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「異なる宗派の子供たちが通う学校が主流であるべき」に大部分が賛同 分断続く北アイルランドで調査

小林恭子ジャーナリスト
「統合は機能する」と書かれたプラカードを持つ子供たち(IEFのサイトより)

 プロテスタント系住民とカトリック系住民の人口がほぼ半々で拮抗する英領北アイルランドでは、多くの子供たちがそれぞれの宗派に属する学校で教育を受ける。

 同じ宗派の住民同士が固まって住む場合も多く、異なる宗派の住民とまともに話したのは大学に入った時や社会人になった時ということが少なくない。

 アイルランド島の北部に位置する複数の州は、従来、プロテスタント系住民が圧倒的で、南部のカトリック住民とは一線を画した。これがちょうど100年前の「英領北アイルランド」の誕生にもつながった。

 プロテスタント系とカトリック系住民の対立を緩和し、社会の分断を防ごうと、「すべての子供たち」に開かれた教育の場の必要性が叫ばれ出したのは、1970年代半ばである。

 当時、異なる宗派の住民同士の対立がそれぞれの民兵組織による武力闘争に発展し、英国本土から派遣されてきた英軍が入って、三つ巴の戦いとなっていた。カトリック系民兵組織IRAが英本土でテロを行う事態も起きていた。

 1981年、宗派の異なる家庭に生まれた子供たちが通う、最初の「統合教育(Integrated Education)」の学校となるラーガン・カレッジが北アイルランドの首都ベルファスト郊外に開校した。

 その後、続々と統合学校の数は増え、一時は希望者の多さに校舎の建築が追いつかない場合もあった。

 現在までに、統合教育を行う学校は68校まで増え、2万5000人の子供たちが学んでいる。

 しかし、実はこの数は北アイルランドの小中校生徒全体の7.5%にしか過ぎない。

 北アイルランドの人は統合学校について、どう思っているのだろうか。

 統合教育の学校設立のための資金を集める組織「統合教育基金(IEF=Integrated Education Fund)」が3日発表した、アンケート調査(「Northern Ireland Attitudinal Poll June 2021 Summary Report」)の結果を見てみよう。

71%が統合教育を支持

統合教育支持者の比率を示すグラフ(統合教育基金のレポートより)
統合教育支持者の比率を示すグラフ(統合教育基金のレポートより)

 2000人が参加した調査によると、「信仰、文化、社会的背景の違いにかかわらず、生徒が同じ教室で教育を受ける『統合教育』が教育体制の主要な形態であるべき」という文章に対し、「賛同する」は71%。「賛同しない」は21%。

 「すべての学校で、生徒、教師、学校理事は宗教及び文化面で混合の構成にするべき」については、「賛同する」は79%。「賛同しない」は17%。

 北アイルランドでは、近く教育体制の見直し作業が開始されるが、優先事項の1つとして、「単線型教育体制に向けて歩を進めること」が挙げられている。

 今回の調査で「単線型教育体制の構築」の重要性について聞かれ、52%が「非常に重要」、22%が「重要」と答えている。「重要ではない」は7%、「全く重要ではない」も7%。

 統合教育の学校は全体の7-8%と低いが、その成長を妨げた要因として、回答者は「北アイルランドの政治家」(64%)と「カトリック教会の影響」(64%)をトップに挙げている。

 北アイルランドには自治政府が置かれているが、政党同士の不信感や政治危機によって、何度か自治が崩壊している。カトリック教会が運営する学校は統合学校への転換に消極的と言われている。

 次に挙げられた理由として、「学校設立に向けての親の要求が強くない」(33%)、「学校指導陣が抵抗している」(32%)が挙げられた。

 統合教育基金のキャンペーン担当者ジル・カスキー氏は調査のリリースの中で、「自治政府は統合教育を積極的に振興してほしい。社会全体が恩恵を受けるからだ」という。

 「統合教育を望む親や子供たちの意をくむ政策を打ち出してほしい」。

ジャーナリスト

英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。最新刊『なぜBBCだけが伝えられるのか 民意、戦争、王室からジャニーズまで』(光文社新書)、既刊中公新書ラクレ『英国公文書の世界史 -一次資料の宝石箱』。本連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数。著書『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。

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