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日銀は市場の声に耳を傾けるべき

久保田博幸金融アナリスト
(写真:イメージマート)

 長期金利は会議室で形成されるべきものではない、現場(市場)で形成されるべきものだ。

 本来のあるべき水準に行こうとしている市場を無理矢理、力ずくでおさえ込んでいるのが、日銀のイールドカーブコントロール政策である。

 日銀は異次元で非常時対応の金融緩和策をこの物価高にあっても維持させようとしている。そこに大きな問題が存在する。通常のノーマルな緩和策ですら、この物価水準にはそぐわないにもかかわらず、デフレを払拭するためと称して、過去にない異次元の金融緩和策を無理に継続している。

 これによって本来金利の持つ機能が完全に失われている。

 特に長期金利は日銀が10年新発債を発行額以上も買い入れるなど、過ぎた「工夫」の結果、流動性を喪失させた。さらに空売りをしにくくさせる「工夫」も加え、本来の機動的で柔軟に形成されるべき長期金利の形成そのものを阻害している。

 日銀の元副総裁の山口廣秀氏はNHKの「変化の時代の金融政策」とのタイトルの講演において次のように発言していた。

 「現在は長短金利操作の下で、本来金利に反映されるべき市場参加者の経済に関する見方が封じ込まれています。市場金利の変動は、多様な市場参加者の平均的な経済観のあらわれです。とくに経済の先行きが読みにくくなればなるほど、日銀にとっても貴重な情報源となり得るものです。変化の激しい時代こそ、日銀は市場の知恵を借りるべく、それが発するシグナルに謙虚に耳を傾けるべきではないかと考えます。」

「変化の時代の金融政策」(NHK)

https://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/400/483581.html

 これは正論以外の何者でもない。

 日銀は本来あるべき市場の機能を自らの意地の元に喪失させにかかっている。「市場金利の変動は、多様な市場参加者の平均的な経済観のあらわれ」と山口氏はしているが、市場はいろいろな思惑とともに、利益を追求するあまり無理な仕掛等も入りやすい面もある。しかし、無理な動きは自ずと修復されるのも市場である。日銀の無理な工夫はその柔軟な市場機能すら喪失させている。

 10年370回についてはまだ日銀の毎営業日連続無制限の指値オペに引っかかってはいないが、英国債の下落などをきっかけに、370回が0.5%に張り付く可能性が出てきた。0.5%に張り付く前にイールドカーブコントロールを修正しておけば、昨年のような市場との激突は避けられるはずなのであるが、再び同様のことを繰り返すつもりなのか。日銀は長期金利をコントロールすることでいったい何をしたいのか。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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