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安倍首相の印象操作-記者会見で黒ファイルを見るタイミング

渡辺輝人弁護士(京都弁護士会所属)
安倍首相とプロンプター(写真:ロイター/アフロ)

通常国会が6月18日に閉会したところ、6月19日(月)18:00~安倍首相が記者会見を行いました。各種世論調査で支持率の急落が伝えられた後なので注目はしていましたが、支持率急落の要因の一つにもなっていると思われる共謀罪(政府がテロ等準備罪と称するもの)法案が参議院の委員会採決すら省略されて本会議で可決される状況についてはほとんどテレビ中継しなかったNHKが首相の記者会見は丸々中継したので、その点をまず驚きました。

記者会見の内容について、評価は様々でしょうが、筆者は報道機関各社の記者の質問の手ぬるさにとにかく驚きました。そう思っていたところ、ツイッター上で、安倍首相の発言には全部カニングペーパーがあったのではないか、という旨の指摘を見つけたので、そんなことあるだろうか、と思って政府のサイトで安倍首相の記者会見の動画を見返してみました(こちらで見られます)。安倍首相の会見については政府自身が文字起こしをしており、何を発言したのかも分かります。

安倍首相がいつ原稿をめくっているか観察してみた

安倍首相が原稿に目を落としている時間をカウントする気力はさすがにありませんでしたが、安倍首相がカニングペーパーと思われる原稿をめくっているタイミングを計測するのは比較的容易です。そこで、どのようなタイミングで原稿をめくっているのか、計ってみました。表中、時刻は、政府が公表している安倍首相の記者会見の時刻を示します。安倍首相の発言は赤、カニングペーパー関係の動きをオレンジ色、司会の発言を緑、記者の質問を青で表してみました。

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記事に掲載できる画像サイズの関係で便宜的に前半と後半を分けます。

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評価

安倍首相は入室した時点で何ももっていないのに、演台上に黒ファイルの原稿(カンニングペーパーらしきもの)が用意されています。安倍首相はプロンプター(安倍首相の両脇にある、ドラえもんのタイムマシンの角部分のような形状をした透明のプラスチック板。原稿が投影されます)を用いた冒頭発言のあと、プロンプターを下げる演出をしています。なお、筆者は、細川護煕元首相がプロンプターを初めて使った首相と記憶しており、なにやら懐かしい道具です。安倍首相が冒頭発言中にやたら左右に見得を切るのも実はプロンプターを見るためと思われます。

そして、記者の質問に移った後、質問をする記者はすべて政府の側の司会者が指名しました。安倍首相は素手で入室しており、冒頭発言の後にプロンプターをわざわざ下げているので、記者の質問にぶっつけ本番で答えているようにも見えます。ところが、良くみると確かに、かなりの割合で原稿に目を落として発言をしていますね。しかも、よく観察していると、上記の表で分かるように、安倍首相がカニングペーパーらしき原稿をめくるタイミングは、きれいに、(1)安倍首相自身の発言の終了時、(2)安倍首相の発言中に発言内容が次の話題に移行するとき、(3)記者の質問がされているときであり、要するに、次の安倍首相の発言に備えるべきタイミングです。成長戦略については、発言中に原稿をめくっていますが、これは、安倍首相の発言が長かったときに発言のかなり後半になってめくっており、カニングペーパーらしき原稿一枚に発言概要が収まらなかったからだとも考えられます。

そして、カンニングペーパーらしき原稿は該当箇所を探すというより、めくる動作の度に一枚ずつ安定してめくっているように見えます。記者たちの質問が任意のぶっつけ本番のものである場合、安倍首相がこのようにタイミング良く、一枚ずつめくっていくことは中々考えがたいように思います。安倍首相自らの回答終了時にめくった原稿をその後の記者の質問でそのまま読んでいるように見える場面もあります。最後の場面などは、安倍首相がめくる動作をしたところ原稿に次のページがなくて、司会が終了を宣言する前なのに「ああ、終わった」感すら漂います(40:03)。そして司会の終了宣言のあとに黒ファイルを閉じます(40:07)。

一方の記者からの質問について、幹事社の質問で驚いたのは、今国会を総括するような質問をしているのに、国会前半で大問題になった南スーダンPKOに関する防衛省の日報隠ぺい<註:訂正しました>問題について全く触れなかったことです。その後の質問も安倍首相を鋭く追及すると言うより、全体として、安倍首相の政策宣伝の場をアシストしているように見えました。要するに、記者たちの質問にもなにやら首相官邸との馴れ合い感が漂います。菅官房長官の記者会見で鋭い追及をして有名になった東京新聞の社会部の望月記者も現場にいたようですがそもそも指名されていません。

率直に言って、安倍首相の記者会見は、記者との問答についても、官邸記者クラブとの談合で全て問答が最初から決まっており、結局、安倍首相は国民の疑問に答えているようで、徹頭徹尾、筋書きが作られた役柄を演じ、言いたいことを言っただけの可能性はないのでしょうか。そもそも、視聴者にこのような疑いをもたれる時点で、首相官邸の記者クラブに存在意義があるのか疑問が湧いてきます。そして、なるほど、都道府県知事の選挙など地方選で負けたり不戦敗をしたりを繰り返しているのに(当然ですが地方選挙に官邸記者クラブは直接関係ありません)、なぜか選挙に強い印象がある安倍政権の権力構造を見た気がしました。

さっそく裏切られた「丁寧に説明」

安倍首相は、加計学園の獣医学部を今治市に設置することにかかる問題について、以下のように説明しました(太字強調は筆者)。

国家戦略特区における獣医学部の新設につきましては、文書の問題をめぐって対応は二転三転し、国民の皆様の政府に対する不信を招いたことについては、率直に反省しなければならないと考えています。今後、何か指摘があれば、政府としてはその都度、真摯に説明責任を果たしてまいります。国会の開会・閉会にかかわらず、政府としては今後とも分かりやすく説明していく。その努力を積み重ねていく考えであります。

今国会の論戦の反省の上に立って、国民の皆様の信頼を得ることができるように、冷静に、そして分かりやすく、一つ一つ丁寧に説明していきたいと思います。

共謀罪の強行採決と並び安倍内閣の支持率低下の要因の一つと言われている加計学園問題等の政府中枢の不正疑惑について、国会に対して連帯して責任を負っている内閣が説明責任を果たすのは当然のことです。

しかし、6月20日、自民党はさっそく、国会の閉会中審査を拒みました。

自民党の竹下国対委員長は、民進党の山井国対委員長と電話会談し、民進が求めた閉会中審査開催を拒否した。

2017年6月20日共同通信

一部には「安倍首相は総理として記者会見に臨んだのであり国会のことは国会が決めること」という意見もあるようですが、記者会見の記者の質問には都議選に関することもあり、自民党総裁でもある安倍首相はその質問に回答をしています。真摯に説明責任を果たす、といいながら、国会の閉会中審査を拒むのは、安倍首相は、記者会見で、また一つ虚偽の発言をしたことになると思います。

そして、6月19日夜のNHKクローズアップ現代で、国家戦略特区諮問会議で、獣医学部の新設が決定された2016年11月9日より前の同年10月21日、萩生田光一内閣官房副長官が、

  • 四国に新設し愛媛大学との連携
  • 総理は「平成30年4月開学」とおしりを切っていた
  • 加計学園事務局長を浅野課長の所に行かせる

という内容を含む発言をしていた旨を文部科学省がまとめた「10/21萩生田副長官ご発言概要」というメモが曝露され、文科省はたまらず本物と認めました。これでは、萩生田副長官の国会答弁が大方虚偽であったことになってしまいます。

萩生田副長官と言えば、国会の実質最終日の答弁で、安倍首相と加計孝太郎氏が「腹心の友」だったことを知らなかった旨の発言をした途端、自身のブログに、2013年5月5日撮影のものと思われる下記のような、安倍首相・加計孝太郎氏・萩生田副長官の三人で大変仲が良さそうに写っている写真を掲載していることが発覚しました。

はぎうだ光一の永田町見聞録 2013年5月10日の記事より引用
はぎうだ光一の永田町見聞録 2013年5月10日の記事より引用

この写真についても、今国会で萩生田氏が説明する機会はありませんでした。

まとめ・野党は臨時国会の開催を求めてはどうか

結局、安倍首相の記者会見は、反省している体で国民の疑念に答えるフリをして、自分の言いたいことだけを言う印象操作に他ならないと考えます。そして、「丁寧に説明」といいながら、結局、国会の閉会中審査すらせずに済まそうとするのは、現実からの逃亡と言われても仕方ないのではないでしょうか。

日本国憲法53条は以下のように定めます。

内閣は、国会の臨時会の召集を決定することができる。いづれかの議院の総議員の四分の一以上の要求があれば、内閣は、その召集を決定しなければならない。

今、民進・共産・社民・自由の4党で、衆院の議席は4分の1以上あるようです。東京都議選も控えていますが、野党は早期に臨時国会の召集を要求して、一向に解決しない森友学園・加計学園・防衛省日報隠滅の三大疑惑を国会の場で追及してはどうかと思います。安倍政権はこの憲法の条項に基づく要求を受けたのに、国会召集を決定しないという憲法違反を犯した前科があるだけに、手を打つなら早い方がいいと思います。

弁護士(京都弁護士会所属)

1978年生。日本労働弁護団常任幹事、自由法曹団常任幹事、京都脱原発弁護団事務局長。労働者側の労働事件・労災・過労死事件、行政相手の行政事件を手がけています。残業代計算用エクセル「給与第一」開発者。基本はマチ弁なので何でもこなせるゼネラリストを目指しています。著作に『新版 残業代請求の理論と実務』(2021年 旬報社)。

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