石破首相の「追加の利上げをするような環境にない」発言のまずさ、その後火消しに走る
石破茂首相は2日、首相官邸で日銀の植田和男総裁と首相就任後、初めて面会した。面会後、記者団に「個人的には現在、追加の利上げをするような環境にあるとは考えていない」との認識を示した(3日付日本経済新聞)。
9月27日の自民党総裁選の結果を受けて、ナイトセッションの日経平均先物は一時2500円以上もの下落となり、ドル円は142円台と急激な円高ドル安が進行した。債券先物もナイトセッションで一時、70銭を超す下げとなった。
これは石破ショックというよりも、高市敗北ショックと呼ぶべきものであった。しかし、この動きに対して石破氏が警戒感を持ったとしてもおかしくはない。
自民党総裁選に出馬した高市早苗経済安全保障担当相(当時)は23日公開のインターネット番組で、日銀の金融政策運営を巡り「金利を今、上げるのはあほやと思う」とけん制した。
そして高市氏が自民党総裁選で優位になるとみての円安株高の動きとなった。しかし決選投票で高市氏は敗れ、株安・円高の動きが強まった。
衆院選も控え、株式市場の動向に神経質にならざるを得ない側面はあろう。だからといって「金利を今、上げるのはあほやと思う」と同様の発言は、一時的な円安株高を招いたとしても、警戒感を招きかねない。
岸田前政権の支持率低下の背景にあったのは、政治資金問題を含めた安倍派などへの対応にあったと思われる。そのため、選挙を意識すれば決選投票で高市氏よりも石破氏との選択も働いたのではなかろうか。
それにもかかわらず、アベノミクスの継承を意識させるような発言は、仮に株高を招いたとしても不信感も招かざるを得ないのではなかろうか。
石破首相の発言の前に、赤沢経済再生担当相が、首相が日銀による金利引き上げに前向きだと言われるのは全体の絵として必ずしも正しくないと述べていた。
自民党総裁選の状況を受けた株式市場や外為市場の動向を受けて、衆院選に向けて株安はまずいとなったのかもしれない。しかし、それは短絡的な発想とも捉られかねなく、衆院選にも影響を与えかねないと思うのだが。
その後、 石破茂首相は3日夜、日銀の金融政策について、「利上げする環境にない」とした自らの発言について、政策判断に「時間的余裕はある」とした日本銀行の植田和男総裁の認識を念頭にしたと釈明した。官邸で記者団に語った(4日付ブルームバーグ)。
林芳正官房長官は3日の臨時閣議後の会見で、石破茂首相が2日夜に日銀の追加利上げに慎重な発言をしたことに関連し、先立って行われた植田和男日銀総裁との会談では「金融政策の具体的手法は日銀に委ねられるべきとしており、植田総裁も首相から金融政策について具体的にこうしてほしいという話はなかったと述べたと承知している」と語った(3日付ロイター)。
もしそうであったとしても、間の悪さとともに、「個人的には」とした上での追加利上げ否定ともいえる発言は、市場に混乱をもたらすものであったことはたしかであろう。