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湘南、好発進! 24度目の開幕、そして49年目の選手たち

川端康生フリーライター

大型新人のファーストゴール

左サイドは今日も活況だった。

突進する高山に前線の山田が絡み、さらに後方から杉岡が攻撃参加。キックオフから推進力で相手を圧倒し、チャンスを作り出し続けた。

そして10分。自ら中へ持ち込んだ杉岡が、DF2人の間を割って進み、左足でプッシュ。ゴールネットが揺れて、歓声が沸き上がった。

いいバランスだった。182センチの長身だが、アジリティも高そう。割って入っていく迫力もよかった。そのくせ落ち着いていた。

注目の高卒ルーキー、(DFなのに)早くもゴール。

そして湘南はこの試合も先制に成功した。

24回目のホーム開幕戦

2017年のホーム開幕戦。ベルマーレにとって24回目のオープニングマッチが平塚競技場で行われた。

試合前には、毎年恒例、ホームタウン7市3町の首長が横一列に並んでの始球式。ただし、これはチームが「平塚」から「湘南」になってから。

といっても湘南になってからもう18度目の開幕だから、それぞれの自治体でも早々にスケジュール帳に書き込まれる年中行事になっているはずだ。

ちなみに第1回目のホーム開幕戦は1994年3月16日に行なわれた。ナイターだった。相手は横浜マリノス(「F」ではない)。やっぱり左サイドをベッチーニョが突進して、前線の野口と絡み、後方からは岩本が攻撃に参加した。

結果は1対0。ベッチーニョのドリブル突破から作ったチャンスを、最後はアウミールが決めた。そして、これがベルマーレにとってJリーグでの初勝利となった。

ゴールシーンは今日と比べれば、かなりまばらな印象。それもそのはず決勝点はVゴールだった。延長後半5分。トータルで言えば110分である。すでにゲームはワイドオープンな展開になっていた。

ついでに言えば、この試合のメンバーのうち、なんと4人が今季Jリーグで監督を務めている。ベルマーレから2人、マリノスから2人。

そのまま書いてしまうのも芸がないのでクイズにしておこう。

「松本」と「福岡」はサッカーファンなら初級編。「福島」もベルマーレサポならイージーか。もう一人は今季から「新潟」の指揮を執っている。

そういえば「福島」はあのとき、「注目の大卒ルーキー」だった。月日は流れたのだ。

3対1で快勝

23年後のホーム開幕戦もベルマーレは勝利で飾った。

杉岡の先制ゴールの後、何度かあったチャンスは決めきれなかったが、後半早々に高山がPKを獲得し、2点目。

54分に相手のザスパクサツ群馬に1点を返されたものの、73分に再び高山が蹴り込んで試合を決めた。

2点目のPKはラッキーな面もあった(群馬の森下監督が疑義を口にしていた通り、“微妙”に見えた)。それでも3点目は中盤でのボール奪取から、そのまま下げずに前へ運び、ゴールに結びつけたベルマーレらしいもの。

攻撃でも(マイボールでも)、守備でも(相手ボールでも)、前へ向かって進んでいく――ベクトルのはっきりしたプレーは、近年のこのチームの好感度の源でもある。その矢印が鋭くて、勢いに乗っていればいるほど、選手たちも気持ちよくプレーできていることになる。

比例してスタンドのヴォルテージも上がる。結果、タイムアップの笛が鳴ったときにはスタジアムに歓喜と爽快感があふれている。

この日もそんなムード。3対1は妥当なリザルトだった。

好循環の好発進

これで2連勝スタート。順位も首位である。

もちろんまだ始まったばかり。順位をどうこう言う時期ではないが、この2試合を見る限り、印象は相当ポジティブだ。

何より懸案だった「選手流出」の影響がほとんど感じられない。むしろ好循環したようにさえ見える。

たとえば杉岡の開幕スタメン起用は、チームにとっても、彼の将来のためにも“覚悟”が必要だったと思うが、曹貴裁監督は「成長させるためではなく、いいから使っている」ときっぱり。その判断が吉と出た。

そして、もしかしたら杉岡の起用以上に驚きだった山根のコンバート。

「前で使ってもセンスないので。スペイン合宿でパエリア食べながら『前は無理。後ろをやれ』と言いました」(曹監督)と冗談めかして説明したが、指揮官にとっても“嬉しい発見”だったのではないか。

それどころか、そんな二人を従える格好になった中央のアンドレ バイアの安定感まで増しているように見えるから「チーム」は面白い。

とにかく三竿が抜け、杉岡が起用され、故障離脱の岡本に代わり、山根がコンバートされ、菊池大介がいなくなったが表原が躍動し、さらにGK秋元の復帰(これが実は大きいと思う)、新加入の秋野(水戸戦での菊地俊介との中盤は“別格”だった)……「流出」をまったく感じさせないサッカーを披露しているのだ。

選手はもちろんだが、監督とスタッフの仕事は見事である。

殴った後

あまり誉め過ぎるとナンなので課題も。

2試合ともキックオフからラッシュをかけ、相手を圧倒した。ところが、前半の半ばあたりになるとパワーダウン(矢印が出なくなった)。そして、むしろ相手にパスを回され、波状攻撃を受けるシーンが続くことになった。2試合とも、だ。

無論、サッカーだからモメンタムの入れ替わりはある。

しかし、対戦した両監督が揃って「湘南のスピードはこれまで経験したことのないもので圧倒された」(水戸・西ヶ谷監督)、「前半出てくるのはわかっていたのに受け身になって、殴られてしまった」(群馬・森下監督)とまずは脱帽しながらも、「馴れてきてからはうちが圧倒できるようになった」(水戸)、「前半の途中から後半にかけてはJ2で一番守備のスピードがある湘南相手でもプレーできた」(群馬)と結果的には“手応え”を口にしていたことは聞き逃せない。

要はゴングとともにラッシュして、2、3発相手を殴った後、である。そのまま90分間圧倒し続けられるわけではないにしても、イニシアチブは保持し続けたい。もともとガードを固めて守るスタイルのチームではないからなおさらだ。それがラッキーパンチだったとしてもサッカーにおける一発は重い。痛恨の……ということにもなりかねない(「あわや」のシーンはこの2試合でもあった)。

そのあたり、特に期待したいのは菊地、秋野のボランチ。プレーメイクだけでなく、ゲームコントロールでの期待である。高望みではないと思う。十分力はある。

(実は他にも気になることはあるのだが、開幕2戦を終えた現時点では早計な類の指摘。シーズンの推移を見守りたい)。

49年目の選手たち

開幕2連勝。“昇格候補”としてこの上ないスタートをベルマーレは切った。

もちろんシーズンは長い。まだまだ何が起きるかわからない。わずか2試合が終わっただけで、8ヶ月も先のことを口にできるほど戦いは甘くない――と無難に結んでおくのがこの時期の原稿としては常道なのだが、ここではあえてもう一押ししたい。

ベルマーレにとって24年目のシーズンである今季は、クラブにとって49回目のシーズンである。

そう、来年には前身の藤和不動産(フジタ)創部から数えて50年目を迎えるのだ。

だから、乗り越えられると信じて、もうワン・モア・プレッシャー。

<50周年をトップリーグで祝いたい>

49年目にベルマーレのユニホームを着ている選手たちへのミッションである。

フリーライター

1965年生まれ。早稲田大学中退後、『週刊宝石』にて経済を中心に社会、芸能、スポーツなどを取材。1990年以後はスポーツ誌を中心に一般誌、ビジネス誌などで執筆。著書に『冒険者たち』(学研)、『星屑たち』(双葉社)、『日韓ワールドカップの覚書』(講談社)、『東京マラソンの舞台裏』(枻出版)など。

誰がパスをつなぐのか

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