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ネイマールと西村主審とスペイン大敗と――ブラジル・ワールドカップ開幕!

川端康生フリーライター

ブラジル、幸運な発進

ワールドカップが開幕した。

現地からは、期待を裏切る街の“冷静さ”に「サッカー王国、ブラジルなのだからワールドカップ一色に染まっていると思っていたのに……」と困惑気味の声も聞こえてくるけれど、(スタジアム建設をはじめとした準備の遅れやストライキといった心配を吹き飛ばし)何はともあれ無事に開幕。

何とかしてしまうあたり、やっぱり“ブラジル”である。

そのブラジルは開幕戦でクロアチアと対戦した(かつては開幕戦では前回優勝国のゲームが行なわれていたが、現在は開催国が登場して大会を盛り上げることになっている)。

前半はクロアチアの見事な戦いぶりに(相手にボールを持たせ、ブロックに入ってくると奪い取ってうまくパスを回して攻めていた)苦戦。先制を許しただけでなく、内容的にも上回られていた。

そもそも今大会のブラジル代表は、堅いディフェンスをベースに速い攻撃を仕掛けるチーム。守備を固める相手をパスワークで翻弄してこじ開けてしまうような、かつてのブラジル的なチームではない。

その意味では、ボールを「もたされて」しまったことで強みを発揮しにくくなっていた。

それでもネイマールのシュートで前半のうちに追いつき、後半PKをやはりネイマールが決めて逆転。最後はオスカルがダメ押しゴールを蹴り込んで、3対1で勝った。

絶対的な強さは感じられなかったが、自国開催のプレッシャー(しかも若い選手が多い)を撥ね返して開幕戦で勝利を挙げたことで、いいムードで大会をスタートできたことは大きい(おまけにネイマールが2ゴール!)。

次戦の相手も曲者メキシコ。簡単なゲームにはならないだろうが、ここでも勝利を挙げられれば(ましてネイマールがまたゴールを決めるようなことになれば)勢いに乗って……。そうなれば、ブラジル国内も大いに盛り上がるだろう。

(クロアチアのGKは不運でしたね。全体的にはいいプレーしてたのに、ネイマールのシュートは、スイングほどボールが来なくて早く飛んでしまい、オスカルのシュートは、先に蹴られて間に合わず……)

西村主審の「誤審」

その開幕戦で物議を醸したのが、ブラジルの2点目(つまり決勝点となった)PKの判定。

笛を吹いたのが西村主審だったこともあって、日本でも大きな話題となっている。

問題のシーンは69分。

ペナルティエリア内のブラジルのFWフレッジにグラウンダーのパスが出る。フレッジはクロアチアDFデヤン・ロブレンを背後に背負いながら、これを右足でトラップ。ボールは少し浮いたが、そのまま反転して左足でシュートを打つか、ポストプレーで味方に落とすか、という場面だった。

ところが、そこでフレッジはトラップした後、反転しながら後ろ向きに転倒。その瞬間、ホイッスルが響き、西村主審がペナルティスポットを指差して、PKが宣告されたのである。

当然、クロアチアの選手たちは怒った。実際、画面を見ていても(とてもPKをとるような)プレーには見えなかった。

しかし、VTRで見れば、デヤン・ロブエンの左手がフレッジの肩にかかって引っ張っているようにも見える。

いや、確かに左手はかかっていて、まあ、倒れるほどではないかもしれないが、とりあえず引っ張ってはいたのである。

ここでポイントとなるのが、サッカーには「ルールの変更」とは別に、「ジャッジの傾向」というものがあることだ。ルールそのものは変わっていなくても、ジャッジは微妙に変わることがある。

この傾向が(普段からサッカーを見ている人は御存知だろうが)実は最近「手を使ったディフェンスはファウルと判定する」ようになってきているのだ。

その意味では、問題となったシーンでは明らかに手がかかっている以上、「ファウル(PK)」というジャッジは珍しいことではなかったといえる。

しかしだからと言って、手を使ったら何でもかんでもファウルと判定しているのか、と言えばそうではない。

それはそうだ。相手をマークするときやチェックにいくときには、多少は手が出る。それをいちいち「ファウル」と判定されてしまったら、DFはやってられない。

……となると、もはや「さじ加減」の問題。つまり、主審の判断の領域なのである。

そんなふうに考えれば、今回のジャッジは、少なくとも「誤審」には当たらないだろう(マラドーナの「神の手」のような例は、明らかな「誤審」です)。

もちろんクロアチアが怒るのは当然。逆にブラジルだったらもっと怒っていただろうし、日本だったとしてもやはり大騒ぎしていたに違いなく……。

せっかくなので、付け加えておけば、西村主審が開幕戦のレフリーに選ばれたことで日本国内はかなり盛り上がっていたが、ワールドカップでは「当該国が加盟する連盟」以外からレフリーが選ばれるのが通例。

つまり開幕戦はブラジル(が加盟する南米連盟)、クロアチア(が加盟するヨーロッパ連盟)以外、要するにアジアかアフリカか中南米のレフリーが担当することになるわけで、「西村さんが世界を代表して選ばれた」的な報道は間違っている。

また「しかも3人とも日本人」と喜んでいたコメンテーターがいたが、同国(同大陸)の3人がセットで審判を務めるのも最近の通例なので、そんな喜び方も実はズレている。

明日10時、日本初戦!

さてワールドカップも2日間が終わった。

開幕戦でブラジルが勝利を飾った後、2日目にはメキシコがカメルーンを(メキシコのDFラインでのゲームメイクは見応えがあった)、チリがオーストラリアを下し(テレビ東京の実況に、普段見ている「日本代表の中継」がいかに異常かを改めて感じた)、そしてスペインがなんと1対5で大敗するという“事件”が起きた(相手がオランダだから「好カード」だったことは間違いないが、まさかのスコア……。それにしてもオランダの「5バック」には驚いた)。

A組はなんだかんだ言ってもブラジルが1位抜けしそうだが、クロアチアもメキシコも素晴らしいサッカーをしていたので2位争いはし烈。予測不能だ。

そしてB組はもっと混沌。なんせ初戦を終えた時点で、スペインが得失点差マイナス4.スペインの次戦、チリ戦がすでに気になってしかたないし、うまく勝ち抜けたとしても、決勝トーナメント初戦で(A組1位の)ブラジルと(B組2位の)スペインがぶつかってしまう可能性が……などなど話題は尽きない。

そんな中、もっとも印象的なのが「ハイスコア・ゲーム」の多さ。ここまでの4試合、引き分けがないばかりか、すでに15得点が生まれているのだ。

「負けない」ことを念頭に慎重に戦ってもおかしくないグループリーグ初戦でこの“打ち合い”である。

これが今大会の傾向なのだとすれば……日本代表にとってはいい流れだと思う。日本は伝統的に守り勝つことが苦手な上に、いまの代表は多得点試合で競り勝つことを得意としているチームだからだ。

2対1とか、3対2とか、そんなゲームになれば、日本の持ち味は発揮しやすくなる。

その日本の登場は明日。大事な初戦(本田の状態は気がかりですが)、どんなゲームをして、どんな結果になるのか。

相手はコートジボアール(メンツが気になる)、ちょっと予想が難しいチームである。

キックオフは10時(日曜日、みんなが見やすい時間)。

まずはゴールを、そしてできれば勝利を――。

フリーライター

1965年生まれ。早稲田大学中退後、『週刊宝石』にて経済を中心に社会、芸能、スポーツなどを取材。1990年以後はスポーツ誌を中心に一般誌、ビジネス誌などで執筆。著書に『冒険者たち』(学研)、『星屑たち』(双葉社)、『日韓ワールドカップの覚書』(講談社)、『東京マラソンの舞台裏』(枻出版)など。

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