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ジェレミー・コービンの英労働党、ポデモスらと欧州反緊縮派連合を結成?

ブレイディみかこ在英保育士、ライター
(写真:ロイター/アフロ)

英国労働党党首ジェレミー・コービンが、スペインのポデモスら欧州の反緊縮派政党と連合を結成し、EUのラディカルな改革を求めて共闘する構想を明らかにした。

以前からEU懐疑派として知られているコービンは、6月のEU離脱の是非を問う国民投票では、労働党党首としてEU残留支持の立場を取っている。しかし、同じくEU残留支持のスタンスのキャメロン首相がブリュッセルで行って来たEU改革案交渉の成果には、「彼の交渉は自らの政党の反対者たちを納得させるためのものであり、英国の人々がリアルに抱えている問題とは関係のない交渉しかして来ていない」と激しく批判している。

コービンは、英国労働党やスペインのポデモス、ギリシャのシリザといった欧州議会の中の社会民主主義政党が結束し、遥かにプログレッシヴな改革を求めてEUと交渉せねばならないとインディペンデント紙に語っている

コービンは、EUが推進している緊縮財政政策を終わらせ、米国とのTTIP(環大西洋貿易投資協定)を含めた市場競争を強制するルールをやめさせるべきだと言う。また、EUは被雇用者の権利拡大を導入し、賃金水準引き下げにより移民の労働力を搾取している状況を終わらせべきだと主張している。

コービンがこんな風にEUの批判ばかりすると、EU残留派の運動を弱体化させるのではないか、という批判の声もあるが、コービン陣営は寧ろEUを批判しない戦略のほうが離脱派を勝たせることになると言っている。

「EUはパーフェクトであるかのようなふりをして離脱投票を迎えたら勝てないだろう。これは我々の時代の最も重要な投票の一つだ。リーマン・ショック以来、欧州全土にわたって生活水準は落ちているか、または沈滞している。旧来の経済モデルはもう機能していない」と労働党関係者がインディペンデント紙日曜版に話している。

コービンが反緊縮政党連合の結成を呼びかけているのは、ポデモス、シリザのほか、ドイツの左翼党(Die Linke)、アイルランドのシン・フェインなども含まれているそうで、「プログレッシヴな観点から、EUのネガティヴな点を指摘するために共に働く機会がだんだん増えています」と労働党関係者は証言している。

コービン本人は、EU懐疑派として有名であり、昨年のギリシャ問題の時にはドイツ主導のEUのやり方を厳しく非難していた。にも関わらずEU残留派に回った理由についてコービンはこう話している。

「EUは21世紀の貿易と協力の重要なフレームワークだ。だが、EUには抜本的な改革が必要だ。それは労働者のために機能していないからだ。緊縮財政や公的サービスの民営化、強制的な規制緩和を終わらせること、そしてデモクラシーと労働者の権利拡大が必要だ。だが、こうした変革は変化を求める中道左派政党やプログレッシヴな政党、ムーヴメントの中心にいてこそ実現できるものだ。変革は、EUの中に留まって、欧州の他の政党たちと共通の目的のために働いてこそ達成できる」

出典:Independent:”Jeremy Corbyn vows to form left-wing alliance in Europe to roll back David Cameron's EU renegotiations” by Tom McTague

ポデモスの党首、パブロ・イグレシアスは、コービンが労働党の党首に選ばれた時、「欧州の反緊縮の戦いにようこそ」と歓迎する記事をガーディアン紙に発表した。

トニー・ブレアの「第三の道」が英国労働党の党理念を崩壊させ、労働者たちの政党として機能しなくなり、スペインの社会主義政党もブレアの「社会主義風味の実質的な新自由主義」を取り入れて本道を見失い、大勢の失業者と未来に夢を描けない若者たちを生み出した。両国の政治が辿った道はよく似ているとイグレシアスは書いている。

ポデモスのパブロ・イグレシアス
ポデモスのパブロ・イグレシアス

「スペインの社会主義者たちのアイデンティティ・クライシスに対する答えがポデモスだとすれば、英国労働党のアイデンティティ・クライシスに対する答えがジェレミー・コービンだ。ようやく我々の同盟者が英国に現れた。我々は現在の政治のクライシスについて同じ診断を下しており、格差是正の政策を通じて人間が人間らしく生きる権利を守る計画でも一致している」

「同志よ、ようこそ。一緒に歩きましょう」

出典:The Guardian:”Jeremy Corbyn, welcome to Europe’s fight against austerity” by Pablo Iglesius

イグレシアスはとっくに同盟者の意識を持っているようだ。

一方、シリザ政権で最も強硬な反緊縮財政派と言われていた元ギリシャ財務大臣ヤニス・バルファキスは、「アドバイザーとして起用された」という報道は否定しているが、昨年から英労働党周辺をうろうろしており、コービンにEU関連の情報をインプットしているようだ

ヤニス・バルファキス
ヤニス・バルファキス

2015年は欧州で反緊縮派が台頭した年だった。だから、「コービンが労働党党首に!」「さあ次はスペイン総選挙、ポデモスどうなる?」などと個人的に発奮して書いていたのだったが、彼らがここに来て一気につながり始めているのが、「そうなったりして。と想像はしたけど、本当にそうなるのかよ」という感じで実に躍動感がある。

日本から帰って来たばかりだからだろうか。

このおおらかに、しかし確実に理念と政策でユナイトする感じに、欧州の左派の強さを感じる。

在英保育士、ライター

1965年、福岡県福岡市生まれ。1996年から英国ブライトン在住。保育士、ライター。著書に『子どもたちの階級闘争』(みすず書房)、『いまモリッシーを聴くということ』(Pヴァイン)、『THIS IS JAPAN 英国保育士が見た日本』(太田出版)、『ヨーロッパ・コーリング 地べたからのポリティカル・レポート』(岩波書店)、『アナキズム・イン・ザ・UK - 壊れた英国とパンク保育士奮闘記』、『ザ・レフト─UK左翼セレブ列伝 』(ともにPヴァイン)。The Brady Blogの筆者。

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