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米中貿易交渉破談の裏側……なぜ習近平はちゃぶ台をひっくり返したのか?

高口康太ジャーナリスト、翻訳家
2019年3月29日、北京市で開催された米中貿易協議。(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

米国は2019年5月10日より2000億ドル相当の中国製品に対して、関税を10%から25%に引き上げると表明した。9日から始まった米中の協議で進展がなかった場合、昨年12月1日の米中首脳会談以来小休止が続いていた米中貿易摩擦が再び激化へと向かうことになる。

一時は米政権内部から合意間近とのリークも流れていた交渉だが、なぜ突然のご破算となったのだろうか。いくつか内情が読み取れる情報が浮かび上がっている。

米国時間3日夜、中国から米国宛に米中貿易交渉合意文書の修正案が届けられたが、知財保護や技術強制移転禁止などを含めた幅広い分野でこれまでの合意を修正する内容だった。これが米国側の反発を招き、トランプ大統領は5日にツイッターで関税引き上げを表明することにつながったという。

なぜ中国はこの段階になってこれまでの交渉をひっくり返すような動きに出たのか。6日付香港英字紙サウス・チャイナ・モーニング・ポストがその背景について伝えている。注目は、習近平総書記がこれまでの合意案は不服だとして協議担当者に修正を指示したとの情報だ。習総書記は「結果については私が責任を持つ」とまで言い放ち、強い姿勢で挑むよう求めたという。中国の交渉チームと習総書記のずれが、ちゃぶ台返しへとつながったというわけだ。

これは中国側の足並みの乱れという要因だが、もう一方で米国側の中国理解にも問題があったようだ。米国側は貿易協議での合意が空約束に終わらないよう、法改正を通じて変更を明確にするよう求めてきた。中国側は法改正は困難だとして、法律は変更しないものの運用で対応するので理解して欲しいと打診していた(8日付ロイター日本語版)。

確かに合意が着実に履行されるような方式は盛り込む必要はあっただろうが、法改正にこだわる必要はなかったのではないか。そもそも中国は人治の国であり、法律と運用の間に天と地の開きがあることこそが問題である。法律を改正したとしても、運用によって合意を反故にするようなことはいくらでもできる。法律の変更がゴールではなく、現実が変化するかどうかが重要だったはずだ。中国がメンツを重んじる国であり、政権が米国に譲歩したと取られるようなアクションは取りづらいことを考えれば、精力を注ぐのは法改正するかどうかではなかったはずだ。

米中双方の失敗が貿易摩擦の再開につながったわけだが、ある意味では仕方がない部分がある。異なる政治体制、経済、文化、歴史を持つ両国のずれが対立につながった以上、いざ交渉という今になって、いきなりお互いをよく理解してノーミスで合意をまとめましょうというのは無理がある話だ。

失敗を繰り返しながらお互いの事情を理解し、双方が納得できる落としどころを探し当てることができるのか。それとも決定的な亀裂へと発展していくのか。先は見えないが、唯一間、今後も異変急変大どんでん返しが繰り返されていくことは間違いない。

ジャーナリスト、翻訳家

ジャーナリスト、翻訳家。 1976年生まれ。二度の中国留学を経て、中国を専門とするジャーナリストに。中国の経済、企業、社会、そして在日中国人社会など幅広く取材し、『ニューズウィーク日本版』『週刊東洋経済』『Wedge』など各誌に寄稿している。著書に『なぜ、習近平は激怒したのか――人気漫画家が亡命した理由』(祥伝社)、『現代中国経営者列伝』(星海社新書)。

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