新発10年国債の売買がなかった日
4月14日の債券市場で、めずらしい現象が起きた。それは新聞などでニュースとなり、15日の日経新聞では「10年物国債市場 市場取引ゼロ」とのタイトルで記事が掲載された。
ここではいくつか注意点がある。このコラムは債券市場をあまりご存じない方も読んでいただいているかもしれないので、実際に何が起きたのかを知るための基礎知識から説明させていただきたい。
債券や国債とは何か、から説明すると一冊の本が必要になるので、ぜひ拙著「債券と国債のしくみがわかる本」などを読んでいただきたい。債券市場の中心が国債であり、その国債のなかでも指標、ベンチマークと呼ばれているものが期間10年物の新発国債(カレント物とも呼ばれる)となっている。国債には期間に応じて固定利付き債としては2年債、5年債、10年債、20年債、30年債、40年債などがあり、発行額からみても10年債より多いものもある。しかし、日本だけではなく欧米各国などでも慣例で期間10年の国債が指標となっており、その利回りがその国の長期金利とされている。
現物債の取引は店頭取引で行われている。店頭といっても店に行くわけでなく、業者と呼ばれる証券会社と銀行や生保など機関投資家が電話やネットを通じて売買を行っているのである。その個別の取引についてはすべてを掴みきれるものではない。それから言えば本当に「市場取引ゼロ」であったのかについては、現実に各証券会社等の個別の取引をチェックしないことには正確にはわからない。
この場合の「市場取引ゼロ」というのは、現物国債の業者間での売買を集中して行っている日本相互証券での取引を指していると思われる。業者と呼ばれる証券会社などは自己のポジションを調整するために業者間での売買の場を設けた。それが日本相互証券である。BBとも呼ばれているがこれはブローカーズブローカーの略称である。同様の会社はほかにもあるが、業者間での取引は日本相互証券がかなりの割合を占めており、会員業者は専用のBB端末を持ち、日本相互証券での国債の売買でつけた利回りを参考にして、店頭での売買を行っている。もちろん大阪取引所に上場している長期国債先物も流通市場でのベンチマークではあるが、現物の取引といえばBBの端末のデータを参考にしている場合が多い。
2014年4月14日に、その日本相互証券で直近で入札された新発の10年利付国債(現時点では4月1日に入札された333回債)の売買がゼロであったのである。通常であれば少なくとも数百億円程度の売買はあるものの、それがゼロというのは極めて珍しい。
日本相互証券での新発10年債の売買がゼロであったのは、日経新聞によると2000年12月26日以来、約13年ぶりであるとか。今回の10年債の売買高ゼロの要因については、日銀による大規模な国債買入による影響で、国債市場の流動性が低下したためとの説明があるが、それもひとつの原因であるかもしれないが、そればかりではないと思われる。
2014年4月14日の日本相互証券では、10年債カレントは取引ゼロではあったが、2年債、5年債、20年債、30年債のカレント、新発国債は売買ができており、10年債も別の銘柄のものは売買ができていた。たまたま14日は10年債のカレントが出合わなかったと言った方が良さそうで、これは2000年12月26日も同様であったと思われる
2014年4月14日の債券先物の日中の値幅はわずかに9銭しかなく、前日11日も同様であったように、ここにきて債券の動きはかなり鈍っていた。10年債利回りは0.6%近辺にいるが、0.6%割れは高値警戒も強く買いにくい。これは2013年4月の日銀の異次元緩和前の10年債利回りの水準が意識されているとの見方もあるが、絶対水準としての0.6%という利回りは魅力に乏しい。さらに物価や成長率などを見ても0.6%はあまりに低いとの見方もあろう。それに比べてまだ利回りの高い超長期債には押し目買いの余地もあるとの見方もできる。
ただ、ここから売るとしても売りにくい。ここにきて日本株も含めて調整局面となり、円高も進んだ。ウクライナ情勢の緊迫化によるリスク回避の動きが出る可能性もある。それでなくても日銀が大量に国債を購入しており、需給は非常にタイトとなっている。つまり、売りも買いもしづらいという状況で生まれたのが「新発10年国債の売買がなかった日」ということになる。
前回、新発10年債がBBで出合わなかった2000年12月26日の翌々日の28日には先物は70銭を超す下げとなるなど動きを見せていた。今回もそれだけ膠着感が強いということは、そろそろ大きな動きを見せる前兆であった可能性もある。むしろこちらに注意を払っておいたほうが良いのかもしれない。