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尹錫悦政権の元徴用工問題の解決手法は朴槿恵政権を踏襲! 同じ轍を踏むか?

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
ソウル大法院前で日本企業を訴える元徴用工ら(JPニュース提供)

 韓国外交部が元徴用工問題で先月27日に「国家機関と地方自治団体は大法院に裁判に関する意見書を提出できる」と定められた民事訴訟規則(第134条の2)に則って三菱重工業の資産現金化命令案件を審理している大法院(最高裁判所)民事2部と3部に意見書を提出したことに日本企業の資産現金化を求めている原告及び支援団体が猛反発しているようだ。

 意見書の中身は明らかにされていないが、外交部は外交解決を目指し、日本と協議を重ねていることを伝えたようだ。過去の例からすると、意見書の提出は政府が官民協議体を設置するなど努力をしているので結論が出るまで日本企業の資産現金化に関する判決を遅らせて欲しい、あるいは慎重を期してもらいたいと要望したようだ。これに対して訴訟代理人や裁判を支援している市民団体は外交部のこうした動きを「訴訟妨害行為である」と受け止めている。

 というのも、昨日(2日)、「日帝強制動員市民の集い」なる支援団体が全羅南道光州で記者会見を開き、「韓国の外交部は一体、どこの国の外交部なのか」と怒りを露わにし、外交部の意見書提出を真っ向批判していたからだ。

 反対理由は▲外交部が事前協議なく、頭越しに意見書を作成、提出し、提出後に事後報告した▲意見書には官民協議体に参加していない原告及び支援団体の意見が反映されていない▲外交部の「努力」は現金化阻止が前提となっているなど3点に集約されている。

 すでに報道されているように韓国外交部はこの問題の解決に向け原告や専門家らの意見を集約する官民協議会を発足させ、先月4日と14日と2度、外交部で趙賢東(チョ・ヒョンドン)第1次官の主宰で会議を行っているが、記者会見を開いた光州の原告及び支援団体はこの協議体には加わっていない。

 記者会見で配布されたこの団体の声明文によると、意見書提出後に光州で訴訟代理人や「市民の会」代表らと面談した外交部の李相烈(イ・サンヨル)アジア太平洋州局長は日本による2019年の対韓半導体素材輸出厳格化措置を持ち出し、「現金化すれば、日本から報復を受ける。外交を担当している者としては外交関係は重要な価値の一つである」と述べ、日本との関係改善のためには現金化は望ましくないとの立場を表明したようだ。外相は政権交代により鄭義溶(チョン・ウィヨン)外相から朴進(パク・チン)外相に取って代わったが、李局長は代わらぬままで文在寅(ムン・ジェイン)前政権から引き続き船越健裕アジア太平洋局長を相手に交渉を行っている。

 韓国外交部の説得に対して「市民の会」のイ・グゴン常任代表は「日本企業が韓国最高裁の判決を履行しないことが韓日関係を悪化させた原因だ。三菱などの日本の強制動員企業がまず人権侵害の事実を認め、率直に謝罪し、そして賠償に取り組むべきだ」と反論したようだが、同団体は三菱重工業の謝罪と賠償要求を取り下げる考えはないとのことだ。

 「市民の会」は日韓関係修復先ありきの尹政権のやり方は慰安婦問題で失敗した朴槿恵(パク・クネ)政権の轍を踏んでいるとして、被害者を無視して、日本との合意を急げば、「国民の反発を招くことになる」と、外交部を牽制していた。

 朴槿恵政権下の韓国外交部は2016年11月に元徴用工ら当事者を無視し、大法院に意見書を提出し、元徴用工の損害賠償請求権行使を否定する考えを伝えていた。ところが、その後これが大問題となり、検察は外交部を家宅捜査をし、また

朴政権に忖度し、判決を遅らせた大法院院長(最高裁判所長官)は逮捕、収監されるという事態にまで発展していた。 

 また、2015年12月の「日韓慰安婦合意」でも外交部は当事者の元慰安婦らの意見を聞かず、米国の圧力と北朝鮮の核問題に対処する必要性から合意を急いだためこれまたその後こじれてしまい今日に至っている。

 この「日韓合意」については1年後の2016年12月28日に実施された調査(世論調査機関「リアルメーター」)ではいずれも「反対」の声が大勢を占めていた。日韓合意については「維持すべき」が25.5%で、「破棄すべき」が59.0%と二倍以上もあった。(「わからない」が15.5%)

 朴元大統領は国内問題でもある元徴用工問題や元慰安婦問題では当事者らと直接会って、政府の立場に理解を求めたことは一度もない。尹大統領も同様で大統領に就任して約3か月になるが、外務省任せで、今もって元徴用工らと直接会って、説得を試みようとしない。自信がないのだろうか?

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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