ラブホテルに「ひきこもり」当事者を雇用する理由
首都圏を中心にチェーン展開しているラブホテルの社長が、何人もの「ひきこもる」当事者を「戦力」として雇用し、自身の綴るブログでも注目されている。
ホテルに当事者たちを雇用しているのは、ラブホテルやレジャーホテルの運営、管理代行を行う「株式会社カイリゾート」の三浦純健社長(49歳)。
びっくりするのは、同社のホームページを開くと、<当ホテルでは、引きこもりの方の採用を行っています。引きこもりの方、弊社で一緒に働きませんか!?>という[採用情報が目に飛び込んでくる。
採用を始めたきっかけは、ある女性からの電話だった。
「採用の広告を見たのですが、、、、実は私ではなく、うちの息子なのですが、、、」
そう口ごもる母親に、三浦社長が、「本人からお電話いただけないのは、なにかご事情がおありなのでしょうか?」と尋ねると、「実は、もう2年も、ひきこもっていて、、、」
採用された息子は、当初「朝、起きられない」「通勤電車が苦手」「休憩時に気を遣い疲れる」「人の目を見れない」などと言って、仕事に慣れるまでに時間がかかった。
しかし、その息子は少しずつホテルの戦力となり、現在も、あるホテルのリーダーとして活躍しているというのだ。
「最近、現場では、ひきこもっていた方も多い。会ってみて、たまたまの流れの中で、働いていく中で当てはまったんです。お節介のレベルであって、支援ではない」
三浦社長は、そう説明する。
ホームページにも、こう紹介されている。
<その後、弊社の採用活動では、年齢、性別、経験を問わず行うようになり、その結果、面接では力を発揮できない引きこもりの人も採用し、その後、戦力になっています。>
三浦社長の目には、元ひきこもり当事者たちも「毎月、稼ぐことが、自信につながっている」ように映る。
実際、日々の生活に安心が生まれることによって、だんだん外に出て、普通に働けるようになったのを見てきた。
上手く当てはまる背景にあるのは、お客も従業員も「お互いに見られたくない」という心理だ。
「ラブホテルで働くということは、ルームさんという部屋をつくる(掃除して仕上げる)仕事の繰り返し。お客様に接することが少ないので、どちらかというと人付き合いが得意でない人が多い」
ラブホテルは、フロントであっても「対面しないのが仕事」だから、ひきこもり系の人たちにとっても親和性は高くなる。
三浦社長によれば、ホテルの仕事は、上の人に気に入られるかどうかよりも、人の見ていない所でも真面目にこなせるかどうかが問われるという。
「つくった部屋を見ると、きちんと仕事したかどうかはわかる。それのみで評価される。そこに、ウソはないんですよね。だから採用の際、履歴書に書いてあることや過去の経歴は、あまり関係ないんです」
もちろん、当事者のすべてが、この仕事に当てはまるわけではない。ただ、三浦社長によれば、ひきこもっていたかどうかを意識して採用してきたわけではないという。ひきこもる傾向のある人の特性とホテルの仕事との親和性が高いことは、結果的にわかったことだった。
三浦社長の親戚にも、ひきこもっている人がいた。そこで、車で一緒にホテルに行き、そのまま泊まり込みで仕事をしてもらった。
「ホテルのメリットは、泊まり込みで仕事できること。館内には、従業員が泊まれる場所が結構あるんです」
とくに夜の時間は、出入りや注文も少なく、1人で誰とも関わらないでいられるという。なるほど、家庭に「居場所」がなく、自立を求める当事者にとっても、この職場環境が家を出る選択肢の1つになるかもしれない。
同社では現在、11軒のホテルで、仕事に興味のある「ひきこもり当事者」に「一緒に働きませんか?」と呼びかけている。
また、三浦社長の綴る「ラブホ社長のバリ島海外不動産投資入門」は、毎日千アクセス以上を稼ぐ人気ブログになっている。
「今はひきこもってる人たちも、皆で集まって、一緒に仕事するような感じになると、お互いに補えて皆がメリットになる“ひきこもりギルド”ようなものをつくり出せるんじゃないかと思うんです」
こうしてラブホテルで働くことが、真面目で細かいところにも目が行き届く「ひきこもり」心性を持つ人と、様々な理由で親和性が高かったというのは、現場だからこその「発見」だった。
政府は「地域共生社会」の実現を掲げているが、三浦社長のように現場での実践から、ひきこもる人の特性を見抜き、理解して、社会とつなぐ触媒的な役割を果たす人の存在が、これから重要になっていくことは間違いない。