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「批判」は「言い訳」と吐き捨てた全米オープン連覇の王者ブルックス・ケプカの「戦うに足る発言」の是非

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
タイガー・ウッズも全米オープンのコース設定とUSGA批判を口にしたのだが、、、(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 全米オープン3連覇に挑むブルックス・ケプカの発言が大きな話題を呼んでいる。

「エクスキューズは聞きたくない」

「黙ってプレーするのみだ」

「フェアウエイとグリーンを捉えていれば、何も問題はないはずだ。それができていないってことは、戦うに足るプレーをしていないということだ」

 ケプカは「戦うに足る=good enough」という言葉を繰り返していたが、これが、なぜ、大きな注目を集めているのか。まずは、その経緯をざっと説明しよう。

【コース設定への批判の声】

 全米オープンのコースといえば、「狭いフェアウエイ、深いラフ、固く速いグリーン」を擁し、メジャー4大会の中でも1シーズン全試合の中でも「最も難しいコース」と思われ続けてきた。

 しかし、選手たちの間では、その認識が徐々に変化し、「難しいコース」ではなく「アンフェアなコース」「アンプレアブルなコース」になっているという批判の声が年々高まっている。

 そこで米ゴルフダイジェスト誌がメジャー優勝者16人を含めた米ツアー選手やキャディ、関係者など57人を対象に調査したところ、その大半が批判的な意識を抱いており、過去にボイコットを真剣に考え、今でも考えている選手がいることが判明。世界のゴルフ界を驚かせた。

 「難しすぎる」という批判の声は、私が渡米した90年代にも、すでに上がっていた。「アンフェアだ」という声も、当時からしばしば聞かれていた。

 しかし「飛ばない人には攻略できなくて難しすぎる」と声を上げたところで、飛距離が出ない選手による負け惜しみと受け取られるのがオチ。そんな一部のショートヒッターの負け惜しみをまともに受け止める仲間は少なく、まともに取り上げるメディアも皆無に近かった。

そもそも、権威あるUSGAを真っ向から批判する選手はきわめて少なく、「泣く子も黙るUSGA」と言われていた。

 だが、飛ぶか飛ばないかにかかわらず、むしろパワーヒッターたちが先頭を切るかのごとく、あからさまに全米オープン批判、USGA批判を口にするようになったのは、2015年大会が発端だった。開催コースとなったチェンバーズベイはインフラも芝も人材も整っていない準備不足のコース。「史上最悪だった」と選手たちの不満が爆発した。

 2016年大会では最終日の優勝争いの真っ只中でダスティン・ジョンソンがルール上の珍事に巻き込まれ、USGAは優勝したジョンソンに謝罪するという史上初の珍事、いや失態を演じた。あのときUSGAの権威と信頼は一気に大きく失墜した。その直後、「全米オープンをボイコットしようと考えた」という選手が、ジョンソンやローリー・マキロイを含めた15人ほどに上っていたそうだ。

【ミケルソンも、ウッズも!?】

 全米オープンを制すれば、生涯グランドスラム達成となるフィル・ミケルソンにとって、全米オープン優勝は悲願だ。それなのにミケルソンは長女のハイスクール卒業式を優先し、2017年大会を欠場。昨年大会ではシネコックヒルズの干上がったグリーンに業を煮やし、まだ転がっているボールをパターで打ち返す奇行を演じて大騒動になった。だが、それらはUSGAに対する抗議行動だったと考えると、「なるほど」と、とりあえず頷ける。

「これまで僕は全米オープンに29回出た。でも、雨が降らない限り、大会のコース設定は100%ひどいものだった。雨が頼り。唯一、雨だけがコースをなんとかしてくれていた」 

 きわめつけはタイガー・ウッズ。彼も全米オープンとUSGAに対する不満を口にした。

「USGAがティの位置を日々動かすコース設定はまったく理解できない」

「全米オープンは、昔は耐え忍んでプレーするコースだったけど、今はトリッキーなコースに変わってしまっている」

【USGAの対応と反論】

 USGAはしばらく沈黙を通していたが、全米オープン・ウィークを迎えた今、ようやくUSGAシニア・マネージング・ディレクターのジョン・ボーデンハマー氏が口を開いた。

「私たちは選手たちの声に反論しようとは思っていない。みんなの声に耳を傾けることが大事。たくさんの全米オープン・チャンピオンたちと話し合い、彼らの意見を取り入れている。誰もが素晴らしい全米オープンを望んでいる。それは今年、実現されるはずだ」

 大会2週間前からUSGAはぺブルビーチ所属の「伝説のキャディ」、ケーシー・ボインズに助言を求め、今週は元米ツアープロのジェイソン・ゴアを雇い入れ、「選手たちに接し、同じ言語で話をして意見を聞く係」を任命。そしてゴルフ・レジェンドのニック・プライスにもコース設定のアシスト役を依頼するなど、さまざまな努力を重ねている。

【批判するなら勝って言うべき】

「全米オープンがメジャーじゃなかったら、ボイコットしていた」

 米ゴルフダイジェスト誌の調査結果の中には、そんな声が多かったという。だが、大会開幕を目前に控えた今、ボイコットした選手は皆無だし、ボイコットしようとしている選手も、おそらく、皆無であろう。

 仮に数人がボイコットしたところで、補欠はたくさん控えている。それに、全米オープンは、オープン競技であり、腕自慢の若いプロ、ローカルのプロ、アマチュアを含めれば、「選手が集まらないから大会が開催できない」という事態には、将来的にも決してならない。

 どんな顔ぶれになったとしても、優勝すればメジャーチャンピオン。上位入りすれば、ビッグな賞金、ビッグなポイントが手に入る。トッププレーヤーがボイコットすることを手ぐすね引いて待っている人は常に大勢いる。そんなこんなを考え合わせれば、ボイコットは賢明な抗議行動とは考えにくい。

 そんなふうに批判を口にしていた選手たちが少しばかり冷静に現状を見据え、とにかく今年のペブルビーチに挑もうとしていた矢先に飛び出したのが、冒頭のケプカの「戦うに足る(good enough)発言」だった。

「エクスキューズは聞きたくない」

「黙ってプレーするのみだ」

「フェアウエイとグリーンを捉えていれば、何も問題はないはずだ。それができていないってことは、戦うに足るプレーをしていないということだ」

 欧米メディアの中には、さっそくケプカのこの発言に頷き始めた向きもある。「なるほど、選手たちから上がっていたのは批判というよりエクスキューズなのだな」、と。しかし、ケプカの発言すべてに頷くとすれば、マキロイもミケルソンもウッズも、みな全米オープンを戦うに足るプレーができていなかったことになり、「それは言い過ぎだ」という声は、言うまでもなく噴き出している。

 そして、「ケプカはこの2年優勝しているから、そんなことが言えるんだ」「チェッ!」と突き放して見る向きは、もちろん多い。

 だが、その通り、ケプカは自分自身が2年連続で勝っているからこそ「自分は戦うに足るゴルフができていた」「他選手はそれができていなかった」と言い切ることができる唯一の選手である。

 突き詰めれば、勝てば官軍――それが勝負の世界だ。

 全米オープンを向上させるため、コース設定を改善させるため、意見を出し合うことは素晴らしい。だが、実力を実証せずして、不平不満を「多勢」という力でぶちまけるのは、これまた賢明ではない。

 何にせよ、今年のペブルビーチに批判の声が上がらないことを願ってやまない。だが、もしも批判的な見方が出るのだとしたら、それらは是非とも優勝会見で優勝者の口から発してほしい。誰よりも「good enough」なプレーで勝利したチャンピオンの言葉なら、誰もが頷くはず。

 そう願いつつ、初日のティオフを待とうと思う。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、長崎放送などでネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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