行くのも怖い国になった中国 相次ぐ日本人拘束は国内統制強化と軌は同じ
取材で中国に通い始めて26年になるが、この数年は行くのが少し怖い。入出国の度に、緊張でどんよりした気持ちになる。日本人がスパイ行為を理由に逮捕される事件が相次いでいるからだ。
2015年5月以降、スパイ容疑で拘束されたのは分かっているだけで15人。うち9人が起訴され全員に懲役刑の判決が下りている。拘束者の中には、長く日中交流事業をしてきた団体の理事長、温泉探査の仕事で出張中の会社員もいた。
先日も、今年7月に湖南省長沙市で50代の男性が国家安全局に拘束されていたという報道があった。裁判は非公開なので、起訴された人たちのいったいどの行為が、なぜスパイ罪に問われたのかもはっきりしない。
北海道大学の岩谷將教授が9月に北京で拘束された事件は、中国を訪れる研究者やジャーナリストに衝撃を与えた。政府系のシンクタンク「中国社会科学院」の招きで訪中してやられたからだ (※11月15日に解放され帰国した)。招待自体が拘束するための「ひっかけ」だった可能性もある。恐ろしい限りだ。
◆国内統制は格段に厳しくなった
5年ほど前から、中国当局は多方面で社会統制を強めている。身分証や旅券がないと列車、長距離バスの乗車券が購入できなくなった。どこの都市でも監視・防犯カメラがそこここに設置されている。
私がよく訪れる吉林省の場合、道路の検問所が何倍にも増えたと実感している。朝中国境は有刺鉄線に覆われ、監視カメラで隙なく見張られている。
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公安警察が外国人の旅券をスマホで撮ることも珍しくない。都市によってはホテルのチェックイン時に写真と指紋を採られることもある。こうして収集した個人情報は当局が一元管理しているはずだが、外国人も、中国に足を踏み入れた瞬間から当局の監視の網が被せられる。そこから逃れることは不可能だろう。
外国人の私が窮屈を感じるのだから、住んでいる中国人は強い圧迫を感じているはずだ。10月に会った北京の外資系メーカーに勤める30代の男性は次のように述べた。
「インターネットが普及して便利になったが、今では規制だらけ。国家が国民をデジタル技術で統制・監視しようとしているのを実感する。ビジネスも政府の干渉が増えた。息が詰まりそうで、将来は外国に出たい」
一方で、「犯罪やテロが減ったのだから個人情報の管理政策は評価すべき」という声が少なくないのも事実だ。
◆ウイグル弾圧と香港事態は繋がっている
中国政府が最重要管理対象とし、酷い仕打ちを受けているのが新疆のウイグル族だ。地方の大都市では、新疆から出稼ぎに来て羊肉の串焼き店や飴売り屋台で働くウイグル族が大勢いたのだが、今ではすっかり姿を消してしまった。吉林省の知人の警察幹部は、「テロ分子が国外に逃げるのを防ぐため、各地に散らばっているウイグル族を新疆地区に移送した」と筆者に言った。
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2016年夏、ウイグル族らしき風貌の男性が、検問所でバスから手荒く引きずり降ろされるのを目撃したことがある。国連人種差別撤廃委員会では、最大100万のウイグル族が収容施設に入れられていると報告されている。
外国人に対する統制とウイグル族迫害は、「怖くなった中国」を象徴している。半年以上続く香港市民による抵抗は、そんな中国に飲み込まれたくないという必死の異議申し立てである。
※2019年11月26日付け毎日新聞大阪版に寄稿した拙稿を加筆修正しました。