国道122号の通り沿い、煉瓦造りの建物が目を引く『旧田中家住宅』は、川口市立文化財センターとして公開されている国指定重要文化財です。

2005年から川口市所有となり翌2006年から一般公開されていますが、築101年を迎えた2024年の12月27日の最終開館日をもって休館期間に入り、2025年1月より耐震改修工事が開始されます。

前々から一度は訪問したいと思っていましたが、改修工事の予定を知り休館前の機会に訪問しました。

旧田中家住宅とは

かつて麦畑が広がり、良質な水資源に恵まれた土地として味噌醸造業が盛んだった南平地区。その中でも有力な存在として味噌醸造業と材木商で財を成した田中家の住宅は、大正12年（1923年）に洋館が建てられ、昭和9年（1934年）に和館が増築されました。

住宅としては県下唯一の煉瓦造3階建の建築物であり、学術的・文化的価値も評価される旧田中家住宅の洋館・和館・文庫蔵・煉瓦塀は、2018年に国の重要文化財に指定されました。

建物および庭園のようす

高級な木材、職人による高度な技術を用いて高いデザイン性を兼ね備えた建物は、一見の価値があります。

田中家では代々、建物を大切にしてきたということで目立つ大きな傷などもなく、実際に建物に入って見学することで大切に扱われてきたことが伝わります。

ここでは見どころをいくつか紹介しますが、ぜひ一度足を運んでほしいです。

洋館

通り沿いの正面玄関から入ると、商家ならではの帳場があります。帳場机の上には文字が彫られた箱も置かれていて、当時の姿がうかがえます。

正面玄関の隣に設置されている券売機で入場券を購入し、履物を靴箱に入れてから見学します。文化財の保護・保存のため、靴下を履くなど、素足では上がらないでください。

和風の玄関と帳場のとなりは洋風の応接室があります。椅子やカーテンは客人をもてなす華やかな装飾。来客が直接入室できるように専用のドアも配置されています。

2階は一変して和室の応接室です。材木商も営んでいたため建築木材にこだわり、竿ぶち天井には貴重な屋久杉が使用されています。他にも檜、黒柿、黒檀といった高級木材もふんだんに使用されているそうです。

欄間の彫刻も細かく繊細なデザインが見事です。

3階の大広間。完成当時は周辺で最も高い建築物であり、芝川や味噌造蔵などを見渡せるほど眺望が良かったそうです。

上品で洗練された調度品も含めて、室内のどこを見回しても見応えがあります。

洋館の2階から増築された和館へ移動できます。

和館

和館1階の日本間では、これまで茶道体験講座などのイベントも開催されています。窓際は庭園側から注がれる光と緑が心地いいです。

庭園

回遊式庭園の池側からみた和館。交通量の多い大通り沿いの喧騒を忘れるような空間です。

庭園内の茶室は1973年に建てられ、川口の茶文化発展の中心として親しまれてきたそうです。

アートギャラリー・アトリアで展覧会が開催中

川口市立アートギャラリー・アトリアでは、旧田中家住宅－川口の商家の贅と茶の文化－ という展覧会が開催中です。

当時の生活がうかがえる田中家ゆかりの品や茶道具が展示されています。照明の光を反射して漆と金が輝く茶道具に見とれてしまいました。

また、展覧会では地域の歴史や田中家の歴史、旧田中家住宅の建築に関する詳細も解説されているので、展覧会の後に旧田中家住宅を訪問するとさらに理解が深まります。

大正時代から昭和初期にかけて貴重な建材や建築技法を用いて建築された旧田中家住宅。12月27日の最終開館日をもって長期休館期間に入ります。大規模改修工事前の姿を見学できる貴重な期間に、ぜひ訪れてみてください。