子供も老人も容赦なし、金正恩氏が進める「住民暴露会」の恐怖
北朝鮮は故金日成主席と故金正日総書記、そして現在の金正恩党委員長に至る世襲3代の独裁国家だが、この3人の統治スタイルには、時代背景を映した特徴的な違いがある。
薬物使用と売春
まず、金日成氏は政敵を掃滅することに血道を上げた。ソ連派や延安派などのライバルたちを、党の公式会議の場で「反党反革命分子」「宗派分子」と決めつけて排撃。治安機関に一族郎党を逮捕させ、文字通り社会から消し去った。
金正日氏が権力を実質的に継承した1980年代までには、彼の政敵となり得る勢力はいなくなっていた。それに替わり、当局の警戒対象となったのが国民の「心」だ。東欧社会主義圏で起きた政変の影響が、国内に及ぶことを恐れたのだ。それを食い止めるため、彼は秘密警察などを使って国民の思想を絶えず「点検」し、動揺や反抗心のうかがえる者は政治犯収容所に送るなどした。
では、金正恩時代の特徴は何か。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)の敏腕記者で、自身も脱北者であるムン・ソンフィ氏によれば、「住民総会」「住民暴露会」などと呼ばれる人民裁判であるという。
住民総会とは、簡単に言えば「吊し上げ」だ。役場の前や学校の運動場に舞台を設置。当局の意に沿わない言動を見せた人々をそこに上がらせ、他の住民たちに糾弾するよう強要。その後に司法機関に逮捕させるのだ。住民暴露会は、逮捕するほどでもない軽微な「過ち」を対象としたものだという。
(参考記事:北朝鮮が女子高生を「見せしめ」公開裁判にかけた理由)
金日成・正日時代にも同様のことが行われていたが、正恩時代に入り、明らかに頻度が増加。小学生から老人まで、あらゆる人々が糾弾の対象にされるようになったという。
この1月にも早速、各地で住民総会が開かれている。RFAによれば、中朝国境沿いの両江道(リャンガンド)恵山(ヘサン)市では22日に行われ、薬物使用の容疑者4人と賭博容疑者4人、売春の容疑者1人の計9人が壇上に上がらされた。いずれも、正恩氏が神経を尖らせているとされる違法行為の容疑者たちであり、国民に対する「見せしめ」効果をねらっているのかもしれない。
(参考記事:一家全員、女子中学校までが…北朝鮮の薬物汚染「町内会の前にキメる主婦」)
しかし本来、こうした違法行為の取り締まりは人民保安省(警察)の管轄であり、彼らが粛々と法の執行を進めれば良いだけだ。
わざわざ一般の人々を巻き込んで人民裁判を繰り広げるのは、住民相互の糾弾を強制することで不信感を醸成し、力を合わせて体制に歯向かうことを難しくするためではないか。
筆者は、正恩氏が聡明な指導者であるとはまったく思わないが、権力維持に関しては動物的カンを持っていると考えている。彼の独裁をひっくり返すのは、決してたやすいことではない。