北朝鮮で将校・兵士が集団脱走…体制擁護の「重要命令」を拒否
北朝鮮で将校・兵士が集団脱走…体制擁護の「重要命令」を拒否
北朝鮮の朝鮮人民軍で将校や兵士が集団で脱走する事件が起こり、当局が困惑している。
朝鮮人民軍ではしばらく前から、脱走兵が中国へ越境し、強盗殺人を働く事件が頻発している。ある事件では、中国朝鮮族の民家に押し入った脱北兵士が住人4人を次々殺害。死体の転がる民家で食事をした上、中国元を奪って逃亡を図っている(後に射殺)。
こうした事件が相次ぐ背景には、朝鮮人民軍の下級兵士たちの厳しい困窮事情がある。
ただ、今回の脱走事件はやや様子が異なるようだ。
脱走したのが、国内の名勝地で金日成・金正日両氏のモザイク壁画の制作に動員されていた朝鮮人民軍工兵局第1旅団から除隊直後の軍人18人と指揮官1人なのである。
彼らは、長い兵役を終えて除隊し、後は家に帰るのを待つだけだった。しかし、10月10日の労働党創建70周年に向けて、七宝山に金日成一族のモザイク壁画が制作されることになり動員された。
やっと除隊を迎えたと思ったら、軍役を勝手に延期され動員されたことに不満を抱いて集団脱走したと見られる。
北朝鮮はいま、10月10日の党創建記念日を盛大に祝うために、様々なムリを重ねている。まず、当局が準備事業を優先させることによって主要産業施設への電力供給が低下。「住民経済に悪影響が及ぶのでは」という不安感が広がっている。
また金日成氏と正日氏の父子が並んで立つ銅像の制作も進められている。作業は「万寿台創作社」が担当し、必要経費は地方機関が負担するのだが、結局は末端の庶民達が資金捻出を迫られることになる。
銅像が建てられた後も、日常的な「銅像掃除」や「記念日の参拝」が義務づけられ、住民にとって煩わしい行事の一つだ。
それでも、かつてこうした作業は「最も崇高な仕事である」と喧伝され、ここに熱心に参加することで、当局から好意的な評価を得ようとする住民も少なくなかった。軍人にこうした作業が命じられる場合、それは体制を擁護する上での重要命令として下された。
それだけに、サボっているのがバレたら、「不満分子」の烙印を押され、様々な不利益を被る。ひどい場合には、政治犯収容所に送られることもあったはずだ。
ところが、今やそのような現場から、将校や兵士が集団で脱する時代になった。北朝鮮の人々の意識は、目に見えて自由になってきていると言える。