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オンライン・プラットフォームを利用規約で手なずける

八田真行駿河台大学経済経営学部教授
(提供:アフロ)

我々が日々使っているオンライン・プラットフォームには、多くの場合サービス利用規約(Terms of Service, ToS)が定められている。例えばYahoo! JAPANの利用規約はこれだ。

ユーザは、利用規約を読み、理解、同意した上でそのサービスを使っているということになっている。ヤフーの利用規約はレイアウトも含めてまだ読みやすいほうだと思うが、それでも長大で複雑だし、読み通したことがある人はおそらくごく少数だろう。

利用規約を理解して同意したということになっていても、実際には誰も理解しておらず、適当に判子をついているに等しい、というのは以前から問題視されていた。海外も状況は同じで、最近の研究によれば、大手ネットサービスの利用規約の複雑さや語彙のレベルは学術論文のそれに匹敵し、到底素人が理解できる水準ではないとのことである。なので、誰も理解していなくても何ら不思議ではない。利用規約は契約書の一種なので、複雑になること自体はやむを得ない面もあるが、ユーザを煙に巻くために、あえて複雑怪奇な文章にしているふしもある。

しかし、例えば個人情報やプライバシーの扱いは利用規約で規定されているわけで、自分の情報を自分で守るという立場からすれば、読んでも分かりませんでしたでは済まないのも確かだ。利用規約は、これまで基本的にオンライン・プラットフォームの運営側が一方的に定めていたが、今後はユーザの立場から厳しく監視し、物申していかなければならない。そのためには、どうすれば利用規約がユーザにとって分かりやすく、扱いやすいものになるのかを考えていく必要がある。

その際ヒントになるのが、国連の「利用規約と人権に関する勧告」(Recommendations on Terms of Service & Human Rights)だ。2015年に議論されて2016年に国連のインターネット・ガバナンス・フォーラム(IGF)で発表されたもので、

  • プライバシー
  • 表現の自由
  • デュープロセス

を基本に、個人データの収集や扱い、利用規約自体の扱い(全く告知することなくいつの間にか利用規約をアップデートしている事業者も結構いる)、監視の程度、ブロッキングやテイクダウンといった政府からの要求への対応、未成年者の保護など、ユーザの人権を重視した好ましい利用規約のあり方を定めたガイドラインとなっている。かつて無秩序に乱立したオープンソース・ライセンスが、オープンソースの定義に準拠したものにだんだん収斂していったように、各プラットフォームの利用規約も次第にこのラインに落ち着いていくとよろこばしいと思う。

ただ、個人的には、もう少し「技術的な」解決策もあるのではないかと思っている。注目しているのはTerms of Service; Didn't Readというプロジェクトで、奇妙なタイトルはToo Long;Didn't Read(TL;DR)、「長すぎて読めねえよ」というスラングのもじりだが、「同じプラットフォームが運営するサービス間で個人情報の共有を認めている」、「プラットフォーム側がいつでもアカウントを停止できる」、「匿名でのアクセスを認めている」などといった利用規約の典型的なポイントをくくりだし、それに基づいたサービスの格付けをコミュニティ・ベースで行っている。それだけだと大して面白くないのだが、FirefoxやChromeといったブラウザ向けのアドオンも開発していて、格付けのあるサイトへ行くと自動的に評価とポイントが表示されるという具合になっているのが面白い。利用規約の更新を自動的に追跡する仕組み(TOSBack)も用意していたり、なかなか良く出来ている。

ToS;DRアドオンでYouTubeを評価している様子(筆者撮影)
ToS;DRアドオンでYouTubeを評価している様子(筆者撮影)

まだ発展途上のプロジェクトなので、例えば日本語など多言語の利用規約への対応をどうするかなどいろいろ考えるべきことがあるのだが、匿名化技術の研究が一段落したらこちらにも取り組んでみたいと考えている。

駿河台大学経済経営学部教授

1979年東京生まれ。東京大学経済学部卒、同大学院経済学研究科博士課程単位取得満期退学。一般財団法人知的財産研究所特別研究員を経て、現在駿河台大学経済経営学部教授。専攻は経営組織論、経営情報論。Debian公式開発者、GNUプロジェクトメンバ、一般社団法人インターネットユーザー協会(MIAU)理事。Open Knowledge Japan発起人。共著に『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、『ソフトウェアの匠』(日経BP社)、共訳書に『海賊のジレンマ』(フィルムアート社)がある。

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