「もうこんな国は嫌だ」と叫んだ北朝鮮女性を待つ残酷な運命
北朝鮮当局が一昨年から始めた非社会主義、反社会主義現象の取り締まり。これは、当局が考えるところの「社会主義にそぐわない行為」を取り締まるものだが、対象範囲は密輸、賭博、売買春、違法薬物の密売や乱用、ヤミ金融、宗教を含む迷信などに加え、韓国など外国のドラマ・映画・音楽の視聴など多岐に渡り、庶民から強い反発を買っている。
新型コロナウイルスをめぐる国境封鎖、貿易中断などに隠れてしばらく音沙汰なしだったが、ここに来て当局はまたもや取り締まりを始めたと、平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。
当局のグルパ(取り締まり班)は、商店など事業所の抜き打ち検査を行い、届け出た通りの営業を行っているのか、事実上の税金をきちんと納付しているのかを確認し、違反があれば許可を取り消し、事業所そのものを没収する。
今年2月末、道内の价川(ケチョン)で40代女性のワンさんが営んでいた食堂にやってきたグルパは、抜き打ち検査を行った。その結果、「国よりも個人の利益を優先して経済活動を行い、不当に利益を得た」という名目で、食堂にあった食材や、販売していた商品全てを没収した。具体的にどのような違反行為があったのかは不明だ。
しかし、ワンさんは取り締まりに激しく抵抗し、「こんなところ(国)で生きるのはもう嫌!」とわめきたてた。出動した保衛部(秘密警察)に共和国(北朝鮮)を冒涜した容疑で逮捕され、家族もろとも忽然と姿を消してしまった。おそらく、一家全員が政治犯収容所送りになったのだろう。彼女が生きて社会復帰できる可能性は、限りなく小さい。
(参考記事:若い女性を「ニオイ拷問」で死なせる北朝鮮刑務所の実態)
グルパが掲げている目標は「貧富の差を減らす」というものだ。それに従い、規模の大きい食堂や商店を営む商人、トンジュ(金主、進行富裕層)がターゲットになっている。
北朝鮮の朝鮮労働党機関紙・労働新聞は1日の1面に「経済事業において国家的利益を優先しする気風を徹底的に確立しよう」という題名の社説を掲載した。
われわれの社会主義自立経済は金儲けを目的とする資本主義経済とは異なり、あくまでも国力を強化し、人民の需要を満たすことを目的とする。わが国では、祖国の繁栄と人民の幸せな生活に資することが利潤であり、実利となる。国家的利益を離れ、個別の部門や単位の利益はありえず、経済建設において国家的要求と利益を無視して、自らの部門、自らの単位の利益のみを追求する現象は絶対に許されない。
また、「本位主義(エゴイズム)は経済建設の国の統一的指導の保障を妨害し、社会主義経済管理秩序を乱す害毒的作用をする」などとし、個人や私企業の利潤追求を否定した。今回の取り締まりも、このような文脈によるものと思われる。
商人やトンジュいじめとも言うべき現象は各地で起きている。咸鏡北道(ハムギョンブクト)の清津(チョンジン)では大規模な見本市を開催し、商品を買わせた上で、購入者の資金の出どころを探る措置を取った。
一方で、取り締まりの強化は、国際社会の制裁に加え、新型コロナウイルスの国内流入を防ぐための国境封鎖、貿易中断による外貨不足を補うために、国内の商人から外貨を巻き上げるためのものとの見方もある。
北朝鮮の国内事情に精通した脱北者は、当局が経済的余裕のあるトンジュをスケープゴートにして、経済を国の管理下に置き、税収を増やそうとする意図が含まれていると見るべきと説明した。