日本国債の価格変動リスクが意識
9月の日銀金融政策決定会合に向けて日本国債の価格変動リスクが意識されつつある。7月29日の日銀金融政策決定会合では追加緩和が決定されたが、その内容は声明文のタイトルが示すように「金融緩和の強化について」となった。このタイトルは白川総裁以前の日銀が使っていたものであった。これは黒田総裁になってからの大胆なサプライズな金融政策から、元の逐次投入型の金融政策に戻すことを意味しているとの見方もできよう。
これにより、ここからさらに大胆な国債買入増額やマイナス金利の深掘りの可能性が後退したと言える。今回の金融緩和の強化では日銀の政策目標となっているマネタリーベースの増額は据え置かれた。それにも関わらず追加緩和という言葉を使う以上は、フレームワークそのものの変化も意味しよう。
しかし、それでも黒田総裁は強気の姿勢は崩しておらず、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現する観点から、次回の金融政策決定会合において、「量的・質的金融緩和」・「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」のもとでの経済・物価動向や政策効果について総括的な検証を行うこととし、議長はその準備を執行部に指示した。
この総括とはどのようなものになるのか。この解釈を巡っては、さらに大胆な緩和を可能にさせる環境作りとの見方も一部にある一方、現実に量や金利での勝負は諦め、以前の日銀のフレキシブルな緩和方式に改めるのではとの見方もある。
いずれにしても市場が期待したようなヘリコプターマネーという究極のリフレ策の実験場に日本がなる可能性は後退した。特に海外投資家によるヘリマネへの期待は強かったが、それがなくなったことにより、7月29日以降の日本国債の急落へと繋がることになる(そもそもヘリマネは日銀が決めるものではないが)。
今回の日本の債券市場の急激な調整は、2003年6月のVARショックと呼ばれる債券相場の急落と似ている。VARショックでは日銀の量的緩和を背景にメガバンク主体に買い仕掛けが入ってその反動が起きた。今回買いを仕掛けたのはヘリマネ期待の海外投資家と国債をより高く日銀に売却しようとした業者が主力であったとみられる。だからこそ8月2日の10年国債の入札結果がさらなる急落の引き金ともなったといえる。
ヘリマネが決定されて国債の信認が毀損されるとの認識で日本国債が急落するのであればともかく、ヘリマネがなかったことで嫌気されて急落というパターンであり、これはあくまで相場が過熱しすぎた反動といったことになろう。
それでもこの日本国債の急落をきっかけにこれまでの上昇相場を支えてきたパターンが崩れる可能性が出てきた。もしここからボラタイルな相場が継続するようなことになれば、海外投資家が日本国債のポジションを減らす可能性もありうる。また、業者にとっては日銀トレードがやりにくくなり、日本国債の参加者がさらに減少してくる懸念もある。
もちろん国債の利回りが上昇すれば、これまで買い控えていた国内投資家も出てこよう。それもある程度相場が落ち着かないと難しい。
いずれにしても9月の金融政策決定会合向けては今後もいろいろな憶測が飛び交うとみられ、それに国債が一喜一憂してくることも予想される。日銀も表面上は強気の姿勢を示しても、国債市場の動揺をみていずれ出口戦略も必要であることを認識してくるのではなかろうか。その意味ではある程度の日本国債の水準訂正はむしろ必要であるとも考えられる。