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発熱症状ありの4人に1人が新型コロナ、嗅覚の異常は3人に1人

成田悠輔イェール大助教授、半熟仮想株式会社代表
(提供:アフロ)

2021年に入っても猛威をふるい続ける新型コロナウイルス。まだ有効なワクチンの接種が一般市民に行き渡っていない中、感染拡大防止対策は今もなお重大な課題だ。

拡大防止のカギとなるのが「感染してしまった人が周りに移すのをいかに防ぐか」である。そのためには、どのような人が感染していそうか各個人や医療機関、自治体や政府ができるだけ精確に判断することが重要になる。

たとえば熱があった場合、どれほど感染の危険性があるのか。嗅覚の異常や倦怠感があった場合はどうだろうか。たとえ濃厚接触していなかったとしても、同じオフィスで働く同僚が感染していた場合はどうだろう。

こういった素朴な疑問に対する答えがあれば、感染の恐れがある場合は直ちに接触を控え、医療機関を受診するなど適切な対処をとることが可能になるだろう。

しかし残念ながら、医師でさえ患者が感染しているかの判断が難しいと言われる中、一般市民が自分が感染しているリスクを評価するのは難しい。

この困難を乗り越えるために、状況や症状に応じた感染リスクをより正確に評価できるように、症状・状況別の新型コロナウイルス陽性率に関するデータがあれば良いのではないか。

そう考え、私たちは郵送PCR検査実施時に回収された問診票のデータに基づき、症状別の陽性率のデータを作成、解析した。私が代表を務める半熟仮想と、7月から郵送PCR検査サービスPCR Nowを運営しているエフメディカルエクイップメントと東京TMSクリニックの共同事業だ。今回はその結果を簡単に紹介したい。

私たちのデータ分析結果は以下の3点にまとめることができる:

・何らかの体調不良や感染者との接触の自覚があった場合の感染リスクが12月以降目に見えて高まっている。

・特に注意すべき症状は発熱と嗅覚異常で、発熱症状がある場合の陽性率は4人に1人、嗅覚異常の場合は3人に1人にもなる。

・一方で、症状も接触の自覚もない場合は陽性率は低い。

ただし、ここで紹介する解析はPCR Nowの検査結果と問診票のデータのみに基づいたものであり、全国のPCR検査の全体像を表しているとは限らない点に注意してほしい。しかし、各症状別の陽性率が公開された例がなく、自覚症状がある対象の陽性率が想像以上に高いという結果の重要性を踏まえ、この結果を公開する必要があると考えた。データの詳細を確認したい方はぜひこちらの報告書を参照してほしい。

重症者や濃厚接触者でなくても、体調不良の場合は感染を疑おう

検査データを通してまず明らかになったのが、体調不良者の陽性率の高さ、そして顕著な上昇だ。

9月下旬から11月末までと12月単月のデータを比較すると、体調不良者(問診票の自己申告で体調が不調と答えた者)の陽性率は、11月以前は5.5%であったのに対し、12月は11.4%にまで上昇した。

最近は東京都によって発表される陽性率が2桁であることが連日続いているため、これらの数値だけをみて驚きを憶えないかもしれない。

ただ、この郵送PCR検査サービスを受けている人は、現在行政検査の対象の中心には入らないような人、つまり濃厚接触者には入らないが接触の自覚がある人、症状が軽微な人、または医師に感染の危険性があると判断されていない人が多い。

この点を踏まえると、医師の判断なしの自覚症状のみで12月時点で11.4%ほどの陽性率が出ていたのは驚異的ともいえる。

体調不良だが新型コロナ陽性者とは無接触だと報告している検査者に限定した場合でも同様であり、陽性率は5%から10.1%へと上昇している。さらに、症状と接触の報告が両方あった場合は12%から20%まで上昇している(ただし、症状と接触が両方あるサンプルは少ないので参考値と考えてほしい)。

全期間で「周りで新型コロナウイルス感染症と診断された人がいる」と答えた人(以下、接触と呼ぶ)の陽性率は2.3%、「なんらかの体調の不調がある」と答えた人(以下、体調不良と呼ぶ)の陽性率は7.4%であった。

これらの数値は、たとえ濃厚接触歴がない、あるいは重症な症状がない場合であっても、何かしらの症状や接触した可能性がある場合は、ひとまず新型コロナウイルスに感染をしている可能性がある前提で行動するべきであることを示唆している。

発熱は4人に1人が陽性、嗅覚の異常は3人に1人

以上のグラフからもわかるように、体調不良の中で嗅覚の変化、悪寒、発熱、痰、筋肉痛、結膜炎(目の痛み・痒み・赤み)は新型コロナウイルスの可能性を特に示唆する症状である。また、倦怠感、頭痛、息苦しさ、咽頭痛、咳に関しても予断を許さない陽性率が出ている。

特に興味深いのは、医師の判断ではなく自己申告の有症状を基準にしているにもかかわらず、発熱は4人に1人、嗅覚の異常は3人に1人が陽性、と高い陽性率が示されていることだ。発熱や嗅覚の異常の自覚があった場合は、とりあえず感染を疑ってみるべきだと言える。

接触や症状がない場合の陽性率は低い

一方、自覚症状も感染者との接触の申告もない場合の陽性率は全期間で0.2%と低いことも判明した。さらに、自覚症状はないが感染者との接触の自覚はある人でも陽性率は2.3%に留まっている。症状や接触の自覚が全くない場合は、そのような自覚があった場合と比べ感染しているリスクが大幅に低くなっているようだ。

さらにコロナを抑え込むために:体調不良に特に注意を

現在の行政検査の対象は、濃厚接触者、症状の重い人、または医師に感染の危険性があると判断された人を中心としている。しかし、行政検査対象で追えない軽い症状や軽い接触しかない人々も高い陽性率を示していることが分かった。一方で、自覚症状も感染者との接触の申告もない場合の陽性率は低い。

これらのことから、体調不良や感染者との接触の自覚がある人が自主的に隔離することで、感染の拡大を抑えられるかもしれない可能性が示唆される。彼らが気兼ねなく家に引き篭れる環境づくりと雰囲気づくり、彼らが街中に繰り出さずに検査を受けられる遠隔検査体制の充実が急務である。

今後、さらに検査数が増えていくにつれ、データと分析を随時更新し公開していく予定だ。症状や状況別の陽性率を公開し続けることで、効果的な感染防止対策、検査体制などの議論に貢献することが目標だ。

最後に、今回は私たちがこのようなデータと分析を公開することになったが、ぜひ他のPCR検査機関や政府・自治体も症状別陽性率などの細かい情報を公開していただきたい。そのような情報公開は市民や医療機関が感染リスクをより正確に評価することを助ける上、私たちがPCR検査データの整理・分析といったボランティア副業をする労力を節約してくれる。関係者各所のご協力をお願いする次第である。

文=成田悠輔、粟飯原俊介(半熟仮想・自治医大)、小田啓太(自治医大・F-medical・東京大)、須藤亜佑美(半熟仮想・Yale大学)、竹口優三(F-medical・東京TMS クリニック・福島県立医科大)、田中奏多(東京TMSクリニック)

追記:本記事で紹介した郵送PCRサービスPCR Nowと私や半熟仮想の間には金銭授受や事業上の利害関係は一切なく、純粋に非営利の社会事業である。体調不良でない場合や周囲に感染者がいない場合、オッズ比などを含めたさらに詳細なデータについては、 こちらを参照して欲しい。

私と半熟仮想は他にもコロナ対策のリアルタイム効果検証・予測を実装中だ。

イェール大助教授、半熟仮想株式会社代表

経済学者・データ科学者・教育学者・事業者・執筆者。専門は、データ・アルゴリズム・数学を使ったビジネスと政策(特に教育)のデザイン。東京大学卒業後、MITでPh.D.を取得。事業者として、サイバーエージェント、ZOZOなど多数の企業との共同研究・事業に携わる。研究者として、多分野の国際学術誌に査読付論文を出版。学生時代の共訳著に『ゲーム理論による社会科学の統合』『学校選択制のデザイン』など。Forbes Japan、共同通信のコラムニストも気が向くと務める。ギャンブル魔でアル中の親の下に生まれ、10代の頃父親の失踪や自己破産を経験する。色々あって現在にいたる。

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