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新幹線回数券、普通回数乗車券の相次ぐ廃止 利用者泣かせの残念な背景は?

小林拓矢フリーライター
新幹線の回数券は金券ショップでの人気商品である。(写真:kawamura_lucy/イメージマート)

 年度末の3月31日に、JR東海とJR西日本から、それぞれ興味深いプレスリリースが出された。

 JR東海からは、6券片の「新幹線回数券」が2022年3月31日に一部区間で発売終了となるということが発表された。この3月末に「新幹線回数券」の多くが発売終了になるだけではなく、さらに回数券が消えていく。

 JR西日本からは、ICOCAエリア内での「普通回数乗車券」が2021年9月30日で発売終了となることが発表された。

 気になる点を見ていこう。

JR東海「新幹線回数券」は「(市内)」相互間を中心に発売終了

 グリーン車用は2022年3月末発売終了のものは東京都区内から名古屋(市内)、新大阪(市内)で、この3月末の発売終了のものとあわせるとグリーン車の回数券はすべて消えることになる。

 普通車指定席用の回数券は、東京都区内から名古屋(市内)、米原、京都(市内)、新大阪(市内)、新横浜(市内)から名古屋・京都・新大阪のそれぞれ「(市内)」、名古屋(市内)から京都・新大阪の「(市内)」となっている。自由席用については省略する。

「都区内」「市内」が出てきているところが気にならないだろうか。都区内と特定市内発の場合は、「新幹線回数券」ではそのエリアのどこからでも乗ることができ、かつ降りることもできる。東京~新大阪間の1枚の回数券で、広範囲に移動できるのだ。なお、特急券と普通乗車券を組み合わせても同様のことが可能だ。

新幹線回数券を販売する金券ショップ
新幹線回数券を販売する金券ショップ写真:ロイター/アフロ

 たとえば、JR東日本の西荻窪駅から東京駅までやってきてそこからJR東海の東海道新幹線に乗り、新大阪で降りてJR西日本を使い平野や放出などまで行くような場合でも、1枚の回数券だけで十分移動することができる。

 このしくみは紙のきっぷ時代からある決まりに由来するものだ。

 JR東海は、プレスリリースでチケットレスサービス「エクスプレス予約」や「スマートEX」の活用を呼びかけている。この場合、新幹線区間は紙のきっぷや回数券より安くなるものの、前後の区間(東京圏や関西圏では他社)は、別途運賃を支払わなければならない。

 紙の回数券では、発売しているJR東海がそうした前後の移動のぶんも負担しているものの、チケットレスサービスではそれは負担しなくてもよくなる。

 もちろん、JR東海ではチケットレスサービスを推進し、鉄道各社とも近距離のチケットレス化を推進しているという事情は分かるのだが、けちな人から見ると残念なものに見えてしまう。

JR西日本「普通回数乗車券」からICOCAポイントサービスへ

 関西圏、とくにJR西日本では回数券を買って乗車する人が多い。JRには「特定区間」という制度があり、都市圏の私鉄との競合区間では安く普通運賃が設定されている。たとえば京都~大阪間は570円となっているものの、営業キロでは42.8キロでありJR西日本の本来の運賃ではこの距離は770円である。

 紙の回数券で乗車する人が根強くいたのは、この「競合区間」の回数券と、そこに接続する区間の回数券を別々に購入し、節約しようとする人がいたからである。

新快速の走る京阪神間には「特定区間」が多く存在する。
新快速の走る京阪神間には「特定区間」が多く存在する。写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート

 京阪神間にはそういった私鉄と競合する「特定区間」が多く設定され、そこから少しでもはみ出ると急に運賃が高くなるということがよく見られていた。その対策なのだ。

 そういった利用の仕方が多かったために、ICOCAエリア内では「普通回数乗車券」を廃止し、その代わりにICOCAポイントの還元率を10%から15%へと拡大することにした。

存在意義が失われる回数券

 こうした乗客の行動を支えていたのは、駅近くにあるような金券ショップである。金券ショップは「新幹線回数券」のばら売りで格安価格を提示していた。だが昨年の春ころからコロナ禍が続き、最初の「緊急事態宣言」のころには店によっては原価割れの事態も発生していた。また、新幹線に乗る人が大きく減少したため、そのぶん「新幹線回数券」を仕入れることも少なくなっていった。それゆえに「新幹線回数券」のドル箱区間だったところが売れなくなってしまった。

 もちろん、本来の目的のようにひんぱんに新幹線を利用するために回数券を買う人もいたと思われるが、そういう人よりも金券ショップでのばら売りのために仕入れる人のほうがはるかに多かったと考えられる。

 関西圏では「普通回数乗車券」のばら売りがとくに盛んで、金券ショップで買った「特定区間」の回数券と、その他の区間の回数券を組み合わせて利用する人もおり、本来の使われ方ではないと考えられる。

 そのため、身体障がい者や知的障がい者、通信制学校への通学用の割引回数券の販売はJR西日本では継続する。ほんとうに回数券が必要な人たちにはちゃんと供給するのだ。

 JR東海の「新幹線回数券」の発売終了には、チケットレスサービスの利用促進だけではなく、前後区間の負担を減らしたいという考えがある。JR西日本の場合は、「特定区間」を利用した回数券などの複数利用を排除したいという考えが感じられる。

 また、紙のきっぷを入れる改札機は、メカニズムが複雑になり、メンテナンスもひんぱんに行わなければならない。鉄道各事業者としては、紙のきっぷをなるべく排除したいという考えもある。

 金券ショップでのばら売りを購入して使用している人がメインとなっている一方で、チケットレス化を進めたいという考えが鉄道業界の中にはある。コロナ禍で回数券販売のメリットも薄れてきた。回数券の存在意義は失われていく。紙のきっぷのシステムのままの回数券では、新しい状況に対応できないというものはある。

 いっぽうでこのような対応は、いささかけち臭いものであり、残念なものを感じさせられる。ちょっとした節約術もなかなか難しいものとなってきた。

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

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