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10円硬貨の製造枚数の減少と日本のキャッシュレス化の進歩状況

久保田博幸金融アナリスト
(提供:イメージマート)

 財務省の2022年度計画によると、10円硬貨の製造枚数は前年度実績より約3割少ない1億200万枚となり、この20年間で最少となる見込み。1円、5円もそれぞれ100万枚にとどまる(6日付時事通信)。

 これをみても日本では着実にキャッシュレス決済が進んでいるようにもみえる。しかし、経済産業省はさらなるキャッシュレス決済比率の増加を推進しようとしている。

 少し古いが、経済産業省の2020年1月の資料によると、日本のキャッシュレス決済比率は約20%にとどまっている。主要各国では40%~60%台。キャッシュレス決済比率を2025年までに4割程度、将来的には世界最高水準の80%を目指すとしている。

「キャッシュレスの現状及び意義」経済産業省 https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/cashless/image_pdf_movie/about_cashless.pdf

 いったい経済産業省が何を目指しているのか。

 この資料によるとキャッシュレス決済には、「クレジットカード」、「デビットカード」、「電子マネー(プリペイドカード)」、「モバイルウォレット(QRコードなど)」がある。

 日本におけるキャッシュレス決済において、その決済額の8~9割をクレジットカードによるものが占めている。さらに電子マネー(プリペイドカード)そのものが日本の技術が多く用いられていることもあり、普及率は高いとみられる。

 これに対して「デビットカード」については普及が伸びておらず、こちらは確かに現金志向が大きく影響しているとみられる。

 「モバイルウォレット(QRコードなど)」については徐々に伸びてきているが、中国のような急速な普及は難しいであろう。

 消費者の利便性の向上として、「手ぶらで簡単に買い物が可能に(大金の持ち歩きや小銭の管理が不要に)」、「お買い物の消費履歴の管理が簡単に(自動家計簿など)」、「カード紛失・盗難時の被害リスクが低い(条件次第で全額保証)」とある。

 これについては災害時の停電のリスクが意識されようが、それ以前に「手ぶらで簡単に買い物が可能に」なるのは、店側の対応も必要となる。さらに自動販売機などが対応し切れていない面もあり、一定額のキャッシュは持ち歩く必要がある。

 「お買い物の消費履歴の管理が簡単に」とあるが、現在ではアマゾンなどの通販利用も多くなり、クレジットカードの消費履歴である程度事が足りる。

 カード紛失・盗難時の被害リスクが低い側面はあるが、現金は履歴が残らないというある意味利点との裏返しとなる。

 店側にとっては「現金管理の手間の削減が可能に」なろうが、やはり手数料の問題がここには絡んでくる。

 日本では無理にキャッシュレス比率を引き上げる必要性はあまり感じられない。それでも徐々に「電子マネー(プリペイドカード)」の普及などにより、小銭を使う機会は減っていることが、今回の財務省の計画からもうかがえる。

 むしろ、将来的には世界最高水準の80%を目指すことに無理があろう。もしもの時の現金頼みもあるし、現金利用のインフラが完全に整備されていることから、利用者もそれほどキャッシュレスによる恩恵を感じない面もある。

 ただし、キャッシュレスに何かしらの利便性を紐付けることによって劇的に普及する可能性もないわけではない。しかし、その「何かしら」がなかなか出てこないことも確かではなかろうか。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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