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「19歳になった私を売ってください」飢えた北朝鮮女性が行き着く先は…

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
北朝鮮の兵士(写真:ロイター/アフロ)

米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)は先月26日、韓国へ逃れるため中国から東南アジアへ渡ろうとしていた脱北者15人が中国公安に逮捕されたと報じた。その後の行方は杳として知れないが、逮捕が事実なら、中朝国境に近い収容施設に移送された可能性がある。

一行の脱北を支援したキリスト教宣教会の関係者はRFAに対し、「中国公安当局が(脱北ルートの)正確な時間と場所を知って待ち伏せしていたことから、一行の中に中国公安と連携していたスパイがいた可能性がある」としている。

あるいは、脱北ルートを知る関係者の中に、公安当局によって事前に逮捕されていた者がいた可能性もあるだろう。

上記の事件との関連は不明だが、こんな情報もある。

デイリーNKの中国の情報筋によると、吉林省の松原市公安局は今年2月、中国人男性2人と脱北女性1人の3人を人身売買容疑で逮捕した。3人は北朝鮮女性を中国で売るブローカーであり、男性2人は懲役3年、女性は懲役10年の判決を言い渡された。

松原市公安局は、この人身売買の被害者数十人のリスト、脱北女性を「買った」中国人男性のリストを確保した。

冒頭で触れた15人のうち13人は女性であり、ほかの2人は子どもだ。近年、北朝鮮は国境管理をかつてとは比べ物にならないほど厳格化しており、十数人もの人々がいっぺんに脱出したとはちょっと考えにくい。少なくとも一部は中国で潜伏していたか、あるいは人身売買の被害に遭って中国に売られ、そこから脱出したのではないだろうか。

もっとも、人身売買の被害は最近もなくなっていないようだから、資金力のあるシンジケートのようなものなら、ワイロを使って国境に「穴」をあけるのも可能なのかもしれない。

ちなみに、北朝鮮においても人身売買は重罪であり、ブローカーが処刑されたという話も少なくない。それでも、被害が減る兆しはない。

(参考記事:北朝鮮の15歳少女「見せしめ強制体験」の生々しい場面

その背景にある最大の要因は、やはり「飢え」だ。かつて人身売買の被害に遭ったある脱北女性はRFAとのインタビューで、こう語っている。

「私は(自分を中国に)売ってくれと言いました。 いくらなんでも北朝鮮より暮らしやすいだろう、飢え死にすることはないだろうと思いました。(中略)数日で19歳になる、私はもう大人なのだから、売ればいい、と言ったのです」

もちろん、完全に騙されて被害に遭った女性のほうが多いものと思われるが、それにしても、飢えていなければブローカーの口車に乗ることもない。

そうして中国で暮らしている北朝鮮女性は一説に、数万人、あるいは十万人以上とも言われている。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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