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「朴槿恵退陣デモ」を戒厳令で鎮圧計画疑惑が再浮上! 野党「自由韓国党」の黄代表が関与?

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
2年前の「戒厳令計画疑惑」を掛けられている自由韓国党の黄教安代表(写真:Lee Jae-Won/アフロ)

朴槿恵大統領(当時)の退陣を求めた民衆の蝋燭デモがピークに達していた当時、朴槿恵政権が事態収拾のため戒厳令を準備していたとの疑惑が昨年7月に明るみに出て、検察と軍による合同捜査団が調査に着手したが、戒厳令を計画した中心人物のチョ・ヒョンチョン前軍機務司令官(旧国軍保安司令官)が海外に逃亡したため4か月後の11月に捜査は中断し、全容は明らかにされなかった。

 ところが昨日、軍人権センターのイム・テフン所長が国会の国防委員会国政監査で証人として出席し、軍機務司令部(旧国軍保安司令部)による2017年2月に作成された「蝋燭戒厳令文書」の原本を入手したとして、A4サイズ用紙8枚から成る文書を公開した。

 市民団体の軍人権センターは昨年7月に機務司令部の内部情報として機務司令部が作成した戒厳令文書「戦時戒厳及び合同捜査部業務遂行方案」を公開していたが、今回明らかにしたものはその原本の「現時局関連対備計画」。

 主な内容は▲戒厳令は朴大統領弾劾審判宣告日の2日前に着手する▲青瓦台、国防部、政府総合庁舎、最高裁判所、検察、光化門、龍山以外にも大学生が終結する新村や大学路、ソウル大学に戦車を駐屯させる▲青瓦台を中心とした江北に(デモ隊が)集まらないようにするため漢江の橋を10か所、即ち城山大橋から聖水大橋までの10か所を戒厳軍が掌握する▲「反政府政治活動禁止」布告令を宣布し、野党議員(現在の与党議員)らを集中的に検挙し、司法処理する▲大統領代行は国軍最高統帥権者なので戒厳令宣布は大統領代行が行う等となっている。

 文書には「戒厳宣布必然性評価」という項目があり、そこには「NSC(国家安全保障会議)を中心に政府部署内で軍介入の必要性の共感形成」という記述があった。「NSCは協議後に国務総理に報告する、国務総理室とNSCが戒厳令の宣布を事前に協議する」ことが書かれている。

 イム所長は、「NSCは当時大統領代行であった黄教安国務総理が主宰し、実際に2016年12月9日、2017年2月15日、同2月20日の会議に出席していた」と証言し、「NSC議長としてこの文書を知らなかったと言うならば、無能な人物ということになり、知っていたとすれば、共謀加担したことを意味する」として、黄代表が蝋燭デモを軍事力で鎮圧することを検討していたと主張している。

 イム所長の証言を受け、国防部は「原本は初めて知った。その文書を確認してみる必要がある」との談話を発表し、海外逃亡中のチョ前司令官の身柄が確保されれば、合同捜査部と協力して、調査を行う考えを明らかにした。

 また、与党は「昨年11月に戒厳令文書関連疑惑合同捜査団はチョ前機務司令官が海外に逃亡してしまったため調査を中止せざるを得なかった。今、検察はすでに確保した資料と陳述を基に黄代表を含めた関係者への捜査を直ちに再開すべきと」のコメントを出している。

 一方、「自由韓国党」は「黄代表は戒厳令の議論に関与したこともなければ、報告を受けたこともない。すでに究明されていることだ。これは、我が党を貶めるためのフェイクニュースである」として、イム所長を名誉棄損で告訴することを検討しているが、イム所長は「韓国党による法的対応は望むところ」と、「自信」を見せている。

 筆者も3年前の11月13日、「韓国でクーデターは起きないか」との見出しの記事で軍が前面に出て来る可能性について言及したことがあった。

 「崔順実スキャンダル」が表面化してから毎週土曜に行われる韓国のデモは初回の2016年10月29日の2万(警察発表9千人)から2度目の11月5日の20万(4万5千人)、そして12月12日は100万(26万)に膨れ上がっていた。

 仮に主催者の発表どおりならば、建国(1948年)以来最大規模のデモという評価は別にして、少なくとも韓国では米国産牛肉の輸入再開に抗議した2008年6月10日(主催側推計70万人、警察推計8万人)のデモを上回る21世紀最大規模のデモであったからだ。

 警察は12日のデモに警察・機動隊272個中隊、合わせて2万5千人を配備したが、警察力で治安が回復できない場合は、追い込まれた朴大統領が大統領権限である戒厳令を宣布することも十分にあり得た。

 実際に、当時、朴大統領を支持する60代から70代の700人前後デモ隊がソウルで集会を開き、「朴大統領の退陣デモに参加しているのは民主主義を破壊する従北左派勢力である」と非難し、主催者の一人であるソン・サンデ「ニュースタウン」発行人に至っては「朴大統領は直ちに戒厳令を宣布し、アカらを一人残らず捕まえろ」と叫んでいたことも気になっていた。後に分かったことだが、これは官製デモであった。一部の参加者には金銭がばらまかれていた。

 また、2016年11月8日に開かれた国会法制司法委員会で与党・セヌリ党のキム・ジンテク議員が「北朝鮮はすべての宣伝媒体を使って『11月12日にすべてを終わらせろ』と扇動している。乱数放送も16年ぶりに再開している。11月5日の民衆総決起集会に出て来た中高校生らは『革命政権を打ち立てよう』と言っていたが、北朝鮮が裏で操っているのでは」と司法長官に調査を求める発言を行っていたことも戒厳令宣布の布石とも思えた。

 全斗煥軍事政権が1980年5月に全羅南道・光州での民主化要求デモを武力で鎮圧した際に「デモが北朝鮮によって扇動されている」ことを口実、大義名分にしていたこととダブって映ったからだ。何よりも、韓国では過去に1960年4月と、1979年12月の2度、「北の脅威」への対処と治安の回復を大義名分に軍が戒厳令を敷き、実権を掌握した歴史がある。

 それでも、先進国入りを目指している今の韓国は昔と比べ、「民度も高まり、クーデターを許す土壌はない、軍も近代化されたので、戒厳令はあるはずはない」というのが韓国人の一般常識だが、実際に戒厳令の動きがあったとは、韓国の権力闘争は凄まじいの一言に尽きる。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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