メガネのデジタル化は進んでいるのか~国際メガネ展IOFTより調光グラスやコロナ対策メガネなど
米国のIT大手GAFAM(Google, Amazon, Facebook, Apple, Microsoft)を中心として、世界中でスマートグラス開発の動きが顕著になってきています。スマートグラスというのはIT機能の付いたメガネのことで、「メガネのデジタル化」の流れと言ってもいいかもしれません。現状はまだまだだと思っている人が多いかもしれませんが、多くのIT系企業のトップが「スマホの次はグラス」というビジョンを持っており、近い将来メガネ業界に大きなインパクトを及ぼすことは必須だと思われます。
このような状況下で、10月27日から29日に東京ビッグサイトで開催された国際メガネ展IOFT2020に行き、スマートグラス流行の兆候がみられるかどうかを探ってきましたので報告します。この展示会の来場者は主としてメガネ店とのことで、現在主流のメガネ商品や最新のデザインのものなどが展示されていました。結果として、現時点でほとんどメガネ店での取り扱いのないスマートグラスの展示は皆無でしたが、いくつか興味深い展示がありました。
調光グラス
今回の展示のなかでおそらく唯一の電気仕掛けのメガネはeShadesが展示していた調光グラスです。光の量の変化に対して0.1秒で最適に調光するというもので、メガネのブリッジ部にある光センサーは太陽電池も兼ねているため電池なしに液晶が制御されます。IPX4の防水で、重さは30グラム、価格は29,700円(税込)、製造はwicueという中国企業です。
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電子調光はARグラスでは高いニーズのある技術で、日中にアウトドアでシースルーの画面を見るためには現状では調光機能(スモーク)が必要になります。エプソンのMOVERIOなどでは取り外し式のスモークが用意されていますし、リコーは電子調光フィルター技術のARグラスへの展開を考えているようです。性能がよく低コストな電子調光技術は、スマートグラス競争に突入しているIT大手にとっては喉から手が出るほど欲しいものではないかと思います。eShadesは中国企業からの輸入販売ということなので、米ARグラス企業が技術利用したいというような場合にはその点が問題になりそうです。
もう一つ、電気方式ではなく化学方式の調光グラスがありました。SWANブランドで有名な山本光学の調光グラスです。山本光学では10年以上にわたり調光グラス製品を出しているとのことで、かなり性能がよくなってきたとのことです。化学方式は電気方式と比べると反応時間が非常に遅い点が問題となるのですが、今回展示されている商品に関しては、展示を見る限り紫外線を当ててスモークが入るのに数秒、戻るのに30秒程度のようでした。SPB-0066 MAW SPRINGBOK 調光レンズモデルで22,000円(税込)。
前述のARグラスでの調光技術需要を考える上で、この反応時間がどれくらいの時間であるべきなのかという点が現時点ではわかっていません。瞬時に明るさが変わる典型例は車運転時のトンネルの出入りで、サングラスとしては即応性が求められるところですが、ARグラスとしてもおそらく必要そうです。部屋の出入りや部屋の照明の明転、暗転などは一般的にはそれほどの即応性は求められなさそうですが、ARグラスの用途にもよるのかもしれません。今後の使用経験で電気方式と化学方式の優劣がわかってくるのではないかと思います。
コロナ対策メガネ
今回コロナ対策の製品が多数出ていたのが印象的でした。デジタルなものはありませんでしたが、コロナ対策商品はセンサやファン、LEDとくみあわせるなどデジタルとの相性が非常に良いものです。企業の新しい波への対応の素早さを計るバロメータとしても考えられるかもしれません。
ノーベルアームズ社の展示では、ESSという米企業のゴーグルがコロナ対策商品として今回の展示会の機能技術部門でメガネ大賞を受賞していました。ノーベルアームズはESSの国内の総代理店だそうです。受賞商品はメガネに取り付ける「ガスケット」と呼ばれるアタッチメントで飛沫感染対策ができるものです。ESSは主として軍事用のゴーグルを開発・販売している会社で、CROSSBOWという商品名で民生展開もしています。スポーツなどですでに広く使われているとのことです。ガスケットはゴーグルに簡単にパチッとはまり、装着すると肌にピタッとくっつく感じです。CROSSBOW 3LS 23,600円(税別)、ガスケット7,800円(税別)。
福井県コーナーからはスギモトデザインスタジオのブースで顔をガードするメガネが展示されていました。3ヘルメットのシールドのような頑丈な素材で、鼻当てがあるのでフィット性、安定性が非常に高い点が特徴です。金型で量産しているとのことで、鼻当ての部分など、組み立て式になっていました。担当のスギモトさんは「フェイスシールド」と呼ぶのはネガティブな感じがするのでそう呼びたくないと言っていましたが、結局どう呼べばよいのかは聞きそびれました。3,960円(税込)で販売中です。
スギモトデザインスタジオのホームページ(「福井・鯖江めがね総合案内サイトJAPAN GLASSES FACTORY」のホームページ内の「スギモトデザインスタジオ」の紹介ページ)
福井県コーナーからもう一つ、スマートグラスのフレームも作っている鯖江のメガネメーカー三工光学のブースではたくさんのメガネが展示されていたのですが、その脇にチタンでできたタッチレスフック「OPTIOO」という商品が展示されていました。メガネ風の形状ですがメガネではありません。カバンなどにキーホルダーのように取り付けておき、乗り物のつり革やレバー式のドアノブ、エレベーターのボタンなどを直接触らず、これを使ってタッチするという商品です。菌が付着しても光を当てれば滅菌されるという表面処理もなされているとのこと。2,980円(税込)。
福井県コーナーとは少し離れたところにボストンクラブのブースがありました。ボストンクラブは福井県鯖江市のメガネ企業大手で、これまでにスマートグラス用のアタッチメントを販売するなどスマートグラスへの事業展開には非常に積極的な会社です。今回はメガネ店向けの展示会だということでスマートグラス関連の展示はありませんでしたが、説明員の皆さんが独自開発のフェイスシールドCOOKAIをつけていました。COOKAIは1週間前にMAKUAKEでクラウドファンディングに出したところ目標額の4倍に達したということです。顔全体を隠さないデザインとつけていて気にならない装着性がポイントです。価格はフルフェイスセット1,800円(税別)、アイガードセット、マスクセットいずれも1,700円(税別)です。
まとめ
このメガネ展併設セミナーで私は講演をしたのですが、そのなかで「メガネ業界には近いうちにデジタル化の大波が来るのでうまく波に乗れるか乗れないかで勝ち組、負け組に大きく分かれる」という点を力説しました。ちょっと大げさに聞こえるかもしれませんが、カメラやオーディオ、携帯電話、ウォッチなどが過去に遭遇したデジタル化の波はまさにそのような状況を作り出しました。この記事では詳しく述べていませんが、メガネ業界に大波が忍び寄っているということは真実ではないかと思います。メガネ業界の皆さんにはぜひこの新しい波を意識しておいてもらいたいと思っています。
最後に主催者の一つである福井県眼鏡協会が公認するメガネ大使「CUTIEPAIまゆちゃん」さんより皆さんへ、福井のメガネをよろしくとのことです。メガネの曲なんかも作っておられます。
第33回国際メガネ展(正式略称:IOFT2020)
主催者:リードエグジビションジャパン株式会社/一般社団法人福井県眼鏡協会
会期:2020年10月27日(火)~29日(木) 10:00~18:00(29日のみ17:00終了)
会場:東京ビッグサイト西展示棟
概要:日本最大のメガネ展/世界5大眼鏡展の一つ
※ウェアラブルチャンネル(YouTube)でも近々IOFT2020の様子を配信する予定です。