ECBやスイス中銀の根回し
フランスのオランド大統領は19日、ECBが22日に予定する理事会で「国債を購入する決定をするだろう」と述べ、量的金融緩和策に踏み切るとの見通しを明らかにしたそうである(日経新聞電子版)。
独立した組織であるECBの政策の決定前に、欧州域内の一国の大統領が結果に触れるのは異例だと日経新聞も指摘していたが、オランド大統領はあまり中央銀行の独立性等は配慮せず、自分は事前に話を聞いていたことを強調したかったのかもしれない。
ECBの特殊性は国を跨いだ中央銀行であり、ECBのドラギ総裁はユーロ圏の首脳と頻繁に連絡を取っているとされる。ユーロ圏の国債を買い入れるという量的緩和の導入にあたっては当然ながら事前にユーロ圏の首脳に確認を取っていたことは想定できる。
ドイツのメルケル首相は「ECBは独立した決定を下し、我々はそれを見守る」とコメントしたようだが、これが本来あるべきコメントかと思う。しかし、そのドイツでもメルケル首相とドラギ総裁がベルリンで会談し、ドラギ総裁が会談で量的緩和計画の詳細についてメルケル首相に説明したと報じられていた。
22日の会合での量的緩和の導入については、ドイツの反対を振り切って実施されるであろうと予想されているが、ドイツ連銀は量的緩和に制限を設ける方向で最後の抵抗を続けているようである。買い入れ規模の制限や量的緩和の延期も議論されているとされている。
そもそもすでにドイツの5年債利回りはマイナスとなり、イタリアやスペインの10年債利回りが過去最低に低下するなか、国債を買い入れる意味というか効果がどの程度あるのかという疑問も残る。日銀同様に通貨安が狙いともみられるが、市場を操作することの難しさは今回、スイスが示した通りである。
その15日のスイス・ショックについても、スイス中銀のジョーダン総裁が、ECBの動きを事前に察知して、それで動いたであろうことは容易に想像できる。スイス中銀が2011年に対ユーロでのフラン相場上限を設定するに際にも、ECBと数週間もかけて事前協議を実施していたとされている。
今回のスイス中銀の行動については思わぬところから横やりが入っていた。IMFのラガルド専務理事がテレビで、スイス中銀の対ユーロでのフラン相場上限撤廃について「事前連絡がなかったのは驚き」と語っていたのである。しかし、その後、「私の理解ではごくごく少数の人間しか知らされていなかった」と指摘し、その一方で「なぜこのような決定に至ったのか完全に理解できるし、十分な根拠がある」と述べていた(ロイター)。
このあたりの動きも非常に興味深い。スイス中銀がいちいち金融政策変更前にラガルド専務理事に連絡することは考えづらい。しかし、今回のような影響の大きそうな変更の場合には、IMFあたりまである程度事前連絡があるケースがあったであろうことを示している。さらに「私の理解ではごくごく少数の人間しか知らされていなかった」との指摘は、スイスの動きを事前にECBの関係者あたりに知らされていた可能性がある。一部関係者も今回のスイスの政策変更がここまで市場に影響を与えることは想像できず、専務理事には報告の必要なしと考えたのかもしれない。その後、慌ててスイス中銀の関係者がラガルド専務理事に詳しくご説明に伺ったであろうことも想像できる。
中央銀行に独立性はあるといえど、このような政府や国際機関などへの根回しも必要な場合もあるであろう。日本でも政策委員の多数決で決定されるはずの金融政策の変更がなぜか事前にリークされていたことも以前にはあった。
ここでひとつ気になるのが、昨年10月の異次元緩和第二弾決定の際に、政府からの出席者が会合の一時中断を申し入れていたことである。日銀はサプライズを意識するため、政府への事前協議はなかったか非常に限られていたということなのであろうか。追加の緩和であれば現政権は当然受け入れるとの読みであったのかはわからないが、このあたりからどうも政府と日銀の歩調がずれてきているようにも感じられた。