早生まれ遅咲きだからこその急成長。静清高・石田裕太郎の大志は「5億稼ぐ」
「メジャーリーグに挑戦できるような選手になりたくて、侍ジャパンにも入って5億くらい稼げる選手になりたいです。野球をやっぱり長くしていたいので45歳まで現役をしたいです」
この発言がまだ名も知られていない高校生のものだったとたら、あなたはどう思うだろうか。一笑に付す者もいるかもしれないが、その曇りのない真っ直ぐな眼差しと、これまで成長の糧としてきた反骨心を聞けば、その言葉を信じたくなる。
そして、投球でも当然光るものがある。その回転の良い最速145km/hのストレートは、ベース付近で勢いを増してミットに吸い込まれていくような美しい軌道だ。
縦に落ちる変化球も精度にバラツキはまだあるが、良い時は打者の目線からスッと消えていくようなキレ味だ。牧田和久(パドレス)らを輩出した静岡県の私立静清高校(旧校名・静清工業)。その3年生右腕・石田裕太郎はまだ静岡県内でも十分な実績を残せていないが、将来有望な選手であることは間違いなく、NPB球団スカウトがここのところ複数足を運び視察に訪れるまでの存在となっている。
遅い成長だから掴めたもの
父が野球、母がソフトボールを過去にしていたことやベイスターズの本拠地がある横浜市出身ということもあり野球は自然な流れで始めた。チームに入ったのは小学3年の時だ。1月22日生まれと早生まれで成長も遅かった石田は背が小さく、小学6年になっても身長は138cmほど。それでも内野手のレギュラーになったが、中学では硬式野球のクラブチームに入るも控えの投手だった。
投手になったのも周りには体が大きくパワーに勝る同期の野手がいたため、試合出場の可能性を少しでも上げるためだった。それでもエースの座は遠く、中学3年時に神奈川ボーイズへ移ることとなったことがきっかけで、ようやくエースの座に就いた。
決して順風満帆ではなかったが、それが今の石田を支える武器を身につけることとなった。
「毎日9時には寝ていましたが、なかなか大きくなれませんでした。でも体が小さい分、野手をやっていた時は “どうやったら、大きい選手に負けないよう遠くに投げられるのか”と意識していました。それで自然と回転の良い球筋で投げるようになりました。投手になってからも、大きくて速い選手に負けないようコントロールを磨きました」
今では身長も179cmまで伸び、入学時に123km/hだったストレートの最速は145km/hを計測するまでになった。そして体が大きくなる前にモノにした球筋やコントロールは大きな武器となっている
また精神的にも「試合に出ていない選手の気持ちも知ることができたので、今も出られていない選手のことも考えられます」と、周囲への気配りにも長ける。取材日の練習試合で味方や自らにミスが出ても動揺せず、むしろ笑顔を見せたことが印象的だった。
センバツ甲子園での奥川恭伸(星稜)が味方のミスに笑みを見せながら「切り替えろ」という仕草をした姿を見て「やっぱり良い投手は野手に心配かけないんだな」と再認識したため、より意識するようになったという。
憧れる山崎康晃の姿
小柄ゆえに小・中学生時代はその大志に疑問を呈されたことは何度もあったという。それでも石田の思いが揺らぐことはなかった。
「中学時代になかなかレギュラーを獲れなくても“プロに行く”と思っていたので諦めたことはありませんでした。 “体が小さいし補欠だし無理じゃない?と言われたこともあったのですが、そんなの気にせず“見返してやろう”という気持ちしかありませんでした。今も実力を思い知らされる時もあるのですが、プロへの思いは消えることはまったくありません」
憧れは地元の横浜で活躍する山崎康晃(DeNA)の姿だ。「笑顔やファンサービスをすごく大切にされているので、僕もプロに行ったらそういう対応をしてみたいです」と目を輝かせる。
石田の言動には常に「プロで活躍するには」「プロになったら、こうしたい」という思いが一貫していて清々しい気持ちとなる。
指導陣にも心強い援軍が揃う。投手として都市対抗出場経験のある小長谷(こはせ)洋介コーチに加え、今年1月からは社会人野球のヤマハで監督も務めた長田仁志監督が就任。「球持ちが長くて回転数が多いからボールが伸びますよね」と素材の良さに期待をかけている。
石田もまた指導を受けて「仰っていること一つひとつのレベルが高いですし、練習の効率がすごく良いです。長田監督や小長谷コーチらいろんな方に教わったことを自分なりに考えてやる時間をいただいています」と感謝の言葉を口にする。
そして感謝の思いは両親にも強い。
「ここまでずっと親にも“プロに行きたい”と言ってきたので、続けさせてくれた親にも感謝しないといけません。プロでたくさん稼いで恩返ししたいですね」
今年のテーマは「圧倒」。大志と感謝を胸に抱き、まずは夏に下剋上を目指す。まだ実績という実績は無いが、夏の主役は遅れてやってくるかもしれない。
文・写真=高木遊