政府(中曽根政権)の言い分は「派遣期間の限定があり正規雇用の例外だから大丈夫」「派遣が解禁されるのは労働者に市場競争力がある専門性の高い職種だから大丈夫」でした。

しかし、一度できてしまった派遣法は以下のようにどんどん適用範囲が拡大されます(法律改正年ベース)。

1985年 専門13業種のみ派遣可。派遣期間原則1年。最大3年。

1986年 専門3業種追加。

1996年 専門10業種追加。専門26業種となる。

1999年 禁止業務以外のすべての業種で派遣解禁。

2003年 製造業で派遣解禁。ただし期間は1年。専門26業種は期間制限撤廃。

2007年 製造業派遣期間最大3年に緩和。

2012年 ちょっとだけ規制強化。違法派遣に直接雇用みなし(施行は2015年10月)。

2015年 全業種で一定手続を条件に派遣期間を全廃する法案出すぞ!←イマココ

2007年と2012年の間の2008年にリーマンショック、2009年に年越し派遣村があり、2009年の民主党政権誕生に繋がっています。派遣法改悪は、社会不安を呼び起こし、政権交代の背景事情の一つともなりました。政権についた民主党が不十分ながら一応派遣法の規制強化に乗り出したのは必然性があります。そして、2012年に、非常に不十分ながら、労働者派遣の規制を強化する改正労働者派遣法が成立しました。しかし、最も強力な規制である「違法派遣の場合に派遣労働者が派遣先企業に直接雇用してもらえる(その場合派遣先企業は拒めない)制度」の施行は2015年10月1日とされました。

政府が今国会に提出している法案は、専門26業種という概念や、派遣期間自体を事実上撤廃することにより、「違法派遣」そのものをほとんどなくしてしまおうとするものです。もし、今国会に提出されると言われる派遣法改悪が成立すれば、「生涯ハケン」の働き方が当たり前になり、労基法が掲げる直接雇用の原則は有名無実化するでしょう。労働者の地位は不安定になり、さらに低賃金化する可能性があります。

しかし、さすがの政府も、そのような目的をあけすけに語る訳がない、と思っていました。昨日まで。 しかし、政府は以下のようなペーパーを与党議員に堂々と配っていたのです。

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「訴訟が乱発するおそれ」「派遣事業者に大打撃」など、派遣法改正法案の目的があからさまに記載されています。これこそ政府が10月1日が訪れる前の今国会で派遣法改悪を成し遂げようとしている動機なのです。もともと、今回の派遣法改悪を先導していた政府の産業競争力会議には、派遣企業であるパソナグループ取締役会長の竹中平蔵氏(筆者は「竹中政商納言」と呼んでいます)が入り、下記のように派遣法改正を推し進めるように発言していました。

2点目は、労働者派遣制度の見直しである。8月20日に有識者研究会の報告が出ているが、その中でいくつか、規制強化なのではないかと思われるところがある。例えば、今まで派遣期間の制限を、業務単位で行っていたものを労働者単位とするというのは、おそらく、世界にもそういった例がないぐらいの規制だと思う。多様な働き方を認めようというときに、間違っても規制を強化するような方向には行っていただきたくないので、そこはぜひご注意をいただきたい。

出典:平成25年9月18日第1回 産業競争力会議 雇用・人材分科会での発言

かつてのパソナグループのホームページ。現在竹中氏の挨拶はなぜか削除されている。
かつてのパソナグループのホームページ。現在竹中氏の挨拶はなぜか削除されている。

しかも、このペーパーは、違法派遣の是正によって直接雇用される(救済される)労働者の利益や、企業が違法派遣を避けるために最初から直接雇用されるであろう労働者の利益を全く無視しています。政府が、このように、労働者保護のための2012年改正を敵視し、派遣業界の利益を代弁するペーパーを作って与党議員に配布するのは大問題でしょう。逆に言えば、2012年の派遣法改正が労働者保護のためにいかに有用かも、このペーパーは示しています。派遣法の改悪法案は即刻撤回されるべきだと考えます。

なお、もともと派遣の現状を是正する猶予期間がこの3年間だったはずだし、違法派遣状態にある職場で10月1日を前に派遣切りが行われるとすれば、厚生労働省はそちらを取り締まるべきなので、「派遣社員を救済するための改正」という理屈は通らないと考えます。

(2015.4.24 15:45追記:政府が今国会での成立にこだわる動機と、最後の段落)

弁護士(京都弁護士会所属)

1978年生。日本労働弁護団常任幹事、自由法曹団常任幹事、京都脱原発弁護団事務局長。労働者側の労働事件・労災・過労死事件、行政相手の行政事件を手がけています。残業代計算用エクセル「給与第一」開発者。基本はマチ弁なので何でもこなせるゼネラリストを目指しています。著作に『新版 残業代請求の理論と実務』(2021年 旬報社)。

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