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ラブリさんを告発したA子さんの訴え 「女性同士による性被害」の盲点と深刻さ

小川たまかライター
1月28日号の週刊文春より(筆者撮影)

 1月28日号(1月21日発売)の週刊文春で、モデルのラブリさんから性被害に遭った女性の告発が掲載されている。理解されづらい「女性同士の被害」について、被害を告発したA子さんに話を聞いた。

文春オンライン(2021年1月20日)「社会派インフルエンサーモデル」ラブリの“強制わいせつ”を被害女性が告発

●性被害の経緯

 A子さんは2018年末にラブリさんに関係するプロジェクトの責任者となり、関係者など男女5人で2019年5月に和歌山県白浜町に旅行。

 同性であったことからA子さんとラブリさんは同じ部屋で就寝することとなったが、先にベッドで休んでいたA子さんに対して、ラブリさんが突然、性的な行為を行った。

 A子さんは「男の子が好きなので、女の子は無理です」などと言って抵抗したが、ラブリさんより20センチほど身長が低く、さらにAさんの当時の体重は35キロほど。力で敵わなかった。

 A子さんはその後、6月にPTSDの可能性があると診断され、さらに詳しい検査を受けた後、8月に「重度のPTSD」と診断を受けた。

●被害時の状況とその後

 ベッドの上で覆い被され、抵抗するも押し倒される……という状況は午前4時30分頃から約2時間にわたって続いた。それはA子さんにとって、とても長い時間だった。

「恐怖とパニックの中で同じような抵抗をして、その度に押し倒されて、これ一体何回やるんだろう……と。壊れたロボットみたいになっていきました」

「(抵抗を続けていたらラブリさんから)急に『うるさい!』と言われ、びっくりして動けなくなりました。もう無理だと思って目をつむっていたら、身体が幽体離脱するような感覚がありました。それまでも自分が3〜4人いるような感覚でしたが、身体から自分の意識が完全に分離したような状態になってしまい、ほとんど動けなくなってしまいました」

 虐待や性暴力などの被害に遭った人が被害時に幽体離脱のような感覚に陥ることはしばしばあり、「解離(かいり)」「周トラウマ期解離」と呼ばれる。自分の精神を守るための心理状況と考えられている。

 A子さんの具体的な被害は、胸を揉まれる、下着を脱がされ陰部を舐められる、陰部に指を入れ動かされるといったもの。被害は下半身に集中していたという。

 同年の6月に性暴力被害者を支援するNPO法人と警察に相談。被害届を出す決心を固め、8月、和歌山県警に被害届と告訴状を提出した。

●「レイプ 死にたい」で検索した

 被害によって大きなショックを受けたA子さんに追い討ちをかけたのは、周囲の無理解だった。

 相談した人から「女同士はレイプにならない」「(相手が)きれいな女性からだからいいじゃないか」「その行為で(同性愛に)目覚める人もいる」などと言われることがあった。性被害の中でも同性同士や、女性による加害行為は特に可視化されづらく、理解されづらい傾向がある。

 Aさんは相談先を探した際のことを、こう話す。

「『レイプ 死にたい』『レイプ 助けて』で検索して、被害者支援のNPOを見つけました。私の被害は一般的には『レイプ』と呼ばないかもしれません。でも自分にとっては『レイプ』だったんです……」

 後述する通り、日本の場合、暴力や脅迫を用いて性器に指を挿入する行為は「強制わいせつ罪」に分類されるが、イギリスやフランスでは性交の強要と同等の罰則規定がある。

 また、アメリカなどでは「レイプ」という表現が使われた場合、性器や肛門に指や異物を挿入する行為も含むことが多い。「レイプ」という言葉の定義には地域差があるのが実情だ。

●法改正で漏れた「指や異物による性加害」

 暴力や脅迫を用いて性器に指を入れる行為は「強制わいせつ」に分類される。

 2017年の法改正により、これまで膣性交の強要のみに限られていた「強姦罪」が「強制性交等罪」と改められ、これまで「強制わいせつ」だった口腔性交・肛門性交の強要も含まれることとなった。「男性も被害者に」と表現されることが多い。

 しかし、挿入されるものが男性器に限られていることから、当事者や支援者はこの点の不足を訴え続けている。

 指や異物の挿入も「強制性交(レイプ)」と規定してほしいという訴えだ。

ハフィントンポスト(2020年9月23日)レイプ被害の成立要件「男性器の挿入」。刑法が「実態に見合っていない」被害者らが訴える

 挿入されるものが指や異物であっても、被害者に深刻なダメージを与えることに変わりはない。また、「女性からの加害行為」の深刻さが理解されづらいのは、「男性器以外の挿入」が軽視される傾向と無関係ではないだろう。海外の場合、イギリスやフランスでは、指や異物の挿入も性器の挿入と同等の規定が設けられている。

●「同意がなかった」だけでは罪に問えない

 週刊文春の報道が出たあと、Aさんはネット上など世間の反応を見ていて気づいたことがあったという。

同意がないのだから罪になるはずと捉えている人が多いと感じました。急に襲われたら体がかたまってしまい抵抗できないのが普通だと言っている人も。

 私も自分が被害に遭うまで、同意がなかったのだから犯罪と認められると思っていました。けれど実際は、行為があった、同意はなかったことにプラスして、『被害者の抵抗を著しく困難にさせる程の暴行・脅迫』を立証する必要があると知り、ショックを受けました」

 現在の刑法では、「強制性交等罪」や「強制わいせつ罪」には暴行・脅迫要件があり、暴行・脅迫を用いて行われたことや、被害者が加害者にわかるかたちで抵抗したことを立証できない限り罪に問えない。

 一方、スウェーデンやイギリスなど、暴行・脅迫の有無ではなく同意の有無を判断の基準とする「不同意性交罪」を採用する国も増えつつある。日本では今、さらなる刑法改正に向けて検討会が行われているが、不同意性交の採用はもちろん、暴行・脅迫要件の撤廃が通る可能性は低いと予想されている。

 被害当事者団体や支援者は、暴行・脅迫要件は被害者を訴えづらくさせるものとして撤廃や緩和を求めている。

 A子さんは警察の取り調べで、自分は同性への性的関心がないことや、そのようにラブリさんに伝えたことを話したが、それだけではじゅうぶんではないかもしれないと暗に告げられたという。

「被害を受けた側は何も悪くないはずなのに、誰にも言うなと口止めされたこともあります。実際に勇気を出して被害を訴えても、暴行脅迫の証明を被害者側に求められるのですごく負担が大きかったり……。性被害に遭うというのは、こんなに理不尽なものなのかと驚いています」

「被害に遭う前の私のように、同意がないだけでは罪にならないことを知らない人も多いと思います。この件がどうなるかは、証拠次第だとは思いますが、これが犯罪でなければ、何が犯罪になるのかと疑問に思います」

 ラブリさんは事情聴取を受けており、捜査は今も続いている。

●今後被害に遭う人が出ないように

 ラブリさんはこれまで性的指向を公表していないことから、A子さんは「自分の被害を公表することでアウティングと言われてしまうかもしれない」と悩んだという。

 ただ、A子さんは被害後に旅行の同行者から「知っていたら同じ部屋にしていないから」と言われている。Aさんも、同性から性被害に遭うとはまったく考えていない状況だった。

 ラブリさん側の弁護士は週刊文春の取材に対して「客観的事実はこちらの認識とは違います」「犯罪行為はありませんでした」と強調したというが、A子さん側からすれば、当時起こったことは紛れもなく性暴力だった。

 今後被害に遭う人が出ないようにと告発を決意したA子さんの気持ちはじゅうぶんに理解できる。

 一方で、当事者の性的指向について詮索が行われたり、中傷されることはあってはならないと考える。

ライター

ライター/主に性暴力の取材・執筆をしているフェミニストです/1980年東京都品川区生まれ/Yahoo!ニュース個人10周年オーサースピリット大賞をいただきました⭐︎ 著書『たまたま生まれてフィメール』(平凡社)、『告発と呼ばれるものの周辺で』(亜紀書房)『「ほとんどない」ことにされている側から見た社会の話を』(タバブックス)/共著『災害と性暴力』(日本看護協会出版会)『わたしは黙らない 性暴力をなくす30の視点』(合同出版)/2024年5月発売の『エトセトラ VOL.11 特集:ジェンダーと刑法のささやかな七年』(エトセトラブックス)で特集編集を務める

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これまで、性犯罪の無罪判決、伊藤詩織さんの民事裁判、その他の性暴力事件、ジェンダー問題での炎上案件などを取材してきました。性暴力の被害者視点での問題提起や、最新の裁判傍聴情報など、無料公開では発信しづらい内容も更新していきます。

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