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歩行者妨害「お先にどうぞ」で行ったら違反に!撤回に至るまでの全記録(担当弁護士より)

藤吉修崇弁護士・税理士

今回の記事はこんな内容

今回の記事では、歩行者妨害で切符を切られたと言う方(以下「相談者」と言います。)から相談を受けた弁護士である私が、違反を取り消してもらうまでの一部始終を紹介すると言うものです。

この件については、朝のニュース番組をはじめ複数のメディアで取り上げられ、あなたも少なからずどこかで目にしたことがあるかもしれません。経緯の詳細やことの顛末はどのメディアでも述べられていないので、私が担当した弁護士として詳細を紹介したいと思います。

歩行者妨害とされた相談者の行為

相談者の運転について

令和4年6月25日、都内のある駅前のロータリーでゆっくり車を進行、横断歩道で2人の歩行者を認めたため、その手前で一時停止をしておりました。1人の通行者は右から通行をしましたが、左から横断途中の歩行者が先に行ってくれと合図をしたので、歩行者は戸惑いながらも譲り返したところ、再び先に行けと言う合図を行ったため、十分な安全を確認した上で車をゆっくり進行させました。ところが、ロータリーをぐるっと回ったところで、警察に違反という事実を伝えられたのです。

警察官から驚くべき事実を伝えられる

相談者は当然譲られたから行ったんだと主張しましたが、「歩行者がいる以上譲られたとしても行っちゃったら違反です」とはっきりと警察は述べました。

譲られても違反になるのか!?

実は「お先にどうぞ」と譲られて進行しても違反になるかと言う事は、以前からSNS上でも議論になっておりました。ちなみに、私自身は法律家として、後に解説しますが違反にはならないと考えております(直前で一時停止することは前提ですが)。

私はYouTube上で以前に警視庁と山梨県警に確認したところ、違反かどうかは明言されなかったのですが、両者ともに基本的にはそういったケースでは切符は切らない運用をしていると言う回答を得ております。

法律上はどのように規定されているの?

道路交通法38条1項ではこのように規定されております。

車両等は、横断歩道又は自転車横断帯に接近する場合には、当該横断歩道等を通過する際に当該横断歩道等によりその進路の前方を横断しようとする歩行者又は自転車がないことが明らかな場合を除き、当該横断歩道等の直前で停止することができるような速度で進行しなければならない。この場合において、横断歩道等によりその進路の前方を横断し、又は横断しようとする歩行者等があるときは、当該横断歩道等の直前で一時停止し、かつ、その通行を妨げないようにしなければならない。

まずは横断歩道がある場所では直前で停止できるような速度で走行しないといけません。

そして、横断歩道に歩行者がいる時、もしくは横断しようとしているときは次の2つの義務が規定されています。

  1. 直前で一時停止をすること。
  2. 歩行者の通行を妨げないこと。

以上です。あれ?と思いませんでしたか?

そうなんです。どこにも、車両が先に行ってはダメとは書いていないし、歩行者を先に行かせなければダメとも書いていないのです。

お先にどうぞをされた場合はどうなの?

仮にお先にどうぞと譲られた場合でも、一時停止をしないで通行してしまうと、1の義務を果たしていないので、違反ということになります。

では一時停止して譲られた場合はどうでしょうか。条文上は通行を妨げないという規定ですので当然譲られた場合に進行した場合「通行を妨げた」と解釈するのは無理がありますよね。私は法律家として断言しますが、「一時停止→通行人が譲る→進行」の場合に妨げたと解釈されることは裁判所では絶対にないと断言できます。

当然急停止した場合などの極めて例外的な場合は違反となる余地もあるでしょう。過去に十分な距離を取らずに一時停止したものを違法とした(ただしあくまで1の義務違反です)判例があります。

切符を切った警察官に電話で確認をすると

今回、相談者はしっかりと一時停止をしていることはドラレコでも確認ができたので、担当の警察官に電話をしてみることにしました。そうすると、信じられない答えが返ってきました。「現場で違反を認めたのでドラレコは見ない。現場ではサインをして認めていたので、事後否認とし扱う」と。そして、もっと驚くことに道路交通法の歩行者妨害の規定を十分に理解しているとはとても言えない感じでした。詳細はこちらの動画をご覧ください。

仮に事後否認となると、後は検察官判断に委ねられ、書類送検されたうえで、起訴か不起訴か判断されることになります。ドラレコを見れば起訴される可能性は少なそうですが、それでも違反点数が戻る事は無いです。これでは明らかに不当です。

弁護士として闘うことに

方針について

ドラレコもしっかりと残ってるような状況でこの警察官の対応はとても容認ができません。そこで相談者とも協議して、下記のような対応をとることにしました。

  1. 反則金は期限までに支払わない
  2. 警察署長宛にドラレコ画像と文書を送る

反則金を支払わないことについて

実は反則金を一度払ってしまうと、手続き上二度と争うことはできなくなってしまいます。こちらは判例があります。そこで、起訴される危険はあるけれども、あえて支払わないという選択をすることにしました。

署長宛にドラレコと文書を送る

そして、警察署署長に私の事務所からドラレコ画像をCDに焼いて、文書と共に配達証明付き郵便で送付しました。なお、送った文書は下のツイートの通りです。

違反は撤回へ

署長に文書を送って1週間ちょっと経過後警察署から電話がかかってきました。その内容としては違反処分については是正をするので、一旦反則金通知書を返却してほしいということでした。そこで、早速私たちは相談者と共に担当の警察署に返却してきました。ただその時は処分の内容と言うのは明確にはされず、後日警察署から電話をすると言うことでした。

そして、それからさらに1週間経って電話がかかってきて、是正処置をするので来てほしいと言うことでした。あらかじめどのような処分になるかを確認したところ、違反は撤回すると言うことでした。そして警察署に行き、めでたく違反は撤回されるに至ったのです。その際、上司の方3人で対応をいただいたので、いくつかこちらであらかじめ用意をした質問をしたところ、回答の要旨は以下のようなものです(なお、録音は許可されませんでした)。

  • 今回のケースでは違反にはならない。
  • 一時停止をして譲られて進行した場合は原則的には違反にはならない、ただし他の歩行者がいた場合でその歩行者の妨害をすれば当然違反になる。
  • 今回の件については謝罪をする(丁寧に謝罪していただきました)。
  • 今後現場の警察官には指導を徹底する。
  • ドラレコ画像が提出されれば今後は必ず確認するようにする。

今回の意義

今回のこの挑戦は、明らかに点数稼ぎのような取締に一石を投じたと言えると考えております。また、絶対謝らないと思っていた警察から謝罪をしてもらったことも何らかの抑止になればいいと思っております。

もちろん、事故を防ぐことが第一の目標だし、警察官のおかげで我々の治安は守られていることは当然忘れてはいけないのですが。

弁護士・税理士

誹謗中傷の削除と投稿者の特定を行なっている弁護士。Yahoo!でも主に誹謗中傷関連の発信を行なっている。これまで扱ってきた誹謗中傷問題は1000件以上。また、税理士としても活動をしており、税務調査などの対応を行なっている。そして、登録者3万人を超えるYouTuberでもある。

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