Yahoo!ニュース

「EDMバブル」終焉か? 音楽業界に変化

ジェイ・コウガミデジタル音楽ジャーナリスト
marshmello @ボナルー・フェスティバル 2018(写真:Shutterstock/アフロ)

先日、公開されたエレクトロニックミュージック市場に関する最新レポートでは、ライブなど成長領域は継続しながらも、業界全体の市場規模がマイナスを記録。EDMバブルが弾けた、次のフェーズへの移行が始まったとする声が挙がり始めました。

過去数年にわたり、グローバル規模で成長を遂げ、圧倒的な存在を保ち続けてきたエレクトロニックミュージックの市場規模は、2017年は前年から2%減少して73億ドル(約8000億円)に留まりました。2012年からプラス成長を遂げてきたエレクトロニックミュージック産業が5年ぶりにマイナス成長を記録したことになります。

最新のビジネスレポートは、毎年開催されるエレクトロニックミュージック業界向けのカンファレンス「IMS Ibiza 2018」で発表された最新のデータです。

ダンス/エレクトロニックミュージックのシェアが低迷

エレクトロニックミュージックのシェアもグローバル規模で低下し始めました。

世界最大の音楽市場である北米では、全ジャンルの売上シェアにおいてダンス/エレクトロニックの音楽売上が4%から3.5%まで減少。同様にカナダでも6.3%から4.8%にシェアが減少を見せました。

さらにドイツ、イギリスでも音楽売上シェアがそれぞれ7%から6.4%に、15.4%から11.6%へと大幅に減っています。

IMSでは、これらの減少傾向は、グローバル規模で成長し始めた音楽市場の影響が大きく、ダンス/エレクトロニックがメインストリームにクロスオーバーする傾向が強まったこと、ジャンルレスな楽曲が増え、より「ポップ」や「R&B」カテゴリーに進出するDJやプロデューサーが増えたことがカテゴリー単体が低迷した要因として挙げています。

実際に、全ジャンルを含む北米での音楽市場は2017年に12.8%プラス成長を遂げており、ダンス/エレクトロニックのカテゴリーのプロデューサーやアーティストたちの楽曲がメインストリームでの売上で成功を収めるという結果として現れています。

韓国とエレクトロニックミュージックとの高い親和性

IMS主宰者の一人で、世界的なDJのピート・トン(Pete Tong)はMusic Weekでのインタビューで「(EDMバブルが)弾けたとは少し違う。穴が開いたと言える。『パーティーは終わった。これからは自らの手を動かしてやるべきことに向き合い、このレベルまで成長した市場を守り次のフェーズに進化させる時間だ』と言うべきだ。これが過去3-4年で起きたことです」と答え、今後をすでに見据えています。

IMSのレポートで挙げられたダンス/エレクトロニックミュージックの成長も指摘しています。例えば、DJの年収は2017年に9%と大きく成長を達成、フォーブスが毎年発表する「Electronic Cash Kings」リストでは2億7900万ドルの収益がDJやプロデューサーたちによってもたらされています。

そしてエレクトロニックミュージックのライブ市場は、グローバル規模でいまだに成長を続けています。

2017年だけで「Ultra Music」は全世界で23のイベントを開催、Ultraブランドで開催するイベント数はこれで45に上り、動員累計は100万人以上を記録。これは2018年冬季平昌五輪と同等の数字に匹敵します。また2017年のマイアミ開催のUltra Music Festivalでは165000人を動員し、これは2017年のイギリスで開催されたグラストンベリー・フェスティバルと同じ数字です。Ultraのイベントとしての影響力は、世界的なフェスやスポーツイベントと同じ規模まで成長しているため、ダンス/エレクトロニックミュージックのフェスブランドとして世界的なポジションを獲得しつつあります。

注目される市場は「中国」。中国で開催されるエレクトロニックミュージックのフェス数は年々増加中で、2016年は32だったところ、2017年には86へ2倍以上増加、2018年は150以上のフェスやイベントが開催される予定となっています。

またニールセンが行った音楽視聴の調査によれば、韓国でのダンスミュージック人気がアジア圏で最も高く、74%がダンスミュージックを好んで聴くと答えています(中国、台湾はそれぞれ64%、日本は35%)。韓国では消費される音楽のジャンルでダンスミュージックが全体の2番目に高く、今後は韓国人アーティストや韓国市場とグローバルレベルでのダンス/エレクトロニックミュージック市場の連携に期待が高まります。

音楽業界内でのダンス/エレクトロニックミュージックのビジネス価値の評価と投資にも注目が集まっているとレポートは説明します。

2017年2月にイビザのクラブ「Pacha」を中心としたイベント会社Pacha Groupが投資会社のTrilantic Capitalに3億5000万ユーロで売却し、9月にはワーナーミュージックがダンスミュージックレーベル「Spinin Records」を1億ドルで買収するなど、ダンス/エレクトロニックミュージックビジネスへの投資が盛んです。

その他にもDJ向けソフトウェア開発のNative Instrumentsが5000万ユーロの資金調達を行い、楽曲制作のコラボレーションプラットフォームのSpliceが3500万ドル、DJ向けのミックス配信プラットフォームのMixCloudが1150万ドルの資金調達に成功するといった、さまざまなカテゴリーやスタートアップでの投資が目立ったことがレポートで強調されています。

source

Pete Tong: ‘The EDM bubble punctured’ (Music Week)

IMS Biz Report 2018: Global EDM Market Falls 2 Percent to $7.3 Billion (Billboard)

デジタル音楽ジャーナリスト

専門は「世界の音楽ビジネス、音楽業界xテクノロジー」の執筆・取材・リサーチ。音楽ビジネスメディア「All Digital Music」、音楽業界専門のマーケティング支援会社「Music Ally Japan」や、音楽ストリーミング・データ分析プラットフォーム「Chartmetric」日本事業展開も担当。グローバル音楽業界、レコード会社、ストリーミングサービスのビジネスモデル、トレンド分析、企業分析に関する記事執筆多数。

ジェイ・コウガミの最近の記事