マレーシアにすり寄る北朝鮮…金正男氏殺害の「幕引き」を狙う
北朝鮮が金正男(キム・ジョンナム)氏殺害事件の幕引きを狙っている。マレーシア政府の対応如何では、事件の真相が闇に葬り去られる可能性も出てきた。
毒殺疑惑の施設
先月28日、北朝鮮のリ・ドンイル前国連次席大使を含む北朝鮮高官による代表団がマレーシアを訪問。金正男氏の遺体回収と同国警察に逮捕された北朝鮮人民の釈放問題、北朝鮮とマレーシアとの友好関係の強化に関し協議すると表明した。
(参考記事:北朝鮮当局の金正男氏「遺体横取り」に泣く美人母娘)
こうした動きと連動するかのように北朝鮮の朝鮮中央通信は1日、米国と韓国が金正男氏殺害事件を利用して「ヒステリックな反共和国謀略騒動を執ように起こしている」と非難する記事を配信した。
同通信は、とりわけ遺体から猛毒の神経剤であるVXが検出されたと発表されたことに対して敏感に反応している。既に日本や韓国、米国などではこの事件が北朝鮮による「化学兵器テロ」であると見て、非難する声が高まっている。北朝鮮がVXを製造、使用しているというイメージが定着すれば、国際社会の非難はさらに強まる可能性があることから、何としてでも払拭しておきたいのだろう。
(参考記事:金正男氏毒殺「疑惑の施設」で正恩氏が見せた「満面の笑み」)
気になるのは、金正男氏殺害がVXによるものと結論づけたマレーシア政府に対しては、なぜか非難を弱めていることだ。朝鮮中央通信は先月22日には、マレーシア政府の対応を糾弾する同国の法律家団体の主張を配信していたにもかかわらず、1日の記事では韓国が「デマを流して混乱を生じさせ、われわれとマレーシア間にくさびを打ち込んでみようと策動した」としながら、マレーシアへの非難を避けた。
さらに、当初は金正男氏について「外交パスポート所持者であるわが共和国の公民」としていたが、1日の記事では「マレーシアで外交旅券所持者であるわが共和国公民のキム・チョル氏」と名前まで明かしている。
こうした主張の変化の裏には、何らかの意図があるように見える。北朝鮮としては、死亡した人物はあくまでも「キム・チョル」であると主張しながら遺体を回収し、死因はショック死として発表する。マレーシア当局のVXによる殺害という発表に関しては、米韓の反共和国謀略騒動にマレーシアが巻き込まれたという構図をつくりあげるというものだ。
実際、マレーシア当局も遺体の身元を公式に確認できておらず、DNAによる身元確認も、サンプルを提供する金正男氏の家族が北朝鮮国籍者であるだけに、そう簡単にできるものではない。また、マレーシアの華語紙である中国報の電子版は、事件に関与した疑いで逮捕された北朝鮮国籍のリ・ジョンチョル容疑者が「証拠不十分で釈放される可能性が高い」と報じた。こうした展開を見ながら、北朝鮮にはマレーシア当局が事件を解明しきれないだろうという判断が生まれているのかもしれない。
今後、マレーシア政府が北朝鮮に対してどれだけ毅然とした対応を取ることができるかが、事件の真相が解明されるかどうかのポイントになってくるだろう。