「生意気な青二才」と批判浴びていた金与正氏の微妙な立場
北朝鮮と韓国は27日、昨年6月から断絶していた南北間の通信連絡線を、同日午前10時から再稼働させると発表。同時刻に板門店と西海地区の軍通信線で通話を行った。南北共同連絡事務所と東海地区の軍通信線は、技術的な問題から再開が遅れたが、順次再稼働するという。
北朝鮮は昨年6月9日、韓国の脱北者団体による対北ビラ散布に反発し、南北間のすべての通信連絡線を一方的に遮断。同月16日には開城工業団地内に置かれていた南北共同連絡事務所を爆破した。韓国側は現在、ソウルで共同事務所の業務を行っている。
南北双方の発表によれば、北朝鮮の金正恩総書記と韓国の文在寅大統領は今年4月以降、数回にわたって親書を交換し、「北南通信連絡ルートを復元することで互いに信頼を回復し、和解を図る巨歩を踏み出すことで合意した」という。
親書交換の動きは一部が漏れ伝わっていたが、こうした具体的な成果につながるとの予想はどこからも出ていなかった。
そして、このような展開を見ながら気になるのが、文在寅政権に対する「強硬対応」を主導してきた金与正(キム・ヨジョン)朝鮮労働党副部長の立場だ。実際、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)によると、金与正氏が南北共同連絡事務所の爆破を主導した際には、地方幹部から「生意気な青二才」などと批判する声が出ていたという。
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それでも、金与正氏の強硬姿勢は今年に入ってからも続いた。新書の交換が始まる直前の3月30日には、文在寅氏を「非論理的で厚顔無恥」「米国産のオウム」などと非難する談話を発表。
5月2日には、脱北者団体のビラ散布が再び行われたことを受け、「我々がどんな決心をし、行動を取っても、それによる悪結果に対する全責任は、汚いくずの連中に対する統制を正しくしなかった南朝鮮当局が負うことになる」として、報復を示唆する談話まで出している。
これは、金与正氏が「コワモテ」を担当し、兄である金正恩氏が対話に応じる「2トラック戦略」なのだろうか。あるいは、兄妹の間に何らかの意見衝突があるのだろうか。
いずれにせよ、北朝鮮の最終決定権者は金正恩氏であり、金与正氏は必要な役回りを担っていると見るのが妥当に思える。ただ、韓国大統領を強い言葉でなじってきた手前、同国民の感情を考えると、2019年の平昌冬季五輪のときのように、金与正氏が「対話に向けた使者」として訪韓するのは適当でないように思える。
今後、再び南北の対話局面が訪れるとしたら、金与正氏の立ち位置はどのようなものになるのだろうか。