国民の「犬野郎」批判に追い詰められた金正恩のミサイル発射
日本政府は5日、北朝鮮から弾道ミサイルの可能性があるものが発射され、日本海上に落下したと発表した。また韓国軍の合同参謀本部も同日、北朝鮮が朝鮮半島東の海上に向けて未詳の飛翔体を発射したと発表した。
北朝鮮の金正恩総書記は昨年12月27日から5日間にわたり開かれた朝鮮労働党中央委員会第8期第4回総会で、国防について「日ごとに不安定になっている朝鮮半島の軍事的環境と国際情勢の流れは、国家防衛力の強化を片時も緩めることなくいっそう力強く推し進めることを求めている」と指摘した。
また軍需工業部門に対し「第8回党大会の決定を受けて収められた成果を引き続き拡大」するよう要求した。近年、開発に力を傾けてきた単距離の戦術ミサイル戦力の充実を求めたものと思われる。
今回、発射されたミサイルの種類については明日以降、北朝鮮メディアによって公開される可能性があるが、どのようなタイプのものであったにせよ、上述した方針に沿って実施されたものと思われる。
そしてもうひとつ、最近の北朝鮮のミサイル発射には重要な意味がある。よく言われる、米国や韓国に対する軍事挑発、としてではない。ミサイルの性能向上は、金正恩氏が形を持って誇示できる、ほとんど唯一の「成果」なのだ。
経済制裁にコロナ鎖国、自然災害の三重苦で経済難が深刻化する北朝鮮の国内情勢は、まったく良いところがない。すでに本欄でも伝えたとおり、デイリーNKの現地情報筋によれば、平壌・平川(ピョンチョン)区域で昨年12月22日、のマンションの外壁に「金正恩の犬野郎、人民がお前のせいで餓死している」とする落書きが見つかったという。
北朝鮮において、このような行為は国家に対する反逆とみなされ、犯人が捕まれば極刑は免れない。北朝鮮で反体制的な落書きが見つかることは過去に何度もあったが、党総会を控えた厳戒期間中、金正恩氏を名指しした落書きに当局は衝撃を受けているようだ。
これは、いくら恐怖政治で意識をコントロールしようとしても、国民の胸の内で増幅する不満をどうにもできない現実があることを示唆している。
(参考記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面)
だからといって、国民の不満が、組織的な反体制活動につながっていくとは思えない。北朝鮮の国民監視体制は、それほど厳しいものだ。だが、金正恩氏の指導に対する国民の疑念が強まれば、独裁体制だけに、国家のすべての活動の停滞につながりかねない。早い話、「どうしてあんな指導者について行かねばならないのか」とシラケてしまうのだ。
今のところ、金正恩氏がそんなシラケた空気のまん延を防止するために打ち出せるセレモニーは、性能を向上させたミサイルの発射だけなのだ。