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「日本は植民地主義を乗り越えるチャンス」…'日韓通'の韓国市民運動家が見る日韓の葛藤

徐台教ソウル在住ジャーナリスト。『コリア・フォーカス』編集長
韓国のNGO『民族問題研究所』の金英丸(キム・ヨンファン)さん。12日筆者撮影。

日本の韓国「ホワイト国」除外決定により一層深まった日韓の葛藤。その発端となった昨年10月の韓国大法院判決の経緯と意味をよく知る「日韓通」の市民運動家に、現状と解決策、日韓市民連帯などについて聞いた。

●「市民の連帯があれば解決できる」

「私が日韓関係に摩擦をもたらしていると言う人もいる」と複雑な表情で明かした金英丸(キム・ヨンファン)さんは1972年生まれ。ソウル市内にあるNGO『民族問題研究所』で対外協力室長を務める。

1997年から北海道の強制徴用者の遺骨発掘運動で日本との関わりを持ち、2002年から06年まで高知県の平和資料館・草の家の事務局長を務めた。日本語が堪能な上に温和な人柄で、日韓市民の交流の橋渡しを長い間続けてきた。日韓の市民社会で広く知られた人物だ。

徴用工裁判には14年から本格的に関わり始めた。今は市民団体の連帯組織である「強制動員問題解決と対日過去清算のための市民社会共同行動(以下、共同行動)」で政策委員長を務めている。

金英丸(左端)さんは、8月15日の「光復節」を控え最近とみに忙しい日々を送っている。14日には外信記者クラブでの強制徴用被害者や支援者の記者会見をセッティングした。14日、筆者撮影。
金英丸(左端)さんは、8月15日の「光復節」を控え最近とみに忙しい日々を送っている。14日には外信記者クラブでの強制徴用被害者や支援者の記者会見をセッティングした。14日、筆者撮影。

12日、民族問題研究所で筆者とのインタビューに応じた金室長は、2018年10月の大法院判決について「日本の市民運動が無ければここまでできなかった」と、日韓の市民の成果であると何度も強調した。

さらに「判決は『65年体制』による日韓の政治的な結託、言い換えれば朝鮮半島の分断体制、冷戦体制を維持する日米間の軍事同盟が崩れてきた決定的な結果」と位置付け、理解を求めた。

その上で今を「当事者が生きている間に日本政府がこの問題を解決できる最後のチャンス」と見なし、「被告企業と原告側が判決にしたがい、賠償についての協議を始めることが重要」と訴えた。

そして「市民たちの連帯があれば、この問題を解決することができる。今本当に必要なのはその部分」としつつ、「日本では8月15日前後になると、原爆被害者や戦争被害についての番組で物語が多く語られる。その痛みを分け合う気持ちを持ってほしい。同じ場所で苦労した韓国の人がいる」と、政府の問題ではなく人間の、そしてヒューマニズムの問題であることを強く主張した。

以下は詳細なインタビュー。

(1) 2018年10月の韓国大法院判決をどう受け止めたか。

基本は1997年から日本で裁判をやって、日本の最高裁で負けて2003年から韓国に舞台を移して続けてきた。90年代以降の、日本の市民社会と韓国の市民社会が戦ってきた結果だ。1991年の金学順さんのカミングアウト(※1)から始まった戦後補償の運動、つまり民主化した韓国で、それまで話すことができなかった韓国の被害者がみずから声をあげたのが始まりだった。

裁判の過程で(1965年の)請求権協定が壁になったから、当時の日韓会談で何があったのか話をしましょうと情報公開を求める流れになった。そして裁判の結果、韓国政府の資料が公開され、そこから「慰安婦」、サハリン残留韓国人、原爆被害者の補償問題が明らかになり、韓国の憲法裁判所から「韓国政府が日本政府に対しはたらきかけるべきだ」という違憲判決(2011年)を引き出した。

その間、日韓の政府がやったことは一つもない。すべてが被害者、あるいは日韓の市民社会が闘って勝ち取ってきたもので、そうした結果が、2018年の10月31日の韓国の大法院の判決といえる。

※1:金学順(キム・ハクスン、1924~1997)。韓国の女性運動家。1991年に韓国で初めて自身の日本軍「慰安婦」としての経験を証言し、日本政府を相手に訴訟を起こした。これにより、同様の被害にあった人々が韓国以外の国からも名乗り出、問題が表面化した。証言をした8月14日は2018年に韓国政府により「慰安婦被害者を悼む」国家記念日に指定された。

(2) 大法院の判決について、日本政府は今なお「65年協定でこの問題は完全かつ最終的に解決済み」という立場を崩していない。

知っての通り今、日本政府が強硬な態度に出ている。こうした状態で韓国政府が代わりにお金を出す場合、「日本政府の脅かしに屈服した」と受け止められる。このため日本側が強く出るほど、韓国政府の動ける範囲を狭めているという部分がある。

さらに日本側が一方的に請求権協定の3条に基づいて対話を求めているが、今回の判決は請求権協定の外にあるため、韓国側ではそれに当たらないという解釈だ。だが、何らかの形で政府としても話し合いをする必要がある。

強制動員について日本政府の責任もある。政府の許可がないと、日本の企業も人を使えないのは歴然としている。日本政府がやるのは資料を提供すること。歴史問題の解決に求められるのは「正義」に対する気持ち。被害者が何を求めているのか考えることなどだ。

(3) 河野外相は解決策を提案する駐日韓国大使に「極めて無礼」と声を荒げるなど、日本側は非常にドライな印象だ。

これまで日本で行ってきたほとんどの裁判で負けている。その際、韓国政府は日本の大使に対して文句を言ったり抗議するなどは一切していない。司法主権というものがある。これは尊重されるべきもので民主主義の基本だ。先にも述べたように、被害者たちが裁判をずっと戦ってきた結果、ここまで来ている。

一方、企業側も20年以上裁判所で戦ってきている。和解したこともある。それなのに、判決が出たら連絡もすべて無視し、交渉にも応じない。被害者が訪問しても門前払いにする。私人の関係でもこうはしないだろうと思う。

被害者が過去に自分の会社で働いた人であるという強制動員の事実は、日本の裁判所も認めている。個人の請求権は生きていると。国の立場で駆け引きをするものではなく、被害者の人権に向き合ってはどうか。明らかな人権問題であると理解する必要がある。今がある意味で最後のチャンスだ。

ソウル市龍山区に位置する民族問題研究所と付属の植民地歴史博物館。1991年に設立された同団体は、1万3000余人の会員を持つ大型NGOだ。12日、筆者撮影。
ソウル市龍山区に位置する民族問題研究所と付属の植民地歴史博物館。1991年に設立された同団体は、1万3000余人の会員を持つ大型NGOだ。12日、筆者撮影。

(4) 「最後のチャンス」とはどういう意味か。

当事者が生きている間に日本政府がこの問題を解決できる最後のチャンスということだ。慰安婦問題もそう。歴史問題すべてがそうではないが。この問題にフタをして生きるのかという分かれ道だ。フタをする場合は、真の意味での関係改善ができないという本質的な問題にぶつかる。

例えば今、日韓の自治体が多く交流しているが、その中で歴史問題を避けてきた。日の丸と太極旗(韓国の国旗)を掲げて、お互いに未来志向という交流をしてきたが、心の奥の歴史問題を語れなかった。そういう交流は基盤が弱く、すぐに切れてしまう。

私の周囲でも歴史問題を扱う交流は今も途切れず続いている。日中韓の歴史教科書を作るキャンプ、高知の高校生の平和ゼミナールも釜山との間で10年続いている。北海道で強制徴用者の遺骨を発掘する東アジア共同ワークショップもそう。

こうした脈絡で、日本社会にとって歴史問題にしっかり向き合うチャンスであるにもかかわらず、まるで「金をやりたくない金持ちによる、蔑んだ感じ」の対応は、日本社会にとって損なことである。

(5) 韓国の反応も強い。

韓国社会の反応は「反日デモ」でなく、「反安倍デモ」であることがはっきりしている。政治家たちに利用されるナショナリズムには絶対にのっかりたくない。それくらい成熟している。

韓国の人がなぜこれほど怒っているのかを考えてみると、やっぱり昔とは違うというものがある。特に昔は日本が経済的に上だったが、今の韓国の若者にはそんな意識がまったく無い。その代わり過去の歴史による日本に対する偏見もない。日本が好きで旅行に行く人がたくさんいる。

そんな彼らがなぜ怒っているのか。それは日本に無視されていると思うからだ。若者世代は正義感や公正公平に敏感だ。世代間の待遇の差、非正規雇用の問題などは彼らにとって正義に反する問題だ。今回の一連の騒動をきっかけに若者が歴史問題に向き合うことになったという点がある。

歴史認識に根ざした日韓の真の連帯は、20年以上も途切れず続いてきた。8月15日前後には日本から韓国にたくさんの人が来る。安倍政権に一緒に反対するというのは、東アジアの平和を考える上で重要だ。

(6) 文政権の対応はどう評価するか。「(昨年10月末から)8か月間、何をしてきたのか」という声も韓国内にはある。

政府は公式に被害者の声を聞いていない。政府側と接触はあったがそれは非公式なものに過ぎない。「共同行動」でも6月20日に声明を出し、政府を批判した。政府に言いたいことはたくさんある。もう少し見守って、それでも変わらないようならば会見を行うつもりだ。

韓国政府にも責任がある。朴槿恵時代に外交部が徴用工裁判の判決に介入している。1965年に被害者を救済することができなかった点もそうだ。だから本当に被害者を中心において、「外交的惨事」だった2015年の慰安婦合意から学ばないといけない。被害者が求めるものはなんなのか。

政府は被害者に対しずっと何もしてこなかった。その被害者がここまでやっているのだから、政府が正義をもって被害者のことを考えるべきだ。判決がすでに出ているにもかかわらず、日本側と中途半端に妥協してしまう場合、本格的にこんがらがることになる。

※編注:当時、韓国政府は日韓の企業がお金を出し合う「1プラス1」の財団案を発表し、日本政府に提案したが、日本政府は即座にこれを拒絶した。「共同行動」は声明文で、「政府は各界の人士の意見および議論を聴取したとするが、被害者の意見をまったく反映していない」、「2015年の慰安婦合意の失敗をふたたび繰り返す政府に大きな失望を隠せない」、「今からでも強制動員被害者の声に耳を傾け、被害者中心主義に基づくべきだ」とした。(連合ニュースより)

(7) 文在寅政権に望むことは。

今こそ日本政府との対話に全面的に出るべき。また、この問題を解決する平和の同伴者として、市民たちの交流を活発にできるようにしてほしい。対決に進んではいけない。

対話を通して被害者たちの声を生かしていく。朴正煕(パク・チョンヒ、1965年)、朴槿恵(2015年)親子のように下手に政治的決着として妥協しないで、苦難の道でも乗り越えていくべきだ。

また、韓国では歴史問題に関して「慰安婦」、強制連行、在日コリアンの未解決の課題などがたくさんある。これに対し、その都度、臨機応変に対応するのではなく、総括的に解決できる大きな研究調査支援アーカイブを備えた責任ある機関を作るべきだと考える。後の世代のためにも、総合的に歴史問題をあつかう必要がある。国家の品格に関わる問題だ。

訴訟団の金世恩(キム・セウン)弁護士(左から2人目)は14日、「政府間の問題になるほど、人権問題という本質から外れていくのが心配」と語った。筆者撮影。
訴訟団の金世恩(キム・セウン)弁護士(左から2人目)は14日、「政府間の問題になるほど、人権問題という本質から外れていくのが心配」と語った。筆者撮影。

(8) 日本側は具体的に今後、どんな解決策を考えることができるか。

11日に東京であった、今回の訴訟に関わる日韓の弁護士が開いた会見でも話をしたが、被告企業と原告側が判決にしたがい、賠償についての協議を始めることが重要だ。この協議によっては、差し押さえている韓国内の被告企業の資産の売却(現金化)を停止することも考えている。日韓両政府はこの協議を支持するべきだ。

(9) 日本の世論では、2015年の慰安婦合意により、まるで日韓のすべての歴史認識問題が「最終的かつ不可逆的な解決」をしたかのような反応だ。2015年の「子どもたちに謝罪を続ける宿命を背負わせてはならない」という安倍談話もある。

慰安婦合意で安倍首相が朴槿恵大統領に電話で謝罪したというのは、謝罪にならない。謝罪というのは受け入れる方の気持ちが大切だ。例えば争いになって手を出してしまったが、当事者でもない人に謝罪しておいて「解決した」という感覚は有り得ないと思う。

安倍首相は被害者に謝罪しないといけない。なぜそれができないのか。そのひと言がなぜ難しいのか。被害者に対しての配慮や人権の感覚が無いと言う他にない。

「慰安婦」の被害者に10億円を出したというが、お金で決着させようとする感覚自体がおかしい。歴史認識問題であるにもかかわらず「不可逆的、完全な解決」という言葉が当然のように使われるというのは、この問題を自分のこととして考えていない証拠だ。

民族問題研究所が2009年に発刊した『親日人名辞典』。日本軍将校出身の朴正煕元大統領などが含まれ、「大日本帝国時代の親日派とは何なのか」という論争を呼んだ。12日、筆者撮影。
民族問題研究所が2009年に発刊した『親日人名辞典』。日本軍将校出身の朴正煕元大統領などが含まれ、「大日本帝国時代の親日派とは何なのか」という論争を呼んだ。12日、筆者撮影。

(10) それでも日本政府や世論の態度を変えるのは難しいと思う。

私も難しいと思う。少し違った視点から見てみたい。日本の場合、国交を結んでいるロシアと中国と韓国、すべての国と国境問題がある。こうした問題はすべて歴史問題から来ている。先の戦争のことを今も解決していないという歴史的な証拠だ。

なぜ沖縄の人々が政府に抵抗しているのか。(基地問題は)戦争の遺産ということだ。毎年、沖縄を訪れる安倍首相がやじを受けるのも、沖縄の基地問題にきちんと対処していないからだ。重く受け止める必要がある。

(11) 韓国は「反安倍」と言い、日本の市民への信頼を寄せるが、日本の世論は想像以上に悪い。

この問題は「65年体制」が何かという問題だ。日本社会の根本にある戦後体制というのが、戦前の、例えば朝鮮人に対する蔑視意識や植民地主義から脱却しているのか自問してみるべきだ。安倍首相はこれが思想的にできていない。

2002年から06年まで日本にいた当時、小泉首相と金正日委員長の日朝平壌宣言から第二次核危機が報じられる様子を見てきた。北朝鮮に対するバッシングは戦前の朝鮮人蔑視、植民地主義のあらわれだと思っていた。それがずっと続いている。北朝鮮の拉致問題、核問題を安倍政権が利用してきている。

それが今は韓国にまで拡大した。以前は、日韓は良い関係に見えたのだが、今はあからさまにヘイトスピーチがなされ、朝鮮学校無償化は止まり、平和の少女像も置けない。愛知(トリエンナーレ)の事件は特に危ないと思う。政治家が過激な発言をし、右翼がそれに乗っかって脅迫をする。

日韓の葛藤を煽る悪意に満ちた報道が流れている。韓国の保守メディアとのつながりも感じる。韓国のデモも「反日デモ」や「親北朝鮮勢力がやっている」と簡単に片付けてしまってはいけない。日本メディアの罪は大きい。

最近では日本の保守派と近い韓国の保守団体も「反安倍デモ」に乗り出している。写真は13日、光化門広場周辺で行われていた韓国屈指の保守団体『韓国自由総連盟』による「安倍政権糾弾」デモ。筆者撮影。
最近では日本の保守派と近い韓国の保守団体も「反安倍デモ」に乗り出している。写真は13日、光化門広場周辺で行われていた韓国屈指の保守団体『韓国自由総連盟』による「安倍政権糾弾」デモ。筆者撮影。

(12) 「謝罪」とはどういうものか。

ある自民党議員が「日本政府は世界で『平和の少女像』拡散を防いでいる」と述べたが、そこに使うお金で、それこそ日本の国会内に少女像を作ることも考えられる。

ドイツ・ベルリンの中心にホロコーストの碑などの過去を振り返るモニュメントがたくさんある。あそこまでやっても、ネオナチみたいなのが出てくる。それを踏まえて、ドイツでは『まだ足りない』としている。

日本社会自身のために必要なことだ。日本人の立場では「一生懸命やっているのにいつも足りないと言われる」という気持ちは嫌かもしれない。だが本当の謝罪というのは謝罪してからがスタートだ。

豪州でアボリジニの「盗まれた世代(編注:1910年代から1970年代までアボリジニへの同化政策として子供を親元から強制的にひきはがし、白人家庭の養子にした。被害者は数万人にのぼる。08年政府が謝罪した)」について、首相が国会の前に被害者アボリジニの代表を呼んで、「謝罪は第一歩」と語った。

謝罪をしてその後どうするのかというのが、謝罪の中身を問うものなので、本気かどうか測るものだ。それなのに「不可逆的」などと言うのは日本社会にとっても良くないと思う。逆の立場で考えてほしい。いくら「村山談話を踏襲する」と何百回言っても、安倍首相の行動を見て信じるのか、と。

(13) 韓国では16年末から17年にかけて、朴槿恵政権を倒した「キャンドルデモ(キャンドル革命)」があった。日韓の市民意識の温度差もあるようだ。

その影響はあるだろう。特に、韓国で「司法ろう断」があった。「65年体制」つまり朴正煕(パク・チョンヒ)から始まる日韓の政治権力の「野合の体制」の姿があからさまになった。韓国の司法に政府や外交部が直接介入していた。これこそが「キャンドル革命」の結果、明らかになったものだ。当時の大法院長(最高裁判所長官)の梁承泰(ヤン・スンテ)もこの疑惑で逮捕されている。

だから、去年の大法院判決は「65年体制」による日韓の政治的な結託、言い換えれば朝鮮半島の分断体制、冷戦体制を維持する日米間の軍事同盟が崩れてきた決定的な結果といえる。だから安倍首相があれほどまでに反発するのではないか。

ある日本の知識人は「有り得ない判決」という安倍首相の反応を「怖いからではないか」と説明した。この判決の破壊力はそれほど大きい。危機感があると思う。今さら韓国の方に、韓国が裁判所になんとかしろというのは民主主義、三権分立の問題から難しい。

韓国は市民の力によって三権分立を無視してきた李明博・朴槿恵の勢力をひっくり返した。日本で話題になった「モリカケ」の構造は、「キャンドルデモ」のきっかけとなった崔順実=朴槿恵ゲートとまったく同じと感じる。日本の民主主義が問われているのではないか。

(14) 金さんは長く、市民の目線で国家の問題に相対してきた。日韓の市民は一連の日韓葛藤の中で、どう受け止めればよいのか。

日韓で合わせて1000万人が交流する時代だ。今、観光キャンセルで自治体が打撃を受けているが、日本社会が批判する先は韓国ではなく安倍政権ではないか。被告企業が判決を履行していれば、日本政府が絶対に正しいという立場がなければ、事態はここまでひどくなっていない。

それくらい、日韓の溝が深くなっている。だがこれは、取り戻すことができる。日韓ともにナショナリズムを国内政治に利用すると、いつか問題になる。それほど市民の認識はバカではないということを見せようと、日本の社会に訴えたい。あと今、韓国に来ても危ないというのは一切ない(笑)。

植民地歴史博物館の入り口。奥のプレートには寄付者の名前が刻まれている。12日、筆者撮影。
植民地歴史博物館の入り口。奥のプレートには寄付者の名前が刻まれている。12日、筆者撮影。

(15) 日韓市民の連帯の未来は。

平和を願う新しい市民の連帯というのがこれから芽生えると思う。日本の若者、市民におおいに期待している。安倍政権が続いて日本は幸せなのか、日本人自身が考えるべき。

また、平和憲法は日本人だけのものではない。朝鮮半島やアジアの人々がどれほど犠牲を払ってできたものかを考えてほしい。結局、植民地主義を乗り越えるというのは、日本の市民一人ひとりが歴史問題と向き合うときに可能になる。それを今、日本社会でも韓国社会でも考えるチャンスが来た。

また、南北がなぜ分断されたのか、そこに日本の責任がないのかも考えてほしい。「関係ない」という歴史修正主義が浸透しているのに危機感を感じる。

(16) 民族問題研究所は、植民地歴史博物館も運営している。日本からはどの程度、観覧客が訪れるのか。

けっこう来ている。全観覧客の10%が日本人だ。毎月100人近くは来ていると思う。述べ1000人を超えている。日本の市民の応援の電話も少なからず来る。「日本に植民地歴史博物館を建てるべき」という話も多い。なお、植民地歴史博物館を建てる際に、日本から1000万円以上の寄付があった。

金正珠(キム・ジョンジュ、88、左)さんは13歳だった1945年2月、韓国から富山県の不二越鋼材工業に勤労挺身隊として強制徴用された。涙と共に安倍首相の謝罪を強く訴えた。14日、筆者撮影。
金正珠(キム・ジョンジュ、88、左)さんは13歳だった1945年2月、韓国から富山県の不二越鋼材工業に勤労挺身隊として強制徴用された。涙と共に安倍首相の謝罪を強く訴えた。14日、筆者撮影。

(17) 最後に、日本の市民にひと言。

繰り返しになるが、東アジアの人権の問題に政治的決着でフタをしてきた歴史が、被害者たちの戦いによってようやくここまで来た。国際人権問題の観点から言っても、国家権力が勝手に個人の権力を消滅させることはできない。

1965年は国に自由にものが言えなかった時代だから、それが可能だったかもしれないが、世界の民主主義の発展の流れとして受け止めたい。だからこそ一方的な力関係でおどかしては絶対に解決できない問題だと思う。

この問題は、日本の市民運動が無ければここまでできなかった。市民たちの連帯があれば、この問題を解決することができる。今本当に必要なのはそこだ。

日本で8月15日前後になると、原爆被害者や戦争被害についての番組で物語が多く語られる。その痛みを交換する気持ちを持ってほしい。同じ場所で苦労した韓国朝鮮の人がいると。

そういう人たちが自分のお爺ちゃん、お婆ちゃんだったら、どう思うのか。

政府間の話し合いではなく、被害者の声に耳を傾けてほしい。映像でも映画でもいいから、直接、被害者に会ってほしい。韓国の水曜デモに行ったり、歴史博物館に行ったり、今だからこそ日本と韓国が親密に交流を深めてほしい。その機会をぜひ作ってほしい。(了)

ソウル在住ジャーナリスト。『コリア・フォーカス』編集長

群馬県生まれの在日コリアン3世。1999年からソウルに住み人権NGO代表や日本メディアの記者として朝鮮半島問題に関わる。2015年韓国に「永住帰国」すると同時に独立。16年10月から半年以上「ろうそくデモ」と朴槿恵大統領弾劾に伴う大統領選挙を密着取材。17年5月に韓国政治、南北関係など朝鮮半島情勢を扱う『コリアン・ポリティクス』を創刊。20年2月に朝鮮半島と日本の社会問題を解決するメディア『ニュースタンス』への転換を経て、23年9月から再び朝鮮半島情勢に焦点を当てる『コリア・フォーカス』にリニューアル。ソウル外国人特派員協会(SFCC)正会員。22年「第7回鶴峰賞言論部門優秀賞」受賞。

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