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ザッケローニが見たベルギー戦。後半ロスタイムのコーナーキックの選択は正しかったのか。

豊福晋ライター
後半ロスタイムに失点、選手たちはしばらく立ち上がれなかった。(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

 アルベルト・ザッケローニはやや疲弊した声で言った。

「残念だった。本当に残念だ。試合後はほとんどショック状態だった」

 日本対ベルギーの試合をテレビに釘付けになって見ている彼の姿は容易に想像できる。試合後はきっと脱力していたことだろう。

 日本はベルギーに2−3で敗れ、ワールドカップ敗退が決まった。

 先制し、追加点も決め、一時は2−0のリードを得た。しかしその後の3失点で逆転負け。特に後半ロスタイムの失点の衝撃は、ザッケローニに大きなショックを与えた。

 しかし彼がまず口にしたのは、選手への感謝だった。

「まず日本代表の選手たちに感謝の気持ちを伝えたい。日本は魅力的なサッカーで世界の強豪と戦えることを示した。本当に素晴らしいゲームだった。あのベルギー相手に地上戦で上回っていた。アザールにデ・ブルイネ、メルテンスなど、通常ならパスをつなぎ相手を圧倒するチームだ。しかし日本はショートパスを主体にサイドチェンジを混ぜ、ベルギーを翻弄した。勝利への強い意志と勇気を見せてくれた。日本の皆さんは、あなたたちの代表チームのことを誇りに思ってほしい」

乾の得点力、大迫のポストワーク、柴崎のスルーパス

 ロシアのピッチにはザッケローニの多くの教え子がいた。印象に残ったのは、当時から大きく成長した彼らの姿だった。

「まずはベルギー戦で素晴らしいゴールを決めた乾だ。彼は選手として大きくレベルアップしたね。積極的に仕掛けるドリブルに、前線の連動を創り出すショートパス。日本の崩しの多くは彼のゾーンからだった。昔からテクニシャンだったが、ゴールへの意識があまりにも弱く得点は稀だった。しかし今ではどうだろう。ワールドカップという舞台で2得点を決め、チームの得点源にすらなっていた。レベルの高いスペインでプレーし選手として成熟したのだろう。あの2点目も、実に精度の高いシュートだった」

 酒井宏樹と大迫勇也の成長にも驚いたという。

「酒井は守備面でより安定し、攻撃でも積極的に縦へいく意識が目立った。空中戦で勝てる点も大きい。大会を通じて、右サイドバックは日本の強みだった。そして大迫だ。昔から能力は高く、私自身もブラジルワールドカップで先発起用した。ただ、今ではプレーが一段と洗練されている。センターバックを背にした時の確実でスムーズなポストワークは、ほとんど完成の域に達している。あえて注文をつけるとするなら、やはり得点だろう。それ以外はパーフェクト。ただ、9番というものはどうしても得点で評価されるものだから」

 現在、ザッケローニはUAE代表監督を務めている。もしかしたら今後、アジアの舞台で日本代表と再会することもあるかもしれない。

 ワールドカップ後の新たな日本代表のことも、ザッケローニは希望を持って見ている。

「若くていい選手は多くいる。特に今大会、柴崎は日本の中盤の中心的な存在になっていた。原口の先制点を生んだあのスルーパスは、センターバックのスピードまで計算された素晴らしいものだった。私が指揮していた頃もセンスは光っていたが、今ではアグレッシブさも加わり、相手へ激しいプレスまでかけられるようになった。ミッドフィルダーとして大きく成長した。彼が今後の日本の中心選手のひとりになるのは間違いないだろう」

本田圭佑の判断は正しかったのか?

 聞きたかったのは、後半終了間際に見せた日本の選択についてだ。

 結果的に敗退につながることになった、あのカウンターからの失点の場面だ。

 後半ロスタイム、スコアは2−2。本田圭佑が蹴ったフリーキックは枠をとらえ、GKクルトワが弾きコーナーに逃げる。

 左コーナーキック。ギラギラとした目で本田は蹴り、そしてー。

 そこには様々な意見がある。

 時間稼ぎをするべきだったのか。あくまで得点を狙うべきだったのか。

 日本サッカーはこれから時間をかけてその答えを見つけていかなければならない。

 長く議論されるであろうこのテーマだが、ザッケローニには確固とした考えがある。

「あの場面に関しては、イタリアでも多くの議論がされている。多くは、なぜ本田はあの場面で普通にコーナーキックを蹴ったのか、という批判だ。得点を狙わずにコーナーフラッグ付近で時間稼ぎをするべきだった、というわけだ。しかし私はその意見には反対だ。あの場面はあくまでゴールを狙いにいくべきだった。CKを蹴った選択は正しかったんだ。

 しかし、問題がひとつだけあった。それがCKを蹴った後のリスク管理ができていなかったこと。相手のカウンターへのマークが明らかにおろそかになっていた。日本はあの場面では前線に7人をかけていた。それ自体は問題ないし、最後の時間帯での得点は狙うべきだ。しかしボールロスト後のリスクを考えた選手配置、これができなかった。ポジショニングが悪く、マークは緩かった。そこをベルギーは完璧な形で突いてきた。しかし繰り返すが、あの場面で時間稼ぎするべきだったという意見に私は賛同しないし、選手の個人批判はすべきではない。最後まで得点を狙いに行った日本を、私は誇らしく思っている」

 そしてお願いがある、そうザッケローニは続けた。

「日本の皆さん、ぜひ日本代表チームのことを誇りに思ってください。帰ってくるチームを空港で迎え、拍手をし、温かく迎えてあげてください。私が言わなくても空港には多くの人が駆けつけることでしょう。彼らはすべてを出して戦った。それは真っ直ぐに伝わってきた。私たちが4年前に達成できなかったベスト16進出を果たし、世界に日本のサッカーを示したのです。日本サッカーは間違いなく正しい道のりを進んでいる」

 代表チームというものが過去を引き継ぎながら次の時代へと進んでいくものであるならば、ザッケローニが残した遺産、その蓄積と経験もロシアで闘った日本代表のどこかに流れていたはずだ。

「ガンバッテ、日本」

 彼は最後に日本語でそう言って、少しだけ笑った。

 日本は敗れた。しかし日本を遠く離れたイタリアの片隅にも、このチームを誇りに思う人がいる。

ライター

1979年福岡県生まれ。2001年のミラノ留学を経て、ライターとしてのキャリアをスタート。イタリア、スコットランド、スペインと移り住み、現在はバルセロナ在住。伊、西、英を中心に5ヶ国語を駆使し、欧州を回りサッカーとその周辺を取材する。「欧州 旅するフットボール」がサッカー本大賞2020を受賞。

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