<写真報告>これは奴隷労働ではないのか? 1 「農村支援」という名の強制労働
6月末の今、北朝鮮全域は農村支援の真最中である。春と秋の農繁期に、一般労働者、学生、主婦から、平壌に住む労働党や政府の大幹部までが、一斉に農村に行って草取りや田植え、堆肥作りなどを手伝うことが恒例になっている。
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食糧配給制度が維持されていた頃は、自分たちの食べる穀物を作る農場の仕事を手伝うのは、「全体のための奉仕活動」という意味と役割があった。この「北朝鮮式社会主義の美風」にほだされて、外国の大使館員たちまでが農場に出向いて田植えなどに汗を流すニュースが、毎年報じられていたものだ。
しかし、この「美風」もすっかり変質してしまった。現在の北朝鮮では、平壌以外の労働者、住民には、一部を除いてほとんど食糧配給はなくなっている。庶民にすれば、農作業を手伝っても何も得るものがないのだから、しんどいうえに時間を取られるだけだ。「全体のための奉仕活動」ではなく、「ただ働き」をさせられている、というのが農村支援の共通認識になったのは、もう随分昔のことだという。
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だが、嫌だからといって農村支援に参加しないわけにはいかない。農村支援を組織するのは、職場、学校、所属組織、居住地の人民班(末端行政組織、隣組のようなもの)毎なのだが、そこで参加を厳しくチェックされる。不参加者は批判の対象となり、悪質とみなされると拘束される場合もある。
といっても抜け道がないわけではない。幹部や金持ちの家族は、当局に賄賂を払って「参加したこと」にしてもらう不正行為が横行しており、庶民には不公平に対する不満が募っている。
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さて、筆者が 本稿のタイトルに「奴隷制」という厳しい言葉を使ったのは、この一般住民対象の農村支援のことだけを言っているのではない。今年の農村支援には、短期の強制労働キャンプ「労働鍛錬隊」送りが決まった人々が投入され、酷使されているとの報告を受けたからだ。
6月21日、北朝鮮北部の咸鏡北道の取材協力者は次のように伝えてきた。
「咸鏡北道内のいくつもの農場で、拘束した『職場離脱者』たちを、農場内の空き地に天幕を張って宿泊させ草取りなどの農作業をさせている。期間は2~3か月間になるそうで、重労働で衰弱する人も出ている」。
※「労働鍛錬隊」とは、一年未満の短期の強制労働キャンプのこと。保安(警察)当局が、社会秩序を乱したと見なした人を、裁判なしで拘留して労働させる。
「職場離脱者」については説明が必要だろう。
現在、北朝鮮の工場・企業所の大部分は、90年代以来の経済難で正常に稼働していない。労働者たちには、まともに給料も食糧配給も出なくなった。そのため、この20年間、食べていくために職場を離脱する人が大量に出た。
といっても、国家による職場配置が原則の北朝鮮では、個人の好みで条件のいい職場に移れるわけではない。多くの人は商売や、荷役、建設現場などでの力仕事や運送業をしたりして、収入を得るようになった。生きていくために国家のくびきから、離れ自由で自立した経済活動を始めたのだ。
ところが、この「職場離脱」行為に金正恩政権はめっぽう厳しい。何も生産活動を行っていなくとも、職場は国民統制の要であるため、勝手な離脱は罪とみなすのだ。
金日成時代以来、政権は職場を通して国民の思想と行動を統制してきた。政治学習や思想検討集会、奉仕労働などへの動員も職場単位で行う。ゆえに、「職場離脱」は独裁政治の基盤を壊すものとして敵視されてきた。
それでも、金を払って職場に籍だけ置いて「暇を買う」という行為が横行していたのだが、金正恩政権は、取締りを徹底し始めた。この度の内部からの報告で明らかになったのは、拘束した「職場離脱」者を、農場に作った臨時の収容所に投入して、強制労働をさせているという新しい事実だ。
権力者が決めた職場で働かせることを強い、それに服従しない者を拘束して強制労働に駆り立てる制度…これを奴隷労働と言わずしてなんと呼べるだろうか?(続く)