金正恩氏も認めた核ミサイル開発の「欠陥と教訓」とは何か
北朝鮮では11~12日の2日間にわたり、「第8回軍需工業大会」が開かれた。過去の北朝鮮メディアの報道を見た限りでは、軍需工業大会開催の情報が明らかにされたのはこれが初めてだ。北朝鮮メディアの報道を分析したところ、いくつか気になる点がある。
まず、北朝鮮はなぜ、今大会の情報を公開したのだろうか。その目的は、金正恩氏による核・ミサイル開発の成果を強調し、今後も継続していく意志を国内外に強くアピールするためだろう。
現場では事故多発
さらには、国内の引き締めを図る狙いがあると思われる。米国との対立が激化するなか、北朝鮮国内の一部の幹部らの間では、米国との間で戦争が起きるかもしれないとの見方が広まっている。そのうえ彼らの多くは、「仮に戦争になっても、米国を撃破し勝利するであろう」という中央の宣伝をまったく信じていない。
それもそうだろう。米国と戦う主体となるべき朝鮮人民軍(北朝鮮軍)内部では物資の横流しや性的虐待といった、軍紀びん乱が著しい。幹部たちは、そのことを知り尽くしている。
(参考記事:北朝鮮女性を苦しめる「マダラス」と呼ばれる性上納行為)
そして気になったのは、大会に本来なら参加していて当然の2人の人物が見えなかった。その人物とは黄炳瑞(ファン・ビョンソ)軍総政治局長と、金元弘(キム・ウォノン)同第一副局長だ。いずれも朝鮮労働党中央軍事委員会のメンバーとされており、大会のひな壇に座ってもおかしくない。
この2人については粛清説が伝えられている。現時点で真偽は不明だが、大会に欠席したのは粛清説を裏付ける一つの材料といえるだろう。
(関連記事:北朝鮮で「大量粛清」の懸念…「軍幹部を追放、収容所送りも」韓国紙報道)
金正恩党委員長は今大会で「国家核戦力の完成」を宣言した。米国を攻撃することが可能な核兵器の開発に成功したということだ。これについては「なお課題を残している」との指摘があるが、北朝鮮のミサイル技術が日増しに進歩していることは間違いない。
特に2017年は、核実験を1回、長距離弾道ミサイルの発射実験を3回、中距離弾道ミサイルの発射実験を2回強行するなど、核兵器開発のスピードを加速させた。
その一方、大会を報じた朝鮮中央通信の記事には、次のような一文がある。
「国防科学研究部門と軍需工業部門に内在している欠陥と教訓も分析、総括された」
「欠陥と教訓」とは一体、何を指すのか。素直に読めば、核ミサイル開発においてまだまだ解決すべき課題があるという意味に思える。米国のマティス国防長官も、北朝鮮が先月29日に発射した大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星15」型は、今すぐ脅威にはならないと見ているとの分析を明らかにしている。
それとも現場の技術部門に対して、より高いレベルの核開発を進めることを促す意味合いかもしれない。北朝鮮がこのような表現を使う場合、思想的な問題を指していることが少なくない。核ミサイル開発の現場にいる科学者たちは、合理的思考の持ち主であるはずだ。だからこそ、たとえば「現在の条件下では、達成可能なのはここまでだ」という判断を下すこともあるだろう。
しかし北朝鮮の体制は、そのような考え方を「敗北主義」として排撃する。その上で現場に「思想戦」を求め、無理難題をふっかけるのだ。そのようなやり方が「成果」につながることもあるが、それと引き換えに、現場は様々な犠牲を強いられることになる。実際、北朝鮮のミサイル開発の現場では、事故が多発している様子が観測されている。
(参考記事:「炎で焼かれる兵士」映像も…北朝鮮、ミサイル発射実験で事故多発)
そして、「欠陥と教訓」の「教訓」がどのようなものであるかと言えば、このような犠牲さえ甘受すれば、どのような課題も達成できるとする考え方のことであろう。
どんなに苦しく、どんな犠牲を払おうとも核兵器開発を完成させる――軍需工業大会の報道で言い表されたのは、まさにこのことではなかろうか。