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「ビラ中断・制裁緩和」が6割…韓国の最新世論調査20項目を読む

徐台教ソウル在住ジャーナリスト。『コリア・フォーカス』編集長
2018年2月、青瓦台を訪れた北朝鮮の金与正氏と握手する文大統領。青瓦台提供。

韓国の公営放送『KBS』が史上初の南北首脳による共同宣言から20周年を迎え、ビラ散布・制裁・核問題・南北交流そして統一など広範囲なテーマにまたがる世論調査を行った。その結果をまとめた。

※この世論調査は北朝鮮による南北共同連絡事務所爆破(16日)以前の6月5日から9日にかけて行われたものである。注意を要したい。

●南北関係悪化のさなかの調査

韓国KBSは日本のNHKにあたる放送局だ。同局は今回の調査の目的を「6.15南北共同宣言20周年を迎え、南北交流協力の成果を評価し、南北関係と統一、北朝鮮核問題の解決などに対する認識を知るため」としている。

調査期間は6月5日から9日まで。この時期はちょうど、南北関係について北朝鮮側が強い態度を露骨にした時期と重なる。

少し振り返ると、4日には最高指導者・金正恩氏の妹の金与正(キム・ヨジョン)氏が「最悪の事態に直面したくなければ、やることをしっかりせよ」と、ビラ散布など北朝鮮への敵対行為を止めることを迫った。

続く5日には北朝鮮で南北関係を主管する部署である朝鮮労働党・統一戦線部の報道官談話で韓国を「敵」と表現、さらに9日には「対南事業」を「対敵事業」に改めることを明かし、南北間のホットラインを全て遮断する措置を取ったという流れだ。

それでは全20項目にわたる世論調査の結果をお伝えする。なお、質問と選択肢はKBSが公開している世論調査用紙の内容を忠実に翻訳したものだ。

今回、回答したのは「KBS国民パネル」と呼ばれる市民たち1000人。彼らは普段からKBSが実施する各種世論調査に参加し、謝礼として現金や番組観覧権などを受け取っている。この結果は韓国内では6月15日に報道された。

(1)今日の世論調査の前に、6.15南北首脳会談と南北共同宣言の内容について、どれだけ知っていたか。

・とてもよく知っていた:14.3%

・ある程度知っていた:59.9%

・聞いたことはあった:23.8%

・よく知らなかった:2.1%

(2)南北分断以降、はじめての南北首脳会談だった「6.15南北首脳会談」の成果がどの程度であると思うか。

・とても成果があった:9.9%

・ある程度成果があった:52.3%

・別に成果がなかった:33.2%

・まったく成果がなかった:4.6%

(3)6.15南北共同宣言から20年が経った今、6.15南北共同宣言が南北関係改善にどの程度役に立ったと思うか。

・とても役に立った:8.5%

・ある程度役に立った:45.0%

・別に役に立たなかった:38.6%

・まったく役に立たなかった:7.9%

(4)6.15南北共同宣言から20年間続いてきた南北間の交流・協力事業の中で最も意味があったものは何か

・南北離散家族再会:52.3%

・開城工業団地稼働:22.3%

・鉄道、道路の連結:10.4%

・平壌公演など文化交流:8.1%

・金剛山観光:6.9%

(5)6.15南北共同宣言を契機に始まった交流協力が、現在の北朝鮮核問題を解くのにも役に立つと思うか。

・とても役に立つ:10.7%

・ある程度役に立つ:38.7%

・別に役に立たない:38.8%

・まったく役に立たない:11.8%

(6)2018年に文在寅大統領と金正恩国務委員長が3度の首脳会談を通じ合意した事案のうち、もっと至急に履行されるべきは何か。

・軍事部門の緊張解消:38.9%

・離散家族など人道問題の解決:29.4%

・鉄道、道路連結など経済協力:14.1%

・金剛山観光、開城工業団地稼働の再開:10.1%

・金正恩委員長のソウル訪問:6.5%

(7)最近、韓国政府では新型コロナウイルスの防疫協力、個別観光、失郷民(訳注:北朝鮮地域出身で朝鮮戦争時に南側に逃れてきた人々)など国連の北朝鮮制裁に該当しない事案に対する南北交流協力を推進すると明かした。こうした政府の立場についてどう思うか。

・とても賛成する:22.1%

・だいたい賛成する:47.6%

・だいたい反対する:21.6%

・とても反対する:8.8%

(8)2008年以降中断されている金剛山観光事業はどうすべきか。

・再開すべき:64.6%

・中断を続けるべき:35.4%

(9)2016年2月に開城工業団地が閉鎖された。今後、開城工業団地事業はどうすべきか。

・再開すべき:66.9%

・現在の閉鎖状態を維持すべき:33.1%

(10)北朝鮮に対する食糧支援は長い間中断されていたが、昨年から国際機構(世界食糧計画WFP)を通じ5万トンを支援している。今後、北朝鮮への食糧支援はどうすべきと考えるか。

・北朝鮮への食糧支援を続けて推進すべき:52.5%

・北朝鮮への食糧支援を中断すべき:47.5%

2018年5月、板門店でサプライズ首脳会談を行った南北両首脳。消えかけていた米朝会談を生き返らせた。青瓦台提供。
2018年5月、板門店でサプライズ首脳会談を行った南北両首脳。消えかけていた米朝会談を生き返らせた。青瓦台提供。

(11)2010年哨戒艦『天安』被撃(撃沈)以降、韓国政府な南北間の人的・物的交流を中断する「5.24措置」をとった。最近になって政府が「5.24措置の実効性が失われた」としたが、解除を公式化してはいない。今後、「5.24措置」をどうすべきと考えるか。

・5.24措置の実効性をふたたび強化すべき:24.8%

・5.24措置の実効性はなくとも公式に解除してはならない:51.5%

・5.24措置を公式に解除すべき:23.7%

(12)2000年から2018年まで5度にわたる南北首脳会談が開催された。今後、北朝鮮核問題と南北協力など懸案の問題解決のために南北首脳会談が開催される必要があると考えるか。

・かならず開催されるべき:37.9%

・開催される必要がある程度ある:43.4%

・別に開催される必要がない:13.4%

・まったく開催される必要がない:5.4%

(13)最近、北朝鮮が脱北者団体による北朝鮮に向けたビラ散布の中断を強く要求した。これに監視、脱北者団体の表現の自由と、北朝鮮住民の知る権利を保障するためにビラ散布を続けるべきという主張と、接境地域(訳注:南北軍事境界線付近の地域)の住民の安全を脅かし、南北協力の生涯になるから中断せねばならないという意見が対立している。どちらに同意するか。

・対北朝鮮ビラ散布を続けるべき:39.4%

・対北朝鮮ビラ散布を中断すべき:60.6%

(14)2019年2月にハノイであった第二次米朝首脳会談が決裂した後、北朝鮮核問題の解決のための接点が見つからない。今後、北朝鮮核問題はどうなると予想するか。

・円満に解決するだろう:4.0%

・簡単ではないが解決するだろう:32.9%

・当分の間解決は難しいだろう:43.6%

・長い間解決は難しいだろう:19.6%

(15)国連安全保障理事会による北朝鮮制裁が北朝鮮核問題解決の役に立っていると思うか。

・とても役に立つ:9.1%

・ある程度役に立つ:41.2%

・別に役に立たない:42.9%

・まったく役に立たない:6.8%

(16)米朝の非核化協議の進展のために国連安全保障理事会による北朝鮮制裁を緩和する必要があると思うか。

・とても必要だ:9.7%

・ある程度必要だ:51.4%

・別に必要でない:27.0%

・まったく必要ない:11.9%

(17)北朝鮮の核問題を解決するために最も必要なものは何か。

・北朝鮮の誠実な非核化措置:57.5%

・米国の誠実な相応措置:16.1%

・米朝間の信頼構築:11.4%

・国際社会の努力:8.0%

・韓国による仲裁・促進の役割:7.0%

(18)今後の南北関係をどう展望するか。

・とても肯定的に展望する:5.6%

・多少肯定的に展望する:32.7%

・まあまあだ:33.0%

・多少否定的に展望する:21.4%

・とても否定的に展望する:7.2%

(19)統一についてどう思うか。

・かならず統一されるべき:19.6%

・大きな負担がなければ統一される方がよい:48.5%

・相当期間、今の共存状態を維持すべき:20.2%

・統一されない方がよい:11.7%

(20)統一のために優先的に推進されるべきことは何か

・北朝鮮核問題の解決:24.8%

・南北間の経済交流協力:23.4%

・軍事的信頼構築:18.6%

・離散家族の往来および故郷訪問:16.5%

・文化交流および人的交流:11.5%

・南北首脳会談:5.2%

●総評

20年前の6月15日にあった史上初の南北首脳会談は、南北朝鮮の運命を朝鮮民族が自主的に決め、さらに統一に向け南北交流という中間ステップを設ける事で合意した画期的なものだった。

しかし、北朝鮮の核開発を止められるのは韓国ではなく敵対を続ける米国であるという事実、さらに朝鮮半島が米ソ冷戦から米中新冷戦の最前線となるなど「朝鮮半島問題の国際化」がさらに進み、南北関係には閉塞感が漂っている。

そんな中、今回の世論調査からは、韓国市民は非常にリアリスティックな視点を維持していることが浮かび上がった。食糧支援や5.24措置解除については賛否世論が拮抗している。さらに北朝鮮の核問題(正確には朝鮮半島の非核化と聞くべきだった)の解決に63.2%が「難しい」と答えた点などが印象的だった。

一方で、南北の結びつき自体は強めたい思いも透けてみえた。過去20年で最も意味のある交流・協力事業の1位に南北離散家族再会を選び、金剛山観光事業・開城工業団地の再開世論が優勢だった。分断の現実が依然として横たわっている。

最後に、北朝鮮の核問題を進展させるために、韓国政府・国際社会ともにより積極的な動きをとる必要があると考えていることも分かった。こうした世論は「国際社会(米国)から自主的な独自の南北関係改善」において足踏みが続く文在寅政権にとって、追い風となる可能性がある。

ソウル在住ジャーナリスト。『コリア・フォーカス』編集長

群馬県生まれの在日コリアン3世。1999年からソウルに住み人権NGO代表や日本メディアの記者として朝鮮半島問題に関わる。2015年韓国に「永住帰国」すると同時に独立。16年10月から半年以上「ろうそくデモ」と朴槿恵大統領弾劾に伴う大統領選挙を密着取材。17年5月に韓国政治、南北関係など朝鮮半島情勢を扱う『コリアン・ポリティクス』を創刊。20年2月に朝鮮半島と日本の社会問題を解決するメディア『ニュースタンス』への転換を経て、23年9月から再び朝鮮半島情勢に焦点を当てる『コリア・フォーカス』にリニューアル。ソウル外国人特派員協会(SFCC)正会員。22年「第7回鶴峰賞言論部門優秀賞」受賞。

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