『会長島耕作』最速レビュー 強い産業づくり、国づくりの方針を示せ
2013年8月29日(木)。寝る前に、夜中のコンビニに私はダッシュした。島耕作シリーズの最新作、『会長島耕作』が講談社の『週刊モーニング』でスタートしたからだ。2013年7月に連載が終了した『社長島耕作』の続編である。
言うまでもなく、島耕作シリーズはサラリーマン漫画の金字塔である。ベストセラーである。ここまで主人公の役職が上がり続ける漫画は田河水泡氏の『のらくろ』シリーズ以来である。そういえば、ともに講談社ではないか。
コンビニから帰って、書斎で一読した、その興奮のまま、徒然なるままに書こうと思う。また、あくまで私の主観で書くことをお許し頂きたい。それくらい、私は、島耕作シリーズを、愛しているからだ。
社長編の最終回、株主総会でいかにもパナソニックをイメージしたかのような、テコットの社長を退任した島耕作。会長編はいきなり老けていてびっくりした。一ヶ月でここまで表現を変えるのはいかがなものかと思ったが、とはいえ、島耕作シリーズは昇進・昇格するたびに顔のシワや白髪の量、着る服のグレード感が変化してきた。
ややネタバレではあるが、出社してからの、国分新社長、万亀相談役との打ち合わせから本作品は始まる。ここで業務配分についての話し合いがある。島耕作はここで、「社業30%財界活動70%」を宣言している。そう、社長編の後編から予想していたことではあるが、会長編はどうやら、財界活動、および政治とのつながり、社会貢献活動、さらにはシニアの生き方、日本社会のこれからがテーマになりそうだ。
島耕作はビジネス雑誌の漫画版のような役割も果たしている。第1回では実在の団体や企業集団をもじった例を出しつつ、経済団体の役割を丁寧に説明している。どうやら、『会長島耕作』は、島耕作の政治家版と言われた『加治隆介の議』に近い作品になりそうな予感である。天下国家を論じる作品になるのではないだろうか。第1話は、あくまでイントロダクションではあったが、おそらくその方向性であろう。
個人的には、これは良いことだと思っている。ソーシャルデザインが難しい時代ではあるが、とはいえ、いま必要なのは天下国家を論じることである。この国の前途をどうするか。これはいまそこにある課題である。『会長島耕作』にはその部分の提言を行うことが期待される。下手に経済評論家たちに提言をさせると、中途半端なものしか出てこない。SF(サラリーマンフィクション)ならではの大胆な提案を期待したい。いや、島耕作シリーズではこれまでも社会のビジョンを提言してきたが、いちいちそこで描いた内容がその後、現実となっていて、こわいのだけれども。
島耕作は読まない連中(読み込んでいない連中)からいい加減な批判を受けてきた。昭和の物語だとか、出世・成功・情愛というトリコロールを描いたものだとか、女性がすべてを解決するとか。ただ、これらのいい加減な批判は最近の島耕作には当てはまらない。
いってみれば、たかが漫画である。しかし、されど漫画である。世界は、コンテンツで動いている。この作品が果たす、我が国のソーシャルデザインに対する提言に私は激しく期待する。
ぜひ、騙されたと思って、第一号と、できれば島耕作全巻を読んで頂き、サラリーマン社会のこれから、そして、その合理性と今後の論点を直視して頂きたい。