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平成最後の年の「確実な未来」

橘玲作家
(提供:アフロ)

平成最後の年が幕を開けました。未来のことは誰にもわかりませんが、それでも確実にいえることがふたつあります。

ひとつは、日本社会の少子高齢化がますます進むこと。「真正保守」の安倍政権は、専業主婦モデルを破壊する「女性が輝く社会」を掲げ、定年延長で年金の受給開始年齢の引き上げを模索し、外国人労働者の受け入れ拡大に踏み切りました。どれも保守派が反対する(国際的には)リベラルな政策ですが、「安倍政権はじつはリベラルだった」という話ではなく、人手不足が深刻化する日本では、保守であれ革新であれ、なりふりかまわず「1億+外国人総活躍」に突き進むしかないのです。

もうひとつは、テクノロジーの性能が指数関数的に向上していくこと。AI(人工知能)が囲碁や将棋のプロを次々と打ち負かして衝撃が広がりましたが、技術進歩は後戻りしないばかりか加速しているので、いずれもっと驚くことが起きるでしょう。

専門家の予測があてにならないのは定番ですが、それでも(ほぼ)すべての研究者が合意していることがあります。それは、先進国を中心に格差がますます拡大するだろうということです。

格差拡大の理由は「グローバリスト(ネオリベ)の陰謀」ではなく、知識社会の深化=進化です。仕事に必要なスキル(知能)のハードルが急速に上がっていくのに対し、ヒトの認知能力はそれほど早く変化できないため、プライドをもって働いて家族を養っていた中流層が職を失うようになりました。アメリカでは白人中流層がドラッグ、アルコール、自殺などで「絶望死」しており、これがトランプ大統領誕生の背景にあります。

格差拡大は「陰謀」ではありませんが、その影響を無視することはできません。経済学者は世界各国の膨大な統計を調べ、格差の大きな社会は他人への信頼感が低く、精神疾患や薬物乱用が多く、肥満に悩み平均余命が短く、学業成績が低く、殺人などの暴力事件が多発し、その結果多くのひとが刑務所に収監されていることを統計的に示しました。

これは格差に反対するひとたちが飛びつきそうな話ですが、なぜか日本ではほとんど話題になりません。その理由は、OECD諸国のなかでもっとも経済格差の小さな国が日本で、女性の地位などいくつかの例外はあるものの、ほとんどの指標において北欧諸国と並ぶ「最優等生」になっているからでしょう。「格差社会日本」を批判したいひとたちは、この研究に言及してはならないのです。

とはいえこれは、昨今流行りの「すごいぞ、ニッポン」ではありません。日本社会でも格差拡大で多くのひとが不満や不安を募らせています。欧米では、こうした不満や不安が何倍、何十倍にも膨らんでいるのです。

そう考えれば、イギリスの「ブレクジット(EUからの離脱)」、トランプをめぐるアメリカ社会の分裂、フランスの「黄色ベストデモ」、イタリアや東欧での排外主義政権の登場など、世界を揺るがしたさまざまな出来事の背景が理解できるでしょう。

この「格差圧力」がますます強まっていくことも、私たちの確実な未来なのです。

参考:リチャード・ウィルキンソン、ケイト・ピケット『平等社会』(東洋経済新報社)

『週刊プレイボーイ』2019年1月4日発売号 禁・無断転載

作家

作家。1959年生まれ。2002年、国際金融小説『マネーロンダリング』でデビュー。最新刊は『言ってはいけない』。

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