女子高生「見せしめ」公開裁判が示す金正恩体制の弱点
米国の議会で、北朝鮮への外部情報の流入拡大を推進する動きが強まっている。
上院では共和党のマルコ・ルビオ議員、民主党のベン・カーディン議員らが11日、北朝鮮人権法の延長法案を提出した。北朝鮮に人権状況の改善を迫る同法は、2004年に4年の時限法で制定された。2008年、2012年と二度の延長を経て今年、有効期限を迎える。
今回の法案は、これを2022年まで5年間延長するとともに、北朝鮮国内に外部情報を送り込む取り組みを強化するとの内容が盛り込まれた。
一方、下院でもテッド・ヨホ外交委員会アジア太平洋小委員長(共和党)が、同様の法案を提出している。
北朝鮮にはすでに、韓流ドラマをはじめとする様々な外部情報が流入しており、庶民の間で密かに拡散。人々の「心の中の自由」を押し広げながら、北朝鮮社会を徐々に変化へと導いている。
(参考記事:北朝鮮に「ブラジャー」がもたらした意識変化)
米国が、その巨大なパワーをここに振り向けるならば、変化のスピードが速まることも期待できるかもしれない。
ただ、情報流入を拡大するといっても、あらゆる情報が歓迎されるわけではない。
韓国の北朝鮮専門ニュースサイト、ニューフォーカスは最近、脱北者100人を対象に、米国や韓国の官民が北朝鮮向けに行っているラジオ放送(対北放送)についてのアンケート調査を行った。その結果、北朝鮮にいた頃に対北放送を聞いたことがあると答えた人はわずか9人に過ぎなかった。
理由は単純である。つまらないからだ。
対北放送は、北朝鮮の人々に情報を与え、意識を変化させることに重点が置かれているため、報道番組や、堅苦しいお説教のような内容が多い。また、流される音楽も、流行のK-POPより一昔前の音楽が多い。
一方、USBメモリなどに保存されて北朝鮮に持ち込まれるドラマ、映画、バラエティは、もともと北朝鮮ではなく、韓国や海外のマーケットを対象に練られたコンテンツなので、娯楽色が強い。
現在の対北放送は、最新の世界情勢を知りたがっている少数の知識人や、気象情報を必要とする漁民、市場情報を求める商人たち以外にとっては、ありがたみが薄いのだろう。処罰されるリスクを甘受してまで積極的に聞こうとするものではないというわけだ。
(参考記事:北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは…)
ということは逆に、米国が誇るハリウッドの「エンタメ力」を動員できるならば、かなり破壊力の強い情報流入を実現できるかもしれないということだ。実際、2016年1月には北朝鮮の女子高生ら15人が「米国映画を見た」との容疑で、「見せしめ」のため公開裁判にかけられる出来事があった。ハリウッド映画は、すでに北朝鮮でも見られているのだ。
人間の感性にうったえる優れたエンタテインメントは、体制の違いを超えて多くの人々に訴えかける力がある。今のところ、これの他に、金正恩体制の弱点を突く有力な武器は見つかっていない。日本の場合、世界的に人気のマンガやアニメが武器になり得るということだ。
もっとも、ハリウッドを動かすには相当なカネがかかるだろうが、だからこそ、米国政府が本気になってくれることを期待したいものだ。