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全英オープン、「驚きの敗退者たち」と「スポットライトの向き」

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
マキロイ、ウッズ、ミケルソンが予選落ち。リーダーボードの最上段には誰が!?(写真:ロイター/アフロ)

 全英オープン2日目が終わり、予選落ちを喫した選手たちはロイヤル・ポートラッシュを早々に去っていった。北アイルランドに68年ぶりに戻ってきた今年の全英オープンで4日間を戦うことができなくなった「敗退者たち」。その顔ぶれが人々を驚かせている。

【ウッズ&ミケルソン、史上初!?】

 世界のゴルフ界を牽引してきた2大スターと言えば、タイガー・ウッズとフィル・ミケルソン。米メディアの統計によれば、2人がともに出場したメジャー大会はこれまで82試合あり、その中で2人がともに予選落ちを喫したメジャーは今回が「史上初」なのだそうだ。

 そんな記録をきっちり取って、素早く分析しているとは、さすが米メディアだと、そんなところにも驚かされたが、それはさておき、ウッズもミケルソンも同時に姿を消してしまったことは、世界中のゴルフファンにとって残念な結果だ。

 今年のマスターズを制したウッズには、メジャー16勝目への期待が膨らんでいた。とはいえ、ウッズ自身は心身の疲弊を感じ、出場試合数を極力抑えながら、今季わずか10試合目として全英オープンを迎えた。4週間ぶりの試合出場。だが、体内時計を現地時間に合わせるため、開幕10日前から午前1時起床を続け、時差対策もしっかり行ってきた。

 しかし、初日に「思うように体が動いてくれなかった」と肉体の不調に苦しみ、78を叩いて大きく出遅れた。2日目は1アンダー、70と奮闘したが、カットラインには5打も及ばぬ通算6オーバーで予選落ち。

「イーブンパーに戻すチャンスはあった。だが、パー5で伸ばすことができなかったのが痛かった」

 ミケルソンは今季は春先にAT&Tぺブルビーチを制し、「素晴らしい1年になると思っていた」。だが、以後の彼の成績は下降の一途。「この4カ月はびっくりするほど悪くなっている」。

 そして今大会は76-74とまったく振るわず、出場3試合連続の予選落ちとなった。

「悪すぎて何と言ったらいいのかわからない」

【マキロイ、最大の注目から落胆へ】

 北アイルランドの人々は、地元出身のビッグスター、ローリー・マキロイが予選落ちに終わったことに、さぞかし落胆していることだろう。いやいや、マキロイは米国ラスベガスのブックメーカーによる優勝予想でもブルックス・ケプカと1位、2位を競り合っていたわけだから、マキロイの予選落ちは世界のゴルフファンを驚かせ、落胆させたと言っていい。

 1番の第1打でOBを打ち、8を叩く大波乱から始まった初日は79。それでも2日目は7バーディー、1ボギーの65と大幅に巻き返したが、カットラインに1打及ばず、無念の予選落ちとなった。

「とても残念。悔しい気持ちが込み上げてくるけど、今日のプレーには満足だ。でも、今週をずっと心待ちにしてきたから、この予選落ちで僕の心はしばらくは癒えないと思う」

【注目の陰から、上位へ】

 リーダーボードに目をやれば、最上段には通算8アンダーで首位に並んだJBホームズとシェーン・ローリーの名前があり、そのすぐ下の7アンダー、3位タイにはリー・ウエストウッドがいる。いずれも開幕前の注目は、ほぼ皆無だったと言えるだろう。

 英国出身のウエストウッドは米ツアー2勝、世界40勝の強者だが、すでに46歳という年齢、世界78位の位置づけは、全英オープン開幕前の注目を浴びるものではなかった。だが、彼は交際中の恋人ヘレンをキャディに付け、マインドコントールを彼女に託して戦いに臨んでいる。

 ホームズは今年のジェネシス・オープンを制し、米ツアー通算5勝目を挙げた実力者だが、その際、彼のスロープレーぶりが取り沙汰され、選手たちからも批判が続出する騒動があった。しかし、ホームズ自身は「僕はスピードアップしているし、計測すらされていない」と胸を張り、以後も我が道をコツコツ歩んできた。

 32歳のローリーは2015年に世界選手権のブリヂストン招待を制し、それ以外にも欧州ツアー3勝を誇る実力者だが、今年の全英オープンにやってきたときは「僕はまったく注目されていなかった」。

 ロイヤル・ポートラッシュでは地元の北アイルランド出身のマキロイやグレーム・マクダウエル、ダレン・クラークらにスポットライトが当たり、アイルランド出身の自分は日陰の存在に過ぎなかったと彼は振り返った。

 現地入りしたときは、注目のみならず自信も「僕には無かった」。だが、信頼するコーチのネリ・マンチップとカフェに行き、2人で腹を割って徹底的に話し合ったことで糸口が見え、「自信を取り戻した」。

 開幕前の優勝予想や期待や下馬評に関わらず、目立たずとも、ひっそり地道に鍛錬を積み、戦うための心技体すべてをトータルで上向かせる努力を惜しまなかった選手たち。彼らはスター選手たちの陰に身を潜め、長年、メジャー制覇のチャンスを虎視眈々と狙ってきた。

 今、そんな彼らがチャンスを掴み始めている。ひとたびチャンスを掴んだら、彼らはきっと頑強で揺らがない。スポットライトの向きは、すでに大きく変わった。今年の全英オープン決勝ラウンドは、そんな彼らが光を浴びる2日間になりそうだ。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、ラジオ福島、熊本放送でネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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