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今年のことはわからなくても、10年後の日本はわかっている

橘玲作家

東日本大震災と福島原発事故のあった2011年や、民主党政権に国民が愛想をつかした2012年に比べれば、昨年はひさびさに平穏な年でした。今年はどんな1年になるのでしょうか?

じつはこの問いには意味がありません。どんな予測も、当たるか外れるかはサイコロを投げて決めるのと同じ、ということがわかっているからです。それでも予測を聞きたがるのは、ヒトの脳が未来をシミュレーションするようにできているからです。

脳の情報処理の特徴は、極端な出来事に引きつけられ、変化しないものには興味を持たないことです。

民主党は政権交代で「予算を組み替えれば財源はなんぼでも出てくる」といい、事業仕分けで国民を熱狂させましたが、実際にやってみたら「埋蔵金」などどこにもありませんでした。アベノミクスを囃すひとたちは「金融緩和で高度経済成長期並みの好景気がやってくる」と喧伝しましたが、いまのところそんな兆候はどこにもなく、おそらくはこれも空手形でしょう。ウマい話はそうそう転がっていないのです。

それに対して福島の原発事故は依然深刻で、除染や汚染水問題も解決の見通しはありませんが、ずっと深刻なままなのでほとんどニュースになりません。それよりも「特定秘密保護法案で全体主義の世の中になる」とか、「防空識別圏は中国の軍事攻撃の前兆だ」とかの話の方がずっと面白いのです。

今年どんな事件が起こるのかはわかりませんが、10年後や20年後の日本がどうなっているのかはかなり正確に予測できます。私たちは未来を知ることができませんが、そのなかで唯一、人口動態だけは例外だからです。

日本の人口は2005年から減少を始めており、2030年には1億1500万人、2050年には9500万人まで減ります。その一方で総人口に占める老年人口(65歳以上)の比率は30年には31.8%、50年には39.6%に上昇し、年少人口(14歳以下)の比率は30年に9.7%と1割を切ります。

日本のような先進国では年齢ごとの死亡率はほとんど変化しないので、いまのゼロ歳児が平均寿命を迎える八十数年後まで、人口構成がどうなるかはあらかじめ決まっているのです。

もうひとつはっきりしているのは、日本国の借金が増えることはあっても減らすのがきわめて難しいことです。国と地方の債務の合計は1994年に450兆円、2000年に700兆円でしたが、現在は1200兆円に迫ろうとしています。

国の借金というのは、国債を発行して集めたお金を国民に分配した結果です。この借金は年間50兆円のペースで増えており、それを1億人で割れば50万円で、これが赤ん坊から高齢者まで日本人が棚からぼた餅のように受け取っている平均的な金額です。もっともその配布先は高齢者に偏っていて、13年度の社会保障給付(年金・健康保険)は100兆円を超えているのに子ども・子育て関連は5兆円しかありません。

少子高齢化の進展とGDP比2倍を超える債務残高によって、この国の未来の選択肢はきわめて限られています。しかしそれはとてもゆっくり進行するので、どれほど深刻か気づかないまま日々が過ぎていくのです。

『週刊プレイボーイ』2014年1月6日発売号

禁・無断転載

作家

作家。1959年生まれ。2002年、国際金融小説『マネーロンダリング』でデビュー。最新刊は『言ってはいけない』。

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